◇コレクター

 文化祭へ行こう。友人のS君からそんな誘いの連絡が来たのは、秋も深まる十月の半ば頃だった。文化祭ねぇ、と首を傾げる。今では二人とも社会人だ。わざわざそんな場所へ出向いて何をしようというのか。そう問いかけると、S君からは、「なぁに、高校時代を懐かしむ感じでいいじゃないか」とだけ返ってきた。


 なんでも近隣の高校で行われる学園祭のことだという。地区祭も兼ねているらしく、周辺の住民によるバザーもあるとのこと。ははぁ、S君の狙いはそれだろうかと思った。


 S君には昔から古物こぶつ収集の趣味がある事を知っている。

 それもただの古物ではない。彼が集めているのはいわゆるいわくつきの品々……具体的には、どこそこの部族が使ったという噂の〈呪いの仮面〉だとか、武家屋敷の土蔵から見つかった〈怪しげな壺〉であるとか、とにかくそんなものばかりを好んで集めていた。


 早い話が、S君はオカルトマニアなのだ。

 だから地区祭のバザーにおいても、そのような掘り出し物の品が見つかるのではないかと目星をつけているであろうことはすぐに察した。


「分かったよ、一緒に行こう。でも、学校だろう? 無関係の人間が敷地に立ち入っていいものなのかな」


「そこはそれ、地区祭だからね。むしろそういう時でもなければ勝手に入ることはできないだろうさ」


「確かに」


 S君はもっともらしく大義名分をかざしてみせた。開催日時は明後日あさっての土曜日だという。まぁいいか。ちょうど仕事も休みなので、暇つぶしがてら自分も参加することにした。



 そして迎えた文化祭当日――S君は案の定、張り切っていた。

 背中に大きめのリュックサックを背負ったいで立ちは、どう見てもただの不審者なのだが、彼によればそこに戦利品を入れて持ち帰るのだという。そうか、と納得した。確かにこんな怪しげな格好では、さすがに一人で学内に入ってゆく勇気はあるまい。


「さて、まずどこに向かおうか」


「この高校には鉄道研究会があってね。最初はそこからめようと思う」

「攻めるって……」


 敷地内には数多くの出店が立ち並んでいる。自分らが高校生だった時代とは大きな違いだと感じた。全体的に華やかなのだ。きっと、こういった文化活動に対する予算も多く組まれているに違いない。そう思った。


「なあ、これを見てくれ」


 そう言ってS君が指し示したのは、鉄道研究会が売りに出している物品の一つだった。


 ブルーシートの上に無造作に並べられたそれらは、当然ながらすべて鉄道に関するものだった。使い古しの時刻表であったり――S君によれば、これはもう廃線となった鉄道のものらしい――どこぞの駅に掲げられていたであろう錆びついた札であったり、あとはなんだかよく分からない金属部品がごろごろと転がっている。こんなものに鉄道ファンはこぞって群がるのだから、世の中なにがおカネに化けるか分からないものだ。


 そんなふうに一人感慨にふけっていると、

「これを買おう」とS君が取り上げてみせたのは、今はもう無くなった特急列車に貼られていたであろう、よく分からない表示板らしきプレートだった。


「そんなの買ってどうするんだい」


「これが貼られていた列車はね、僕の記憶が正しければ、確か車内で火災騒ぎが起きた事故車両だったはずなんだよ」


「例によって曰くつきか」


 なぜわざわざそんな不吉なものを買い集めるのだろう。やはり首を傾げていると、


「これこそってね」


 というしょうもないシャレが返ってきた。



 そのあともS君はひたすらにバザーを回っては、なにがしかこまごまと買いこんでいる。せっかく来たのだから学生が設営した喫茶店にでも行こうよと誘ってはみたのだが、彼の耳には届いていない様子だった。


「だからさ、そんなに胡散臭いものばかり買い集めてどうするのさ」


「買い集めるのが楽しいんだよ。ほら、よくいるだろう。蔵書家とかでさ、本は買うけど読まずに積んどくような人……。プラモデルのコレクターなんかもそうだな、かれらにとってはまず買うことが第一なんだ。買った時点でその趣味はほぼ満たされたようなものさ。呪物コレクターも同じ同じ。最近そんな漫画だかアニメだかも流行っているだろう?」


 そんなことを言われた。


 ああ――と、そこでようやく理解する。


「これがホントの……」


 そんなことを思ったが、口に出すのはやめておくことにした。

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文明参画短編集 文明参画 @bunmeisan

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