失くし物が集まるという不思議な森『失せ物の森』。
主人公の宗助は『探し屋』として森に立ち入り、そこで「ある人物」の失せ物の木を目撃してから物語が動き出します。
森の情景の描写が細かく、においや手触り、温度感など、肌で感じられるような薄ら寒さを覚えます。
その情景に相乗して、宗助の過去の記憶が揺らいで葛藤が少しずつ見えてきます。
揺らぎを照らして導くように、紫の蝶が飛んでいきます。
演出がとにかく素晴らしく、深い深い真相へと、読者を誘ってくれるでしょう。
失くし物を探すように。
過去の自分と向き合うことは、たやすいことではありません。
そこにはつらい記憶が眠るが、目をそむけてばかりもいられません。いつかは向き合うべきなのです。
宗助が蝶を目撃したのが、きっとそのときなのでしょう。
読者も導かれるようにして、物語へと入り込めます。
真相をぜひとも見つけてください。
探し屋をしている主人公のもとには、様々な事情を抱えた依頼主たちがやってきます。
主人公が失せ物を探しに行くのは、家の中でも街中でもなく、ある不思議な森。
そこへ行けば、探し物を見つけることができます。
この物語は探偵ものとは少し違っていて、主人公が依頼をこなしながら、自分の気持ちと向き合う、温かくもあり、とても切ない物語です。
この小説を読んだ後、自分と向き合うのはとても難しいことだ、と改めて感じました。良いことばかりならいいですが、そこには罪悪感や後悔など、忘れてしまいたい記憶もあるからです。
主人公が本当に探し求めていたものは何なのか。ぜひ読んで確かめてみてください。