青春勉強会!

堂上みゆき

青春勉強会!

「今日のお題はこれです! 放課後、雨が降っているなか気になっている異性のクラスメイトが傘を持ってきておらず下駄箱で途方に暮れていました! あなたは傘を持っています! さぁ、どうします?」


 現実であるかどうかはともかく、フィクションの世界ではありきたりなシチュエーションだ。正解も簡単、というか他にどんな行動があり得るのか。


 解答者である盾崎水樹先輩と矛藤唯火先輩も自信満々な表情でこちらを見つめる。今回こそ期待している解答をしてくれるだろう。


「じゃあ答えてください! 傘を……」


「「差してそのまま帰る」」


 盾崎先輩と矛藤先輩が同時に同じ答えを言った。


「ん? クラスメイトと一緒に傘を差して帰るんですよね?」


「いいや。一人で帰るぞ」


「ええ。どうして一緒に帰るの?」


 期待外れというか、二人らしい解答に私は頭を抱える。この二人に期待した私が馬鹿だった。


 私たちは部活に所属していないが、青春勉強会という形で放課後に教室を借りて一年生の私が青春に関するお題を出して、二年生の先輩たちが解答を考えるという活動をしている。そうなった背景は色々あるが、取り敢えずこの二人はお互いのことを想っているはずなのにその常識外れの恋愛力のなさで何も進展がない。それが一番の問題だ。


「……一応理由を聞きます。盾崎先輩からどうぞ」


「傘を持っているのは俺。傘を忘れたのはクラスメイト。クラスメイトは学校か、折りたたみ傘を余分に持っているやつに傘を借りればいいだろ」


「ええ。わざわざ一つの傘を使うということはどちらも雨に濡れるということ。ちゃんと傘を持ってきた人が濡れる理由はないわ。だから私は一人で帰る。」


 二人は満足そうに次のお題を待つ。やはり私が喝を入れなければこの二人はいつまでも青春という問題を間違い続ける。


「違うー! 普通はそこで相合傘をして帰るの! 一緒に帰ろうっていうのが正解!」


「一ノ瀬、矛藤も言ったがわざわざ傘を持ってきた奴が濡れ……」


「自分が少しくらい濡れたっていいじゃない! 気になる女の子を濡らすよりマシでしょ!」


「男子が女子に貸す場合はそれでいいかもしれないけれど、私が貸した傘で私を濡らさないように男子が傘を差して、恩着せがましくドヤ顔されるのはごめんだわ」


「ならどっちも濡れないように密着すればいいでしょ! 正当な理由で密着できるのが相合傘の魅力! というか気になってる子じゃなくてもクラスメイトが困っているのにそのまま帰るのは薄情! 薄情者!」


「おいおい、それはただの悪口……」


「朴念仁! 本当に好きな人が困ってたらで考えてみたらどうですか?」


 盾崎先輩が何かを言おうとしたが飲み込んだ。


「好きな人に相合傘を断られたら? 惨めな気持ちになる可能性があるならそのリスクをとる必要はないと思うけど」


 矛藤先輩が言ったことは確かにそうだ。ただ……


「いつまでも核心から避けてばかりじゃ好きは好きのままだと思います……」


 だからこそ私は学んだんだ。青春について、恋について、二人に教えられるくらい。


「……そうね。気になるクラスメイトではなくて、本当に好きな人なら一ノ瀬さんが正解かもしれないわね」


「まぁ、こんなベタな展開、現実にあるか分からないですけどね」


 その日の残りの活動は雑談で終わり、解散となった。




「矛藤、ここで何をしてるんだ?」


 勉強会を解散した後、俺は先生に用事があったのを思い出したのでそれを終わらせ、下駄箱に向かった。さっきまで雨は降っていなかったのに、今はかなりの本降りだ。


「傘、忘れたのよ」


「そうか。……俺は傘を持っている」


「でしょうね。見れば分かるわ」


「……入れよ。一緒に帰ろう」


「いいの?」


「……ここでずっと途方に暮れるわけにもいかないだろ」


 俺は傘を開き、その中に矛藤を入れる。




 盾崎君の傘に入り、歩き出す。盾崎君は私の右側で傘を差しているが、私の左肩は全く濡れていない。


 私は盾崎君にできるだけ気付かれないように、盾崎君に寄り添う。


「……っ」


 けど気付かれてしまった。ただ、私も濡れた盾崎君の右肩に気付いているので引き分けだ。


「……いつもは折りたたみ傘を持っているだろ」


「今日は忘れてしまったのよ。……たまたまね。あなたもいつもは先生の用事なんて勉強会に来る前に終わらせているじゃない」


「今日は忘れてたんだよ。……たまたまな」


「……そう。しっかりしないとね。お互いに……」


 降りしきる雨の下の傘の中、正当な理由を得た私は彼の熱を感じられるように右側に重心を移し、リュックの中に入っている折りたたみ傘に心の中で謝った。

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