第12話

「なんでドワーフが?」

「虫…じゃないよね?」


 そこにいたのは、筋骨隆々のちびっこだった。かなり若いようだ。少年、と言っていいだろう。


「ああ、こいつはちょっと特殊でな。ドワーフの王国を追い出されて、魔蟲に食われかけて、虫の息だったんだよ。だから虫なんだ、こいつは」


 虫…。酷い。このドワーフの少年(推定)、随分暗い過去を持っているらしい。


「そのとおりです。それで、ご要件は?」


 こんなにあっさり受け入れるとは…。闇を感じるぞ少年(推定)。頑張れ、私は応援している。


「ああ、この姉ちゃんたちが植木鉢を作って欲しいんだとよ」

「そうですか。えっと、ローソンと言います。大工のようなものをやっているので、大工系なら、なんでもお任せください」


 し、しっかりしてるわね…。やっぱり、社会の荒波を生き抜いた少年(推定)は違うのかしら。


「よろしく。私は静香、こっちは弟で、日向よ」

「そうですか、日向さんと静香さん。よろしくお願いしますね」


 こちらこそだわ。さっきの台詞、ちゃんと無口キャラだっただろうか。


「それで、ご注文の植木鉢ですが、どのような大きさでしょうか?」

「大きさですか?えーっと…」


 大きさって…。どのくらいだったっけ。まずいな、持ってきてない。


 ちらっと日向を見ると、頷いてくれた。ホッ。


「あ、なるほど。このくらい…ですか?」


 植木鉢の形を手で作る、何も話さない日向に若干困惑しながらも、ローソンは適切な大きさを当ててくれた。

 っていうか、ローソンってあれ?あの、牛乳瓶の青いやつ。


「だいたいは」

「それは良かった。では、ご注文承りました。明日、またここへ」

「早いですね。ありがとうございます」

「とんでもない。助け合いですから」


 Oh…。闇は深いが、いい人なのね、ローソン。


「そういえば、年齢は?」

「えっ…」

「あ、失礼なことでしたか?まさかレディとか?」

「いえ、無口な方かと思いましたので、意外で…。年は十九です」

「そうですか」


 まずいぞ無口キャラが崩壊した…!っていうか、その見た目で十九かよ!


「じゃあ、よろしくな、ローソン」

「はい、エードさん」


 ローソンの店…いや、家を出ると、来たときにはまだ暗かった空が、すっかり明るくなっていた。

 十分もいなかったと思うのだが、太陽は随分と急いでいるらしい。日の出を見損ねてしまった。


「さて、他に欲しいものはないか?」


 道を歩きだしながら、エードさんが言った。欲しい物か〜。うーん、なんだろう。


「姉ちゃん、僕は武器がほしいな」

「武器?」

「うん、できれば防具とかも。僕たちって、魔蟲とか敵対するものに対する攻撃手段が、殴る・蹴る・桃の三種類しかないじゃん」

「たしかにそうね。桃も、なくなったら終わりだし…。わかったわ、エードさんにお願いしてみるわね」


 とは言ったものの、鍛冶職人なんているのだろうか?異世界で武具といえばドワーフだが、ローソンのようなレアキャラが街に二人もいるとは思えない。


「武器がほしいです。できれば、防具も。どこかでもらえますか?」

「フッフッフ。安心しろ、心当たりがある。ここは俺御用達でな、普通の客には作ってくれない頑固おやじがいるのさ」


 頑固おやじの鍛冶職人…。いいね、名人の匂いがプンプンする。エードさんは門番さんだから、そういうところにも詳しいのかな?


「そこはちょっと遠いから、建築資材を切ってからだな」

「切るってことは、森に行くんですか?」

「そうさ。まあ、ついてこい」


 大人しくついていくと、街並の中に森が現れた。


「ここで切るのさ。みんな、ここを使うんだ。それに、俺たちはやっぱりこういうところが一番落ち着くしな」


 なるほど、魔蟲の街ならではだな。


「でも、どうやって切るんですか?斧とか、貸し出されてるとか?」


 フッフッフ、という感じで、エードさんがポケットから何か取り出した。


「これを見ろ」


 言われたとおりに覗き込むと、小さな斧があった。


「これって…。ハラーさんの布団と同じですね」

「その通りさ」


 エードさんが私達には聞き取れない呪文を唱えると、斧はみるみる大きくなった。


「これでどうだ?あと2つある。お前らもやってみろ」

「私達もやっていいんですか?」

「おう。大きくなれ、と念じればいい。ただし、他の奴らに聞き取れる言語じゃだめだぞ。小さくなったこれを握ると、翻訳機能がなくなる。その場にいる誰かに聞き取られない、または意味を理解されることがなければ、成功する」


 ミニアイテムボックスのような機能を、私達も使えるってことかな?


 やってみよう。適当でいいよね。


「姉ちゃん、俺にもわからない言葉を使ってよ」


 な、なぬ!?そうか、日向にもわからないようにする必要があるのか…。しかし、そんな言語はあるか…?

 英語…はふたりとも話せるし、フランス語…もだめだな。イタリア語…そもそも話せん。

 うん、これしかない。


「日向、耳塞いでて」


 これしかないだろう。


「アブラカタブラ、私の斧は金でも銀でもミスリルでもない、その名はノーマル。大きくなれ!」


 思いついたことを適当に言うと、手の中で、みるみる大きくなる。ちょっと感動だ。


「上手いな。よし、日向もやってみろ」


 日向も問題なく成功した。なんて言ったのかちょっと気になる。私以上に長かったぞ。


「俺とハラーは、こういうふうにものを加工できるんだ。だから、いくらでも切れるぞ。よし、始めよう」


 気分はまさに、オズの魔法使いに出てくるブリキの木こりだ。木を切るシーンなんて見たことない気がするけど。


 昼ごはんの時間になるまで、私達は木を切り続けた。

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