未来決断 -AD.2022-10-23
すべてを思い出した時、俺は成瀬ナルの腕から解放され床にへたり込んでいた。
ぼうっとしていたが、次第に意識が鮮明になってきた。
そして、ナルの姿を改めて見つめると同時に俺は平身低頭とばかりに頭を下げていた。
俺はナルと一緒にいたいと思い、時空管理局と契約を結ばないことにした。
だが結果として彼女を自分と同じ転生能力者へとさせてしまった。
これは誰がなんといおうと自分の罪である以外ない。
俺は自分の都合で好意を持っていた人を過酷な道へと落としてしまったのだから。
その場で殺害されても問題ないと覚悟を決めていた俺だが、不意に優しく頭を撫でられた。
恐る恐る顔をあげると、そこには昨夜と同じ時空管理局の制服を着たナルが立っていた。
「初めはね君のこと恨んだりもしたよ。でもね数回の転生を経験して今はこの姿のまま世界の危機と立ち向かうようになったてから思い直したんだ。」
そういいながらナルは俺の頭を両手で抱きしめてくる。
「『わたしはやっぱり久遠寺ソラが好きなんだ。』ってね。」
その声は恥じらいを感じさせた。
悠久の時を転生してきた彼女だが、今での昔のまま少女のなんだろう。
そのことに俺はどこか安心した。
「だから今回、管理局が問答無用で君を転生させようとしていることを知って慌ててこの世界へ帰ってきたんだ。」
俺は閉じていた目を開くと、ナルの身体が淡い光に包まれていることに気がついた。
「あなたの人生はあなたが決めることよ。このまま天寿を全うするのもいいし、新たな世界へ旅立つのもいいと思う。」
俺は抱きしめられていた腕を振りほどき、ナルの顔を見る。
少しずつだが全身が光の粒子へと解けていっている。
「だけど他人に自分の人生を預けてはダメ。それは例えわたしの願いでもね。」
ようやく分かりあえたことでナルの顔も涙に濡れている。
その涙さえも床に落ちる前に光と消えていく。
俺は恐る恐るナルの身体を抱きしめる。
まだ完全に光へと還元されていない彼女の身体は物理的に抱きしめられた。
俺が抱きしめてことでナルも俺を抱きしめる。
それは先程俺を吊し上げた時に比べはるかに柔らかい抱擁だった。
やがて俺の胸に顔を埋めていたナルは嗚咽をあげて泣き泣き出す。
「ソラ君とまた会えたんだから本当は一緒にいたい!」
ナルの心からの吐露を聞いた俺はこのままナルが消えてしまうまで抱きしめていようと思った。
しかし、ナルは突然俺を突き放す。
何事かと思いナルの顔を覗き込もうとした時、不意に唇になにかが触れる感触がした。
柔らかいそれはナルの唇だった。唇同士を重ねるだけの少女のようなキス。
それを最後にナルの身体は消滅した。
俺は床を叩いた。何度も何度も。
再びの喪失感は俺をある決断に導いた。
「いるんだろエージェント!」
俺はネクタイを緩めながら立ち上がり虚空に向かって叫ぶ。
その言葉に応じて管理局のエージェントが特徴のない顔を俺の前に表す。
「久しぶりですね。『クゥオン・ジ・クウ』さん。決断いただけましたか?」
何事もなかったように語りかけてくるエージェントに怒りが湧いてくる。
「俺は『久遠寺ソラ』だ。今もこれからも、忘れるな。」
怒気をはらんだ声でエージェントに叫ぶ。
能力は使っていないが、俺は相手を眼力だけで殺しかねない勢いで睨む。
「して、回答はいかがでしょう。」
そんな俺の怒りをも意に介していない様な慇懃さでエージェントが語りかけてくる。
そして再び空間にあの契約書が出現する。
俺はその契約書を一瞥する。答えはすでに出ている。
俺はエージェントに契約についての答えと一緒に渾身の右ストレートを放っていた。
蒼い瞳に映る過去 サイノメ @DICE-ROLL
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