姉妹

西しまこ

第1話


 ずっと姉が憎いと思っていた。

 なんでもすっと出来てしまう姉。たいして努力をしていないのに、いつも成績は上位だった姉。高校受験も大学受験も、就職でさえ、すっとなんでもない顔をして越えていった。結婚も出産も子育てすら。


「まだおむつしているの? トイレに連れて行けばいいのに」

「幼稚園入る前にひらがな教えたら覚えちゃうよ」

「子どもって、記憶力がすごいから、なんでもすぐ吸収するみたい。もう九九覚えたよ」

 別に、わたしの子が出来ていないことを責められたわけではない。ただ純粋に「こうしたらうまくいくんじゃない?」というアドバイスであり、そして自分の子どもかわいさを身内だから話してしまうだけだ。

 そんなの、分かっている。

 わたしはいつもはっきりしない笑いを浮かべていた。姉が憎かった。


 そんな姉の自慢の息子が不登校になり、わたしは喜んだ。拍手喝采を送った。わたしは姉の話を何時間でも聞いた。嬉しくて嬉しくて堪らなかった。姉が不幸だから。「お姉ちゃん、大変だね。そんなの、学校が悪いよ」「翼くん、賢い子だから大丈夫だよ」「いつでも電話して、話聞くから」

 でもわたしはわたしの悩みを姉には相談しない。だって、知られたくないから。

 新型コロナウィルスが蔓延して、わたしの夫は在宅勤務になってしまった。最悪だった。わたしは夫が好きではない。ただ、姉が結婚してわたしも結婚しなくちゃ負けると思ったから結婚しただけだ。話も合わないしおもしろくないし、四六時中家にいられると本当にストレスが溜まる。しかもここは狭い社宅だ。コロナのせいで外出もままならないのに。


 ――コロナで学校お休みだね。葵ちゃんちはどんな感じ?

 姉からLINEが来る。

 ――みんなで楽しく過ごしているよ。学校なくて楽しいよ!

 ――だよねえ。うちもなんかすごく楽しそうだよ

 しばらくLINEのやりとりをする。姉のうちは楽しく過ごしているのだろう。わたしはこんなに苦痛だというのに。一緒にいるのが苦痛な夫は在宅で、あとは騒々しい小学生の娘が二人いる。休む暇なんてない。洗濯して掃除して、、朝昼晩とごはんを作って片付けをしたら、もう一日が終わってしまう。そのうえ、夫に十時と三時にコーヒーを持っていかなくてはいけない。ああ、しんどい。


 姉が憎い。姉の不幸を夢見る。

 そうすると、また一日過ごしてゆける。

 わたしはスマホをタップして、SNSを開く。

 娘が何か言っている。ああ、本当にうるさい。学校行かなくて喜んでいたのはいいのだけど、すぐにケンカをするしすぐに何か話しかけてきて、本当にうるさい。わたしは適当に返事をしながら、Twitterに書き込みをする。ネットの中にしかわたしの気持ちは吐き出せない。便利な世の中になってよかった。

 姉が憎い。今日も書き込む。




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姉妹 西しまこ @nishi-shima

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