眩いばかりの光の中で

羅田 灯油

「やい、金を出せ!」



「やい、金を出せ!」


 そんなことを口々に叫びながら、覆面をした二人組の男達が家の中へと押し入った。

 家の主人が「強盗だ」と思った時にはもう遅く、床に組み伏せられ、用意していたのであろう縄でぐるぐる巻きにされてしまった。


「ああ、やめてください! やめてください!」


 嘆くように、主人は悲鳴を上げる。

 が、強盗達は良心の呵責かしゃくを起こすことなく、家中をめるように物色して回る。


 タンス、クローゼット、電化製品……。その他、家具の裏側まで調べ尽くしてもなお、強盗達は主人の空っぽに等しい財布以外、めぼしい金目のものを見つけられずにいた。

 とうとうしびれを切らして、強盗の一人が床に転がされたままだった主人へと詰め寄った。


「おい、金はどこだ! 答えないと命はないぞ!」

「き、金庫の中に……」


 命だけは惜しかった主人は、視線で机の上を指し示す。

 家を丸ごとひっくり返したように探しても見つからなかった金庫は、例えるならば持ち手にテンキーを取り付けたアタッシュケースに似た形のもので、どっしりと机の上に居座っていた。


「これでいいでしょう。お願いです、縄を解いてください……」

「いや、だめだ。この中に本当に金が入っているのか分からない。ここで開けて中身だけもらっていく」


 強盗の一人が金庫の暗証番号を聞き出し、鍵に打ち込んで解錠した。

 ワニの口のようにぱっくり開いた金庫の中には、まばゆいばかりの金銀財宝が放つ光が――――


「な、なんだこれは! 眩しくて何も見えないぞ!」


 金庫から溢れ出たのは、両目を刺し貫くような白光ばかりで、強盗達は顔を腕で覆わなければならず、一向に金庫へと腕を伸ばせない。

 しまいには強盗達の方がりて、家から逃げ出した。


  ◇


 その後、強盗達の叫び声と白光に気付いた近所の人達の手で、主人は救出された。


「ご主人、これは一体何ですか?」


 ライトがびっしりと詰まった金庫を指差し、近所に住む一人の青年が主人へと尋ねた。


「これは私が発明した警報装置です。あまりにまばゆい光は、腕二本使ってやっと防げるもので、強盗達はたまらず逃げ出してしまった……ということですよ」


 主人は「もっとも、蓄電にも限界がありますから一時間ほどで光はなくなります」と付け加えた。


「はあ、でもご主人だってまぶしくてたまらなかったんじゃないんでしょうか?」

「だからこそ、私のような人のための警報装置ですよ」


 今は見えないまばゆい光に思いをせ、主人はふっと目を細めた。



  【終わり】


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

眩いばかりの光の中で 羅田 灯油 @rata_touille

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画