第13話

 必要な分量の木を切り終わっても、エードさんはその手を休めなかった。


「これはな、寄り合いに持ってくんだ」


 エードさんは手のひらサイズとはいえなかなかな量の丸太(小)を重そうに抱えていた。私達は人型だから、持てる量が少ないのだ。


 それで、Gの姿に戻り、運ぶことにした。


「お前ら…。普段は美形なのに、随分あれな姿だな」


 とエードさんに言われてしまったのはご愛嬌だ。


 寄り合いという、公民館のような場所にある、荷物置き場のようなところに、丸太を置く。


 戻すのは誰でもできる…というか、やり方を知っているそうなので、小さいままだ。


「じゃあ、あの爺さんのところに行くか」


 わーい、武器だ。


 公民館(仮)を出て、かなり歩いた。もう街の外に近い頃に、その家は見えた。


 遠目には、ただの家だが、近づくとその異様さがわかる。


 すべて、金属でできていたのだ。


 なんというか、普通の鉄とは違うオーラをまとっている。


「なんかミスリルみたいな感じだね」


 とは日向が言ったことだが、たしかにそのとおりだと思う。まあ、


「あんたミスリルなんて見たことないでしょうよ」


 とは思ったけどね。


「おっさん、いるか?」


 金属の扉をエードさんが叩く。かなり音が大きいが、なかなか出てこない。


 またエードさんがドンドンと一層大きな音を立てると、ようやく扉の向こうに気配を感じた。


「なんだ、もう刃こぼれしたのか?」


 言いながら出てきたのは、カブトムシとクワガタを足して2で割ってメスにしたような奇妙な生き物だった。見覚えがある気がするのだが、なんだろう?


 まあとりあえず、甲虫だ。そしてその背中は、ミスリルのようだった(見たことないけど)。


「ん?なんだ、コイツラは?」


 いかにも頑固おやじの雰囲気を醸し出すその人(虫)は、私の方を見て眉を潜めた。


「おう、今回はコイツラに武具を作ってもらおうと思ってな」

「人間にか?」

「おいよく見ろよ、羽があるだろ?」

「本当だな」


 うーん、やっぱりこれじゃ目印としては弱いかな?


「お前ら、自己紹介をしろ」


 なんだか高圧的な態度だが、気にならないのはなぜだろう。


「私は静香、彼は弟の日向。種族はGと言って、かなり珍しいそうです」


 うむ、無口キャラが板についてきたぞ。


「ふむ。作るかどうかは後で決めるが、わしは…すまん、名は無い。おっさんでいいぞ。種族はミスリルインセクトという」


 ミスリルインセクト…。コガネムシみたいだな。そっか、コガネムシに似てるんだ。それで見たことある気がしたんだな。


「まあ、とりあえず入れ」


 中は、鍛冶場そのものだった。ここで作業していたのなら、大きな音を出さないと聞こえないだろう。


「ふむ。まずは、なんで武器…いや、武具がほしいのか言ってみろ」

「人間の街に行こうと思うんです。それで、冒険者とかもいるみたいなので、できればやってみたいな、と。もちろん魔蟲退治ではなく、人間の盗賊相手などを想定していますが」


 あ、つい喋りすぎた。無口キャラが崩壊してるよ…。


「ふむ、なぜ人間の街に行きたいんだ?」


 え…?元人間だから?いや、異世界観光してみたいから、かな。


「諸国を回って、見聞を広めたいと思いまして」

「なるほど、それなら冒険者は有利だな。いいだろう、動機もしっかりしているし、打ってやる。なにか希望はあるか?」


 ホッ。どうやら打ってもらえるようだ。


「そうですね…。防具は服として着られる軽いもの、武器は重かったり、観光の邪魔にならなければ問題ありません」


 勝手に決めちゃったけど、大丈夫かな?


 ちらっと日向の方を見ると、頷いてくれた。大丈夫なようだ。


「よし、じゃあ防具はローブで良いな。武器は、二人の特徴を見て決めるか。お前たち、身体能力はどんな感じだ?」


 鍛えたので、自身を持って披露することができた。


 その結果、


「静香はレイピア、日向は暗器がいいんじゃないか?暗器っていうのは、クナイとかそういうものだな。よし、じゃあ待ってろ」


 しばらく待つと、何やら書類を見せてもらった。


「ここに書いてあるのがローブだ。好きなデザインと色を選んでくれ」


 私は主に、制服との相性で決めた。紺色の、マントのようなもので、装飾は一切ない。

 日向はジャージなので、合う合わないはない…というか、合うわけがない。


「ふむ。じゃあ、その服まんま防具にしてやろう。日向は暗器だから、その長い服は便利だしな。ちょっと来い」


 そこで色々やったらしく、だいぶ時間がかかった。


 そして、おじさんが見せてくれたのは、何故かジャージに似合うローブのようななにかだった。


「色々考えたんだが、デザイン的にも暗器的にも、これが最適だな。じゃあ武器だが、好きなデザインを選んでくれ。日向、お前はちょっと来い」


 日向はおじさんと随分仲良くなったらしい。いいことだね。


 私が選んだのは、白いレイピアだった。シンプルなんだけど、ちょっと金の装飾がある。


 なかなかに気に入った。


 日向も方向性が決まったようなので、また後日来ることになった。


「まあとりあえず、四日後だな」

「ありがとうございます」


 帰ってからは、隣の空き地に家を建てる。


 でもそういえば、異世界観光するとか言っちゃったな。まあやろうとは思ってたけど、ここには長く居たいしな。


 深く考えるなという日向のアドバイスに従い、その日は工事で疲れた体をゆっくり休めることにした。

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あなた達は将来ゴキブリになるのよと言われ育つこと十七年、弟と異世界転生しました。 鷹司 @takatukasa

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