第33章 混ざり混ざらぬ双子色

「姉さん。どうしたらいいのかな?」

「私も考えてみる。だけれど……」

「よしよし、泣かないでいいから」

「えっ……あっ……うっ……ママ……パパ……」

ここは福井県の異少課。そこにいるのはまず異少課メンバーの六道姉妹。そして異少課の上司の輪笠永善。そして、泣いている女の子。

しかも、ただの泣いている女の子ではなく

「魔族と戦うのが異少課のメインだからさ、こういうときの対応教えられてないんだよね。あーよしよし。とりあえず泣き止ませるの手伝ってくれる?」

「分かりました。えっと……ほら、お話してあげるね」

彼女は魔族だ。人間とは大きく違う形をした耳で分かる。

少し前、町の中で六道姉妹が彼女を見つけた。その見た目から魔族であることは確実であり、こんな町の中で放って置くと民間人を不安にさせかねない。とりあえず異少課へと連れてきたはいいものの、泣き止む気配はないし今後どうしようかも不透明な状況だ。


「はぁ……これで話聞けるかな。大丈夫?」

とりあえずは泣き止ませることに成功した。

「うん……ここ、どこ?」

「ここは日本て国だよ」

「名前言える?」

「トル……ねえ、なんでここにいるの?ママやパパはどこ?私変なとこに来ちゃった……」

どう言おうかで凄く悩んでる。多分こっちの世界に来て日が経ってない。何より現在戻る方法が分かってないのがもう。下手すりゃ一生帰れないなんてこともおきる。そりゃ泣くよね。

「僕の話聞いて。君は、トルはとある災害に巻き込まれてこっちの世界、トルがいた世界とは違う世界に来たの」

「帰れるの?」

「……あの……うん。帰れるかどうかは、分からない。頑張って戻り方を探してる。だから、見つかればすぐ帰れる」

帰れるって言ってちょっと明るくなった彼女の顔に罪悪感を感じる。嘘はついてないけど、帰れる目星すらついてない。

「なら、頑張る。それまで、ここでいる」

「うんうん。良い子良い子」


「それで、それまでどうするんですか?」

「放って置くはいかないよ。ここまで関わっちゃったから」

「ですけど……」

そういう施設なんかに呑気に預けられない。魔族だから。

「私も面倒みたいですけど、お母さんが……」

「多分、だめだよね。ただでさえ節約して頑張ってるのに、そこに追加するなんて」

「最初からそっちに任せるなんてしない。僕が家で面倒見るよ。一人暮らしだから」

とりあえず彼女をどうにかすることは一応そこで解決した。


そんなことが起きて1ヶ月ほどがたった。今日はたまたま輪笠さんと出会って皆で買い物中。

「トルちゃんこっち」

「ねぇ、これとかどう?」

「私これ好き、買って」

「えーっと、これぐらいなら買ってあげるか。すいませーん」

トルちゃんはこっちの世界で暮らすために輪笠都瑠といった名前を与えられ、輪笠さんのお子さんということになっている。

最初は不安やらで泣いていたトルちゃんも今ではいい感じ。私達にとっても懐いてて、特に輪笠さんにはものすごく懐いてる。


「買い物付き合ってありがとう。皆トルちゃんのこと大好きだよね」

「良い子だし可愛いし」

「お世話したいって思わせてて、なんか知らない間に好きになっちゃいます。これはもうトルちゃんが凄いんですね」

トルちゃんに私達支配されてるかも。異少課で暇な時はトルちゃんの話しがちだし、輪笠さんのトルちゃんの写真見ると和む。

「選んで来たよ〜」

「よしよし、それね」

この2人の微笑ましさを、ずっと見ていたいと思えた。


休みも終わって次の日。異少課として任務が舞い込んできた。

「今回のはこの市で起きている連続暴行事件の犯人を捕まえる、やっつけること。最近毎日のように夜に市民が暴行される事件が発生していて、死んではいないものの大怪我を負った人も少なくない」

「異少課の仕事ってことは、魔族関係?」

「今までは他の課の担当だったよ。暴行事件だけだから。でも今まで夜だし背後から襲われただしで犯人の目撃情報が無かったけど、この前逃げる犯人を見た被害者の方が現れて、その人によると人間には見えなかったっていうもんだから、こっちに回ってきたってこと。もし被害者の勘違いで犯人がただの一般人ですってことになったら連絡して、元のところに戻すから」

「その目撃情報ってどんなですか?」

「それがあんまり。人間じゃないらしいけどどこがどうだったかは覚えてないらしいよ。暴行されたときの気を失いかけてたところの記憶だから」

「分かりました」

この任務、いつもより難しいかな。なんてったって犯人の情報が全然ない。


「黒子姉さん。とりあえず町へ出てきたは良いけど、どうする?」

「範囲は絞れるけど、でも広いよね」

今までの事件の起きた場所を見せてもらったら半径1.5kmぐらいの円の中に集中してた。市の中全域なんてのよりは断然だけど、それでも広いは広い。

「ここまで来るのなら、囮捜査するしかないんじゃないかな」

「姉さんがするの?大丈夫?」

張ってたところで捕まえられそうには見えない。逃げる犯人を見つけられるかも微妙。

こっちから攻めないと捕まえられない。

「何とかならないかな」

「ならないよ。だって後ろから暴行してくるんだよ。いくら姉さんが気を張ってても、捕まえるより先に殴られちゃう」

「でも毎日のようにこの被害が出てるから、だから早めに捕まえないといけない。でも良い手段は思いつかない。囮捜査するしかないの。そもそも、捕まえるために市民を囮にして呼び出すぐらいなら、こっちが囮になったほうがいいから」

「分かった姉さん。うん。囮の姉さんのためにも絶対捕まえるよ。でも、できる限り対策はして」

「流石に無策でやるなんてことはないから、大丈夫。心配しないで」

笑いながら言って、妹を安心させようとする姉であった。


囮の対策。それは他県の異少課に協力してもらって、その力を使わせてもらうこと。

異少課の人達は皆いい人だから大抵頼まれたら手伝ってくれる。ちょっと悪いけど、こっちも切羽詰まった状況だから惜しげもなく使わせてもらおうとしてた。

だけど最初呼ぼうとしていた富山県や岐阜県は忙しいらしく、どちらも呼べなかった。

「仕方ない。暇そうな人捕まえてくるよ」

「暇そうな人」

「でも、今回誰でもいいので。忙しそうな人をわざわざ連れてきたりしなくていいですから」

結局来れれば誰でもいい。言ってた暇そうな人も言い方は悪いけど合ってる。


「なるほど。よし、やってるよアタシは」

「よーしこれで合法的に掃除をサボれる」

「アタシの分やるんだからやるんだぞ後でわかったな」

「やる気出ればで」

そのお願いに快く引き受けてくれた2県の異少課。一つが名村亜美さん、軟木北さんの長野県。

「我が手を貸すのをやぶさかではない。偉大なる我も偶には動き、民衆が我に感謝するよう作り変えてやろう」

「やっぱりブラッドかっこいいー!」

「本当残念なんだから。来た瞬間すぐ助けなきゃって言ってたくせに」

もう一つは日柱吹さん。丸岡日向さん。鏡丹治さんの石川県。最初に聞きに行ったのがここ2つでどちらもがオッケー出してくれた。

人数的にこれ以上は呼ぶ必要ない。多すぎると隠れてた時に気づかれるかもってことでこれで終わり。

「ありがとうございます。私達の囮作戦の手伝いしてくれて」

「やること無かったからいいっての。それより囮役、アタシがやろうか?アタシそこら辺鍛えてるから、ちょっとはマシじゃないからな」

気持ちはありがたいけど

「気持ちだけ受け取っておきます。流石に呼んでさらに囮役にするなんて、囮役は私がやりますから」

「姉さんが傷ついてほしくはないけど、でも姉さんがそういうなら。私も流石にそこまでのことは、できないから」

「そう?」

「怪しい奴いたら捕まえるのでいいよな」

「そこは苦手だなあ。だからもしものときの回復やるね」

「任せろ丹。我が皆の分も全てやってやろう」

「調子乗んな逃げられるぞ」

どちらも絡みが見てて素晴らしい。私達もこんな感じだと思うけど、負けてられないな。


そしてその日の夜。

作戦を始める。囮にちゃんと引っかかってほしい。

「じゃあ行ってくる」

「ちゃんと守るから黒子姉さんのこと」

「うん」

「ふっ。我が付いてるのだ。臆する必要などない」

「おい吹、五月蝿い。これ俺達がついてるのバレたら失敗なんだから静かにしとけ」

今は離れた場所から隠れながら見張ってる。でも6人で見張ってるだけあって不自然すぎてバレちゃいそう。

結局、てきるだけバレないよう静かにする。あんまり顔を出さないといったことで帰結した。


ひたすら何も考えず囮としてうろついてる。引っかかってくれと願いながら。

「あれ」

「やっぱり。静かに。アタシがよく見る」

思ったより早く釣れたかもしれない。少し離れた場所から姉さんと同じ方向に歩いている人がいる。

同じ方向に行ってて怪しい。8割型一般の人じゃないと思う。

「あれ、こっちに向かって」

「黒子姉さんに伝えたいけど」

伝えたら警戒して犯人が来なくなりかねない。

さっきのやつは、何とこっちに向かって音をそこまで立てずに走って近づいてきた。流石にもう、ほぼ確実。


暗い夜。街灯もそんな置かれてないこの場所。

あの人は姉さんが道を曲がってもついてきている。ちょっと離れた場所から。怪しい。

顔は暗くて見えない。見えたら探せそう。

「怪しいからずっと見てて。それで何か怪しい行為したり凶器持ち出したりして現行犯として捕まえれるなら一気にいくよ」

「最低限の防衛はしてるらしいけど……やっぱりやる前に捕まえたいけど」

「それはもちろん。囮買ってくれた姉さんに怪我なんてさせない」

防衛の方は最低限。服の裏に特別なものを着ている。

あの人の後ろを私達はつけている。こっちの存在には気取られてない。

「姉さんからメール。どうする?だって」

姉さんも気づいてたみたい。それでいて気づかないふりを見せてる。

「走るの頼もう。それで一緒に走ってきたら確実みたいなものよ。捕まえたあとに怪しいもん見つければ捕まえられるよ」

「分かった」

姉さんに犯人を捕まえるためのメールを送った。


姉さんが走るのをみてすぐ、あの人は走って姉さんを追いかける。黒確定。

「これなら捕まえられる!」

「絶対追いつくよ。アタシを舐めんな」

「我の手により、裁きをくださん!」

動き出すのを見て皆捕まえるため走り出した。あいつより速く。姉さんに追いつく前にと。

「な、なんだ!」

「アンタこれ、物騒なもん持ってんね」

「こっち側からも回ったよ」

「大人しく観念しろ」

技が当たって後ろからの不意打ちで転ばせた。そして起き上がる前に皆で周りを囲む。

そのとき落とした荷物の中から怪しい武器が。これは言い逃れできない。

「ちっ、囮にまんまと騙されたってことか」

「お前は完全に包囲されている。大人しくしろ」

「今捕まえる」

捕まえるためにもらっていた手錠。それを取り出して近づき捕まえようとした。そしたら

「えっ?」

そのとき近づいたから暗くてよく見えなかった顔がはっきり見えた。その顔が人のものじゃなく魔族のものだったことはいい。だけれど……。

その顔は、その顔は……。

「今のうちに!」

「ちっ、待て逃げんな!」

「我の裁き、外したっ!?」

「俺を騙して、許さねぇ。絶対許さねぇ!」

包囲されていたのを強引に突破されて逃げられてしまった。ジグザグと逃げて遠距離攻撃をかわし、路地を使って撒いていく。

「これは、逃げられた」

「まんまとやられたね」

「大丈夫?」

「なんで、こんなこと……」

私はまだ混乱していた。だってさっき見だあの顔は

この前も見た、トルちゃんの顔だったから。


「白子?」

「うん、姉さん」

一旦囮作戦は中止。流石に今日のとこは警戒されてるだろうと。これでやめてくれたらいい。私の心的にも……。

「白子?何かあったの?」

「姉さん……」

「どこに逃げたんだよ。アタシ割と速く追いかけたぞ。隠れられそうな場所もなかったと思うが」

「気がついたら大通り。普通に大通りに逃げて……。ないよね」

「アタシも尋ねてみたけどあの見た目に一致してそうな情報無かったし、一応監視カメラとかに映ってるかもだけど望み薄かな」

「家にでも入られたか、そもそも騙されてたか」

「騙された?」

「魔族だって情報あったらしいし、なら変な技、それこそ透明化だったりを使えてもおかしくないから」

逃がしてしまったということが重くのしかかる。誰も言ってないけど、私があの時驚いたから、逃げられたのはそれだから。

人違いなのかな。だよね、きっと。


「そう。分かった。今日のとこは帰っていいよお疲れ様」

警察署に戻って、結果だけ伝えて解散。したけれど私と姉さんはその場に留まっていた。

「囮作戦大丈夫?怪我してない?」

「大丈夫です。私が襲われる前に皆が捕まえようとしてたので」

「輪笠さん。それに姉さんも、伝えたいことが……」

黙っておく事も出来たけど、この事は伝えないといけない。それが警察ってもんだから。

見た目がトルちゃんに似ていたということ。ちゃんと伝えた。

「トルちゃん?ないよ流石に。だってあのトルちゃんだよ?だからたまたま似ていた人、じゃないかな」

「わかってる。私も似た人じゃないかと思う、けど……」

その見た目は似てるで済ましていいもんじゃない。本当にそっくり瓜二つ。ドッペルゲンガーとでも言ったほうがいいくらいに似ていた。

「わかった。ありがとう」

輪笠さんも言い方が重苦しい。それほどまでにトルちゃんは私達の中にもう入っていた。

「この件、頼んで他のところに任したほうがいいのかもな」

「でも、多分魔族じゃないかと思います。だから私達がやらないと」

「できる?たとえどんな人でも、捕まえられる?」

輪笠さんの言うことは最も。関係者だと公正公平な扱いができないかもしれない。贔屓しちゃうかもしれない。でも

「できる」

私はそう伝えた。魔族の件は、どんな事情があっても私達魔族対応のプロフェッショナルがやるべきだから。


「ちょっと待ってよ。そんなの、トルちゃん本人がやったみたいな言い方じゃない。トルちゃんじゃないでしょ。たまたま見た目の同じ赤の他人でしょ」

「ここは警察の世界。悪人を捕まえるのに、僕としての気持ちは入らない。信じることはいいことだが、警察が勝手な思い込みしてはいけない」

「そんな、一時的とはいえトルちゃんの親でしょ!なのに……」

「こうなってしまうと、白子はともかく黒子には今回の件から引いてもらうのも考えないといけないな」

もちろん輪笠さんだってトルちゃんかもしれないと聞いて平気でいられるわけじゃない。あんだけ一緒にいたら情なんてとっくに移る。それでも警察官として、非情にも見える公正な考えを下している。

「とにかくだ。今日は遅いしもう帰って体を休めろ。調査の方進めとく」

とりあえずのところ、私達は解散になった。


「ねえ、輪笠さんはトルちゃんがやったという可能性がゼロでは無いとして進めてたけど、ほぼゼロだよね。だってあのトルちゃんだよ。学校のクラスメイトより信用できるよ」

「ゼロではないけど……私見たのが本物にしか見えなくて」

「白子、勘違いは誰にでもあるものだから。私だって一瞬空目すること何回もあるもの」

姉さんはトルちゃんがほぼ確実に違う。という前提で話を進めている。それに比べて私は……

「私は、犯人をただ捕まえる、それだけかな」

「だよね。一般の人が怪我しないように、早く捕まえないと」

濁した。だって私の考え方は少し姉さんとは違うものだったから。


次の日

「監視カメラを調べてみたけど、それっぽいの映ってはなかったね。一応見てみる?」

実際見せてもらったけど、ここを通っではなさそう。

その付近の監視カメラを色々と見せてもらったけど、どれもこれも大したものは写ってない。監視カメラの場所を把握して避けて動いてそう

相当な手練れか準備に相当時間をかけているのか。簡単にはやっぱりいかない。


「そうだトルちゃんどうだった?」

「本当に、なーんもなさそうだった。朝の会話のときにもちょっぴり話題として試してはみたけど、動揺も何もして無かったかな。僕はこういう仕事就いてるから、ある程度は分かるんだよ」

「じゃあやっぱり、トルちゃんは関係ないってことだね!」

心底嬉しそうな姉さん。

「決めつけはよくない。あくまで今のは分かりやすい怪しさが無いだけ。黒と決めつけるわけでもないが白というわけでもないかな」

「犯人は手練れ、みたいだったよね」

「うん。計画的犯行を及ぶやつならこれぐらいでぼろを出すことは無いと言っていい」


「今のところ見たって言ってたのは白子だけ、今までの複数の事件でも顔に繋がる情報は出てなかった。だから、信憑性に乏しいという理由で今は上には伝えないで済んでる」

「でも、もし情報が出てきたら、現行犯でトルが捕まったら……。僕は職務できるかな。あんなこと言っておいて」

警察署の廊下、独り言を言いながら歩く輪笠。

黒子、白子相手にはあんなこと言ったが、実際彼も人の子。トルちゃんの親代りしている身。

そんなことは無いと立場上言えないからこそ、嫌なことばかり考えてしまっていた。

「本当、ただの見間違いであってくれ」


その日は特に何か進展することもなく、何も起きず解散して家に帰った。

「あれっ……えぇっと」

「黒子姉さん、どうかした?」

「へへ、忘れ物しちゃったみたい。警察署に置きっぱなしにしちゃったぽい」

「分かった。私もついていこうか?」

「大丈夫。こんなことのために白子を連れていくのもね」

そう言って姉さんは一人で出かけてしまった。


「ここら辺はやっぱり暗いなー。気をつけないと」

私の家の付近は街灯も全然ない普通の町。夜は真っ暗になる。

「昨日もこんな……」

昨日あの場所の暗さに似てる。人も全然いないのもそっくり。

「今の時間に、誰かがまた被害にあってるのかな。それとも昨日の件で捕まる可能性を感じ始めて止めてるかな。犯人が逃げっぱなしだけど、事件が起きないなら起きるよりいいかも」

昨日のことを思い出す。昨日起きた状況と似通っていたから。


警察署に着いて、目的のものを取って家へと帰る。

「見つけた。あいつだけは……」

その後ろ姿を捉え、ゆっくり追跡する不審なのが一人。そしてそんなのに気づくこともせず、大通りから路地のほうへ、彼女は足を踏み入れた。

「もう少ししたら、行くか。人もいない。暗い。絶好のチャンス」

気づいていない彼女が危ない目にあいそうなのは、明らかであった。


「白子待ちゃってるよね。早く帰らないと」

暗い中少し急ぎ足。

「逃がすか。暗いうちに」

「ん?」

走って帰ろうかと思ったが途中で走るのをやめた黒子。それでも聞こえてくる足音。

ただの通行人というようにも聞こえない。ふとそこで振り返ると

「気づかれたかよ」

「ひっ……」

本能的に恐怖を感じ取った。なぜなら後ろから来ていたのは

昨日も見たあいつ。連続暴行事件を起こしていた犯人だったから。


「こ、この!」

昨日のことに懲りずまた現れた。しかもこの場所は昨日の件があった場所、連続暴行事件が起きていたあの地域とは別、全然違うというのに。

「お前をやらなきゃ気がすまねぇ」

それもそのはず、この感じ、昨日の復讐にやってきてる。今までとか連続性とかもうどうでもよく、ただ邪魔されて捕まりかけたのを恨んでここに来ていた。

「一旦、これで。そして、当たって!」

いつも持ち歩いている武器のパチンコを取り出して、一旦は応戦。しかも武器の力の雪降も素早く使って視界を遮らせる。でも、相性的な問題もあり戦い続けるのは得策じゃない。

「このまま隠れられそうなのはっ。電柱、溝、ゴミ捨て場……駄目だ隠れられない」

巻こうにもここらの道が真っ直ぐなのが多いからきつい。

「逃がすか。絶対お前はボコってやる。よくもあんなことしてくれたな」

速い速い。無我夢中で走り回ってた。

「誰か、誰か助け。白子!来るなぁ!」

「逃がすかっ!」

差はどんどん縮んでいく。もうほんの少しといえる程度。

「はぁっ……ゴホッゴホッ」

そしてついに、白子の持久力が切れた。もう走れなくなった。

その後ろに、もういた。


「あっ、つぁっ、ふぁっ!や、やめ」

「殺しはしねぇが、いつもよりもっと痛めつけるぐらいならしていいか。じゃないと腹の虫が治まらん」

捕まってお腹を一発殴られる。容赦ない一撃。痛いし怖い。

殴るだけだけど、元の力が高いのか下手な武器を使った攻撃よりも痛い。

「囮なんてかけようとしたのが運の尽きだ。積極的に捕まえようと動いてるってことか」

独り言をぶつぶつ言いながら、殴る手はやめない。抵抗もできず、目を瞑るだけ。その目から大粒涙が零れ落ちる。


そのとき、救世主の声が聞こえた。

「えぇ、嫌何何何。えぇっとえっと、誰か!けけけ警察。1,1,0。あぁえとえと事件で、殴られて女の子がっ」

「最悪。こっちの方、案外人は通るのかよ。分かんねえな」

少しその場で考え込んで、そして。

「痛い目見たくなけりゃ二度と囮で現行犯逮捕なんて考えるんじゃねぇぞ。もしやろうってなら今度こそだ。殺す一歩手前まで、手加減無しでやってやるよ」

掴んでた胸ぐらを乱暴に離し、そして黒子はその場の道路に倒れた。

そしてその場からすぐ立ち去る犯人。

「わ、たし……」

安堵とかがいっぱいになっている黒子。今は何もできそうになく、ろくに動けそうもなく。無理やり動いて歩道まで来たらその場でまた倒れた。


「大丈夫そか?」

「痛むけど、もうちょっと休んだら、家まで帰れそう」

「姉さん。私に捕まってて」

警察が来て輪笠さんと輪笠さんが呼んだ白子の2人が黒子の対応をしていた。

「それにしても、まさか復讐とは。今までのルールも無視して。これは相当頭にきてやったと考えて良さそうだな。安全のため黒子、そして一応念の為白子の2人共夜は出歩くな」

「姉さんをこんな目に遭わして。許さない絶対捕まえて制裁する」

2人共激オコ。今までも言ってた捕まえるって言葉が、この件を機にものすごく高まっていた。


暴行事件の後病院で一応診てもらったけど、特に問題はないとのこと。本当良かった。

輪笠さんは今回の事件を監視カメラを確認したりで犯人逮捕のため動いている。

「犯人が囮の件をまだ怒ってる可能性がある。今回も途中で止められたから。あそこまで違うことやったから昼夜問わず襲ってきてもおかしくない。2人共、本当に気をつけて行動するように」

「はい」

もう二度と、姉さんを襲わせない。


「アタシ達がいなくなってからそんなことがあったなんてね」

「我ら警察に対し大した策も持たず卑怯に襲うなど。我らを舐めてるようで不愉快だ」

「絶対姉さんを傷つけたやつを捕まえたい。だからお願い」

私達だけでやれそうには無かったから、応援を頼んだ。二日前のとき一緒にいた長野県と石川県の人達。

とりあえず呼んだ5人に現在の状況を伝えた。ただトルちゃん関係のことだけは伝えずに。伝えても、分からないだろうから。

「それでどうやって捕まえるの?また囮作戦?」

「流石に同じ作戦を二度してきてそれに引っかかるほど敵も馬鹿ではないだろうよ」

「でもさ、話を聞いた限りだと、割と引っかかりそうだよそれ。襲った次の日に同じ人を襲うなんて、普通の考えしてたら出来ないよ」

「頭に血が上って正常な判断ができなくなってる」

「同じ人がやったら怪しまれるってのなら、アタシやるよこれぐらい」

「かっけー亜美」

「茶化すな」

あのときは囮を他県の人にやらすのはどうのこうのって否定的だったけど、今じゃ四の五の言ってられない。

「あまりもう、囮作戦は使ってほしくないけれど」

「だとしても、このままじゃ犯人を捕まえられそうにないのも事実だよね?犯人についての情報、完全に無いらしいし」

「ま、まあ。捕まえられそうな、情報はない」

歯切れ悪く言う輪笠さん。やっぱりこうなるのは、トルちゃん関係。

私はトルちゃんとは違うんじゃないかなとは考えてる。だけどもしトルちゃんがやったとしたら、どっちにしろ私は迷わず捕まえる。

姉さんを襲った時点で、慈悲なんて与えない。

「本当に囮作戦で行くのか?」

「それ以外に作戦がないのなら。事件が起きるのをどうせ待つことになるぐらいならこっちから事件を起こさせたほうがいい」

「まあ、なら。ただ、二の舞なんてことがないように」

姉さんみたいなことになってしまわないように。今度こそ、捕まえる。


ここは、輪笠さんの家。二度目の囮作戦が決まった、あの日の朝。

「朝ご飯できたよ。簡単なトースト」

「分かった今行く。いつもありがと」

「お礼なんて言われるほどじゃないって。ただの朝ご飯だから、さ、冷めないうちに食べよ」

トルちゃんと輪笠さん。輪笠さんは最近の暴行事件。それの犯人が魔族っぽい。それに何より見た目がトルちゃんに似ていた。なんて情報を知ってしまったからちょっとぎこちなく接してる。

「私もご飯ぐらい作れるようになりたいな。お世話になってるんだもん。それぐらいはしたい」

「教えてあげたいのは山々だけど、僕も毛が生えた程度しかできないんだよね。一人暮らしだから、冷食とか焼いただけの魚とか、本当簡単なのぐらい」

「あ、分かった。ねえ、私にできることない?」

「んー……んー……。後回しでいいかな。考えてみたけど思いつかなかった」

ほのぼのとした朝の風景。これが最近のこの家の日常みたいなとこ。たった1ヶ月なのに、本物の家族になれている。

この近さにいて、ちゃんと中まで打ち解けられてるはず、だからこそ、トルちゃんが犯人かもしれないっていうのは冤罪。見間違いなんかが引き起こしたものだと思ってる。

だけど、この前自分の異少課の六道黒子が大怪我を負わされたのを見ると、本当に早く捕まえたいと思う。犯人かもしれないトルちゃんを証拠もないのに監禁して事件が起きないか見ないとなんて悪魔的な考えが出てしまう。

「今日も遅くなる。夕飯冷蔵庫の中の冷食チンしておいて」

「また?事件のことに集中するの大事だけど、無理してない?」

「無理は、してない」

「そう、ならいいけど。ずっと遅いよ?私心配」

「こっちも忙しいから。早く対処しないといけない事件起きてて」

「頑張って」

労いのその言葉で、幾分か疲れが取れた気がした。


「ふんふーん」

夜道を鼻歌歌いながら歩く囮の亜美。

変装用の伊達メガネかけて髪型変えて、多分これだけでいける。

「今のところ、人影は見えないね」

この前、犯人はあと一歩のところで通行人に邪魔されて黒子を襲えずに終わってる。そのことをまだ根に持って、黒子の方を狙わないかが心配。

「そのように下を向いて無為に過ごしたところで意味はない。我らの真に秘められし力を信じればよい」

「おい吹うるせ、囮だっつってんだろ目立つ行為すんな」

「まあまあまあ」

なんかちょっと落ち着いた気がする。

「でも今思ったけど、亜美って囮適性大丈夫かな」

「というと?」

「亜美は眠れる猛獣のオーラみたいなの纏ってるから犯人が危険を察知して近づかな……」

ピロリン

「あれメール?あ、あ、あっ……終わった」

「あぁ、なるほど」

軟木北に送られたメールは名村亜美から、後で覚えてろと。聞こえてたみたい。

「とにかく、そろそろ真面目にやろ。丹、吹を静かにさせて。失敗は許されないんだから」

「丹を経由せんくても我分かっておる」

「本当に?」

「本当だよ。ブラッドだもん」

「はぁ………」

ため息が少し聞こえた。なんか分かった。お疲れ様。


「ん、んん。あ、なるほど。皆、これ」

「えっと、分かった」

しばらくして急に軟木北がこんなことを言った。そうして見せられたのがさっきみたいなメール。送り主は同じく名村亜美。

ただ一つ、後ろに怪しい人影がいて、アタシじゃなくてみんなの方を見ている。こっちでちょっと探ってみるから、気づいてないふりしてそのままでいてと。

さっきから確かに、変な視線を感じる。気のせいかと思ったけど、そういう。

怪しまれないために後ろは向かない。気づかれたかもと思わせない。

「ってことは、囮というより私達に?」

「かも。気づかれないように武器握っといていいかもな」

「我もどの現象にも備えて時が満ちるのを待とう」

気づいてないふりをしながら、こちらは続けた。


一方、警察署内。

「大丈夫かな。皆」

警察署内に残って、一応仕事をしながらも考えてるのはあの子たちの事ばかりな輪笠さん。

ツーツー。

「いやいや、違うや……」

スマートフォンの通知。そしてそれを見ると顔が真っ青に、そして信じたくないものを見るかのように。ほのかに涙も流した。

この通知は何かというと、家のドアに取り付けた機械から来た通知。子供が勝手に家を出て迷子にならないようドアが勝手に開けられたらスマホに通知が来るシステム。

トルちゃんが犯人。そんなことが頭から離れなかった輪笠さん。そのためにも、これをつけてこの通知が無かったのに事件が起きたから犯人じゃないと確定させるつもりだった。

だけど、そのシステムが最悪の形で有効利用された。こんな時間、外にでないといけない理由なんてない。

「いや、装置の不具合の可能性……」

結局のとこ、納得したくない。冤罪を生まないためという理由で、現実から目を背けているだけ。

ここから家までそんなにかからない。だから警察署から出て、自宅へと向かった。

その中にいてほしいと願望を込めて。

「そん、なっ」

家の中に入った彼は見た。家の中には誰一人いなかったのを。

そして家に入るとき、出るときにも通知が正常に鳴ったということを。

「なんで、そんなことをするんだ。トル」

もう、流石にここまで来たら、嫌でも犯人=トルと思わざるを得ない。

スマホを取り出し、メッセージアプリで黒子達に伝えた。

今のこと、犯人がトルちゃんで間違いないことを。


「一般人じゃないよね」

「彗眼など無い世間の民であろうが分かる。あそこまでだともはや自ら晒してるようなものだろう」

「それで、どうするの?今から行く?」

少し後ろにいる人を気づかれないよう観察する皆。結論として、明らかにたまたまいた一般人じゃない。バレないよう電柱に隠れながらこそこそ。そして圧倒的な挙動不審さ。

今は気づかれないよう小声で喋ってる。この距離なら意外と大丈夫。

ピロン。ピロン。

「ごめん私」

「あと私も」

「2人ってことは異少課関係?」

黒子と白子の電話の通知音。来たメールを開くと2人の顔が変わっていった。

メールの内容はこう。今家行ったらトルちゃんがいなくなってて、ほぼ犯人で確定したこと。明日普通に帰ってくるだろうからずっと輪笠さんが監視して怪しいことできなくすること。そしてその間に全力で調査させて証拠取って逮捕するということ。

トルちゃんを信じていた彼女達。トルちゃんが犯人だと考えたくない。

「輪笠さん何言ってるんだろうね。だってトルちゃんがいないからって、たまたま外に出てただけでしょ?この時間に出てたからって犯人って確定するわけじゃないのに。明日行ってこなくっちゃ」

「姉さん……姉さん。現実を見て」

「見てるよ!トルちゃんの事がわかってるからこそ、そう言えるの!」

「ちょっと静かに。何あったか知らないけどバレちゃうから」

何より黒子は特にトルちゃんをずっと信じていた。まだ信じれてなく、勘違いの可能性をずっと胸においていた。

「何か言ってること、たまたま見えちゃったから何となく理解したけれど、まあ気持ち分かるけど、ダメでしょ信じすぎて真実曲げるのは」

たまたま後ろにいてメールの内容を見て、まだ誰にも言ってなかったトルちゃんとの関係がほんのり理解した北。

「曲げたいわけじゃ」

「分かるよ。俺も同じようなことあったから」

彼も仲良くなった友達が実は悪いことしてて、結果討伐された過去がある。それが分からないで暴走して……。

あんなことは、もうしないと誓ってるからこそ、同じようなことにならないよう止めていた。

「ねえ、なんで白子はそんななの?」

「私は……」

取り乱す黒子とは違い、幾分冷静な白子。犯人がトルちゃんであることは嫌だが、それより犯人に対しては怒っていた。なんてったってお姉ちゃんを傷つけられたから。

誰が犯人であったとしても、その怒りが上にくるから。だから誰でも倒せるという意味で冷静だった。


「ちょーほらほら。亜美もどうするかって痺れ切らしてるし、とりあえずさ。それ一旦終わらして次やること決めよう」

「なんかあるんだろうし俺には分からない。だけどさ、今やることは姉妹喧嘩なんかじゃなくて、あれの対処」

「そんなに絶対今じゃないとってわけじゃないよね。きっと」

「我に任せよ。最良で最高な解決を施そう」

喧嘩の様子を見ていた周りの4人が止めようと話しかける。

周りから見たら、情報もないしトルちゃんと過ごしてもないから気持ちが分かんない。だからこそ、そんなことで片付けれる。

「そうだよね。それで私思いついたの。あそこの曲がり角で隠れて奇襲するの、どうかな?」

「結構あり。角度的に見えないなありゃ」

「分かった。亜美にもそれで伝えとく」

さっきからトルちゃんのことで呆然としてる黒子姉さんを置いて冷静に話を進める白子。

「行くよ姉さん。ぼさっとしてないで。犯人を捕まえないと」

「えっ?あっうん。そうだよね。トルちゃんじゃないって証明には、犯人捕まえるのが一番だもん」

「……」


「見つけたはいいが、団体行動中か。あいつは絶対許さない絶対倒す。とはいったものの、流石にここ越えれないな。いつか解散して1人になる。その時に決める」

後ろでずっと、自分がバレてないと思い込んでる尾行をして、この前倒しそびれた黒子を狙う犯人。

「あれはなんだ?あれか。囮のやつか。忌々しい」

「動いたか。終わるまでずっと見張ってやる」

皆が真っ直ぐ進んだのを見て、急ぎながら追いかける犯人。

「あそこを右か」

そしてT字路を右に曲がって一瞬見失ったから、T字路ギリギリの曲がった後が見える位置まで移動した。

そして

「くっ、てめぇら」

「アタシ達を尾行しようだなんて、いい度胸してんな」

「神妙にお縄につくがよい!」

T字路を曲がった直ぐ側、隠れて待機していた皆からの奇襲を受けた。そしてT字路におかれた街灯がその顔を照らした。

「うっ……そんな」

「やっぱり」

その顔、見た目。全てがトルちゃんだった。


「まんまと引っかかったよね。もう逃さないよ」

「アタシ達が二度同じことをするって、思わないでね」

「抵抗しようというのなら、我らの力で直々に成敗してやる。魂をも虚空へと送り、また戻った時には鉄でできた檻の中だ」

トルちゃんの顔に動揺する2人を置いて、着々と話を進める皆。

「嘘、嘘そんなの」

「なんで、トルちゃんがそんなことしたの」

トルちゃんの事実を身を持って知らされて落胆したものの、すぐに気を取り直してしっかり聞く。でもそれに答えようとはしなかった。

私達が知ってるトルちゃんと目の前のは、口調も何も違う。なのにその顔という最大の証拠を見せられている2人。

「トルちゃん?」

「やっぱり。何かあったんだろうね。あの感じから察してたから」

「ちっ。こいつら相手にするなんて分が悪い。ここは逃亡しかないか。そこをどけ!」

「光の槍よ!逃さすわけ無いだろ!」

「今度こそ手錠。早くかけよう」

逃げようとする犯人の後ろ姿に素早く技を打ち込むブラッド。

「なんでこんな人数なんだ。1人でいいんだよ1人で。こんなんじゃ逃げれねぇ。現行犯で捕まったら、作戦も何も意味ねぇんだよ」

「大人しくしないなら、強引な方法でやるよ。それが嫌なら、大人しく捕まって」

「仕方ない。こうするしかないなら、やってやるよ。全員、まとめて!」

逃げれないなら、全員倒す。これから攻撃をしようってモーションが全員に見えた。

「来るッ!ちょっとなんか考え込んでないで!」

「うぅっ……いたい……」 

「とりあえずこれで、少しずつ回復できるようになってるから」

最初に攻撃されたのは近くにいたホク。シンプルな拳のパンチだが、その火力はちゃんと高く、攻撃されて後ろの壁に吹き飛ばされるぐらい。

「北をよくも!この、毒効けっ!」

「あれはできるだけくらわないようにね!ほら姉さん」

「う、うん。ごめん白子。もう、私も……」

「姉さんの気持ちはわかるから、でも今はそんなことより戦うよ」

前の状況は嘆いてられる状況じゃない。あんなの一発食らうだけでかなりのダメージをくらう。できるだけ、避けて守る。その上でダメージ入れてかないと。

黒子もちょっと、いつもの調子に戻ってた。


「全員倒す必要なんてない。逃げさえすればいいんだ。手数さえそいで逃げれば、後はどうとでもなる」

「あの感じ、武器の力とかじゃない純粋な身体能力で戦ってるはず。なら毒をかけて弱めれば、効果的なのに」

「攻撃を避けられるのか亜美。ならこれで。こんだけいたら、流石に何とかなるんじゃないかな」

「なるほど。やりたいことは分かったよ北」

さっきの攻撃で手負いはして、そこまで自由に動かせない北。でも丹のお陰で痛みは徐々に和らいでいて、まあ立って話して武器の力使うぐらいならできていた。

北の使う復活の技で、今まで関わってきて倒された魔族を複数復活させて攻撃させる。倒されたって何度だって復活させられる攻撃役兼肉壁として。

そして、それに気を取られているうちに亜美の攻撃で毒を入れようと。そういう魂胆。

「多くてデカくて我らも奴が見えぬが、本当にこれで上手くいくのか?」

「こういう時不触は扱いづらいな。今回もあんまり戦力ならんかも」

「まあまあ日向、気にしないで」

新潟県組は長野県の2人の後ろ側。それぞれが思い思い考えながら、それぞれやれそうなことをしていた。

「黒子姉さん。私達も」

「うん。う、ん」

皆、特に白子がこのままだったら傷つくかもしれない。さっきの一撃を目の当たりにした黒子はそう感じた。

そして皆が、私達のお手伝いでやってきた皆が、私達が全然戦いの準備さえ出来てないのにちゃんと戦いを始めていることも。

皆を守るために私達がやるべきこと。犯人が誰であろうと、それは絶対。

「もう、あんなことやらない。犯人が誰であろうと、私はするべきことをする。ありがとう白子」

「そうだね姉さん。私達も戦おうか」

懐から武器を取り出して、2人共いつでも攻撃できるよう敵のいる方向に向かって構えた。


六道姉妹の武器は白子がクロスボウ、黒子がパチンコ。当たり前だけど遠距離武器。

後ろに立ち、前の方で戦ってる亜美達の支援を始めた。

「このっ、こいつすばしっこいな。ただこいつ以外強い近距離野郎がいないな。この邪魔魔族共は単純にウザいな。邪魔だてめぇ!」

「一撃でこんなに!?」

「火力バグってんなあいつ」

北が復活させた魔族がぶん殴られ吹き飛ばされた。本当に圧倒的な火力を持ってる。

数発のパンチを打ったらもう復活した魔族は気絶してた。しかも気絶だから北の力でもどうすることもできずただ回復するのを待つのみ。

「これで、頑張って回復させるのやってるけど」

「ここまでされると、すぐに戻りはしないだろうな」

必死に丹は回復をさせるものの、丹のが単体への強い回復ではなく全体を定期的に弱回復なのがネックで、ちゃんと回復させきるのは遅くなりそう。

「今の間に、一発目を!毒の一発目を!」

「なるほど。そういう力か」

魔族を倒した隙をついて毒針1回目を入れた亜美。そして攻撃を受けて亜美の武器の力の効果を何となく把握した犯人。


「こいつもだが、邪魔だなあいつら」

「アタシがいる限り、あっちには行かせないよ」

3人の遠距離攻撃組はずっと遠くからじわじわ攻撃して体力を削っている。

「光の槍よ!」

まず武器の力を使って槍を投げ攻撃するブラッド。爆発もして遠距離攻撃の火力はかなり高い。

「そうだ名村さん。私の力で雪、降らせていいです?どっちの移動速度も低下しちゃって、あと視界が悪くなります」

「アリ。今のままで結構きついから、コンディション変えれるならやっちゃって。アタシ割と順応できるから」

パチンコを武器にひたすらパチンコを撃つ黒子。武器の力で雪を降らせて戦う状況を変化させ、一発逆転を狙う。

「集中して、これで!」

そしてクロスボウを武器の力込みで使う白子。彼女の武器の力は集中射撃。使いながらクロスボウを撃って相手を狙うことに集中すればするほど射撃間隔が短くダメージも多くなるといったもの。近距離攻撃役がいて集中が途切れない環境だとかなり集中できてかなりのダメージが出せる。

これら3人がずっと攻撃している中、目の前の亜美との戦闘をしないといけない犯人。流石に状況の悪さを感じていた。


「これで、吹っ飛べ!」

「はぁ……うぅ……」

「亜美!大丈夫!?」

近くにいる亜美だけに集中。亜美の攻撃タイミングを読んでパンチをようやく入れれた犯人。

「ま、まだアタシは……」

「亜美、もう本当喋るな動くなって!ここまでされたら流石に無理だよきっと。休んでて」

かろうじて声は出せるものの、戦うなんてことはできなさそう。身体が言うことを聞かない。

丹が武器の力で徐々に回復させ、北が応急処置を施していった。

「はぁ手こずった。でも、後は3人か。見た感じ、こいつら以外は放って良さそうか。早くここを離れないと。こいつらが援軍呼んでてもおかしくない」

「俺が行くか前に」

「えっ危ないよ日向。もしかして何かそれの使い道が!?」

「流石我が息のかかっているだけある。全て我が思い描くままだが、どうだ?何ができる?」

日向のことを素直に心配する丹。中二病的発言をしているが内心心配しているブラッド。

「いや何も思いついてない。俺はただ、この警棒でシンプルに時間稼ごうかと」

「ちょっと危ないやめてって日向。あんな火力お化け相手にわざわざやったとこでだよ。多分被害のほうが」

「時間さえ稼げりゃ、吹とかがじわじわ削れるだろ?このまま逃げられるぐらいならそうするよ」

「分かった。かけておくから」

「後方は我に任せろ。この彗眼で正確に敵だけを突き刺そう」

「私達も本当頑張らないと」

「集中集中」

白子はずっと集中してクロスボウを射続ける。この時間稼ぎのうちに、何とか倒せるように。


「うっ……」

「日向!」

「くっ!丹は治癒を!かける人多くて大変だろうけどお願い!」

「なんだ全然何もねぇのか。こんなやつに時間取られたとは」

攻撃を捨てて防御一辺倒でやることで少しの時間は稼げた。この間に倒せればよかったけどそんなに甘くない。

「姉さん!まだトルちゃん、全然ピンピンしてる……」

「このままじゃ……トルちゃん!私達のことわかるでしょ!もうこんなことはやめて!」

「でも、あとはこいつらだけ。もうすぐここから逃げられる」

このまま何とかしてもどうにもならないとは感じている。だから最後の望みをかけて心からの説得をやってみたものの、それにキレる反論するとかでもなく、完全に無視された。望みはすぐに絶たれた。

「はぁ、はぁ……まだアタシが」

「流石にダメだ亜美。この速度でやれるわけないっての」

「まだ、かけますから。せめて普段の調子に戻るまでは待っていてください!」

亜美はようやく動けるようになったものの!身体はボロボロ。絶望的状況を何とかしようと動こうとしたが、流石に北と丹の2人に止められた。

犯人は、じわじわ遠距離組へと近づいていく。

「日向に続いてブラッドまで!駄目だよそんなこと」

「死なない限り、丹が助けてくれるから。だから大丈夫。2人は後ろ下がって攻撃続けてて!」

いつもの中二病も外れ、素直に前に出て戦うブラッドこと吹。なんだかんだいがみ合ったりしつつも、仲間意識は強い。日向が倒されたことが、火をつけたみたい。

目の前にでてきて対峙。槍を使って敵との距離を保つ。


吹が頑張って槍で時間稼ぎをしながら光の槍攻撃をしていたそのとき。

「ようやく見つけた。私のこと勝手に使ってる人」

現場にやってきた謎の女の子。ただそれは……

「ちっ……最悪だ」

「えっ?えっ?顔が同じ?えっ?ドッペルゲンガー?」

「トルちゃん!トルちゃん、だよね?」

「え、どういうこと?本物のトルちゃんで、じゃああれは……」

犯人と同じ顔の女の子。いつも見ていたトルちゃんの顔。紛うことなきトルちゃん。

目の前にいる犯人がトルちゃんの顔で、そのため犯人がトルちゃんだと考えてた。なのに、目の前には別のトルちゃんがいる。これはいったい……。

「うん。あ、いつものお姉ちゃん。そうだよ。私が本物のトル。そしてこれが、私の顔で好き勝手やる悪い人だよ」

「ちっ、もう誤魔化せないか。あぁそうだよ」

「なんてことを!こんな可愛いトルちゃんに罪を着せようとするなんて」

「私許さない。私達を不安にして、輪笠さんを不安にして。罪全部償ってもらうから」

事情を聞いた六道姉妹。どちらも犯人に対しては怒りを露わにした。当然だ。トルちゃん大好きな2人だから

「トルちゃんありがとう。でもなんでここに?」

「私を夜に見たなんてことを聞いて、調べてたらたどり着いたの。でもこれは異世界関係。私に関係してる。だからこんだけ迷惑かけたんだから、誰にも頼らず犯人倒して終わらせようとした」

「そんなことしなくても、トルちゃんになら私達どんだけ迷惑かけられてもいいのに」

「私のこと勝手に使ったの、私が一番許さない。私に冤罪を着せようとして、あんな目を見たくなかったよ」

トルが思うのは輪笠さん。接し方がぎごちなくなったあの日のこと。


「ってか、じゃあ誰だよお前。さっき察したことがまさかの間違いだってことになってて、勘違いだったー良かったーってなってて、誰だよお前」

とりあえず実はトルちゃんではないことが判明した犯人。じゃあ誰なのかという話で。

「ここまでバレてるなら仕方ない教えてやるか。耳の穴かっぽじってよーく聞け。俺はゴミの魔族と、そのゴミを擁する奴らが嫌いだ。こことは違う元いた世界は、人間様の世界だったのにゴミが建国なんかして、ゴミのくせして人間が使える土地も資源も奪いやがった。ゴミなんて地べたのたうち這い回って、人間様のために甲斐甲斐しく尽くせばいいのに」

どう見てもかなり過激な思想を持っている。近くに大事な魔族がいる六道姉妹や長野県の2人は特に、怒りをあらわにしていた。

近くに魔族がいない石川県の人達も、そのどう考えても差別的な思考には不快になっていた。

そんなのは気にせず話を続ける。

「ゴミをいたぶってたら気づいたらここにいた。ゴミがいないこの世界は最初は素晴らしいと思ったさ。この世界でなら幸せになれるって。だったのに、たまたま見かけたお前のせいで、幸せが全部ぶち壊れた!」

目の前にいるトルちゃんを指す犯人。そのトルちゃんは目で目の前の犯人を睨んでる。

「俺と同じように魔族も来てやがって、しかも人の世界に溶け込んでる?ゴミ共が思い上がるな!ゴミを始末しようかと思ったが、ゴミが他にもいるみたいだから気が変わった。ゴミの恐ろしさ、クズさを何も知らないこの世界に知らしめてやるんだ。だから俺は、あっちの世界でもよく使ってたこの変装の力で、ゴミの危険性を自分自身を穢してでも伝えてやったんだ!」

「どう考えても、あなたが一番間違ってる!」

「は?元凶はゴミだろ。ゴミがいるせいでどんだけこの世界の人が被害にあった。お前らもするべきことはわかったよな?この世界を守りたいなら、お前らがすべきはゴミを全て消すことだ。お前らがゴミを消すってなら、俺の役目は終わりってこと。このゴミによる事件が平和に解決。一番いい終わり方だろ」

自分が犯人だというのに魔族が危険と伝えるために魔族の格好して行ったことだから魔族が悪いとの発言。そもそも根本がおかしいのに生まれる理論。

しかも一番恐ろしいのが、助かるためのその場しのぎの出任せでないこと。伝えるときも、ちゃんと目を合わせ、信念を伝えるように話す。元々最初から、この人の考え方がもう狂ってる。


「誰がアンタのことはいそうですかーって聞くっての。差別思想ばらまくのもいい加減にしなっ倒すよ」

「亜美……へへっ。自分がやったことは自分が償う。人にやらせようなんてダメに決まってる」

そもそも北という魔族がいる長野県。もちろんこんな差別思想聞いて黙ってられるわけがない。

「お断りだ!そんなこと、まかり通ってたまるか!」

「ブラッドに賛成だね。嫌いまでなら個人の感想だけど、そこまでのはないよ」

「この吹。あんなわけ分からないこと言ってて正義感とかそういうの俺や丹を抜いて一番高いからな。最初から取引持ちかける相手間違ってるっての」

「日向!?とりあえずなんとかなったんだ良かった」

身近に魔族の仲間がいるわけではない石川県。でも、警察官としての正義感がある。流石にあんだけ過激な人に乗るわけない。

「トルちゃんを使って勝手にやったこと」

「私達許さないから」

息ぴったりの福井県。今回被害を受けたトルちゃんに一番近くて、一番思ってる。乗る乗らない以前に、その点でもうダメ。決裂してた。

「はーあ。やっぱそういう奴らか。頭が悪くて理解ができんのか、まあいいさ。とりあえずこいつらしばかんと、話にならんな」

「トルちゃんは私達の後ろに、あの人火力がおかしいから」

「ありがとう黒子ちゃん。でも、私にやらして。大丈夫、私だって泣いてるだけじゃないから。私も戦いたいの。私に扮して悪意をやったんだから」

「分かったよ。トルちゃんのこと信じる。気をつけてね」

トルちゃんも加わって、一旦休戦してた戦いの火蓋がまた切って落とされた。

倒れたり戦えなかったりで、今から戦うのは遠距離3人と1魔族。

「我に続け!」

「周りにいないからこそ、雪降らせて足遅く見通し悪くするのいいかもね」

「今ので一旦切れちゃったか。集中集中」

「私の、いや私達の力、覚悟しててよ」


トルちゃんは刀のような武器を取り出し、3人の前に立つ。

「みんなは援護して。ママに習ったから使い方は」

「敵が増えたところで、やれることは変わらんか。距離的にまずはお前か」

犯人とトルちゃんとが戦い始める。

「素早いっ!」

「これはあれか。一発が重いタイプだ」

「このっ!行けっ!」

「刀の動きを見切りたいが、むずかしいな。避けるだけなら簡単だが、アイツラがずっと狙ってて、迅速にしないと終わりってわけだ」

トルちゃんが使うのは一振りが大きい刀。攻撃力が他より高い代わりに、攻撃速度が遅い。

「今だっ!」

「っ、守鎧!これで、一旦立て直そう」

振りの隙を狙って犯人が一発攻撃を入れ……たと思った。そして正確に拳が一発。だったのだが、攻撃が入る前に何かに邪魔されたかのように、拳は身体まで届かなかった。

「「トルちゃん!」」

「私は大丈夫。私の武器の力で、攻撃無効にしたから」

さっき使った武器の力。守鎧。使うことで数秒攻撃を防ぐ透明なバリアを展開し、攻撃を一発無効にする。ただし、使用の回数制限あり。

「そして、一発」

そしてこの攻撃をしたから、振られていた刀は避けれず犯人に直撃した。

「ぐぐっ。こりゃ痛ぇな。耐えれないってわけじゃないが、まあ避けて正解か」

「光の槍よ!」

「集中集中」

「的を、射抜くっ!」

攻撃は守られ、遠くから攻撃され続ける。犯人側にとってかなり不利な相手である。

「だからといって、何かあるはずだ。攻撃を気づかれずに、張られる前にやる。こうなっては無理だな。なら、あれの弱点を突くしか。……ギリギリになって技使ったな。ずっと張ってればいいものを」

それができないのは回数制限のせい。無尽蔵なら犯人の言う通り常に無敵でやれば何でも勝てる。

「何か理由あるな。連続して張れないとか、使用回数に上限があるとか。そこ狙ってみるか」

まだ確定はさてないようだが、少しのヒントから推測されてしまった。これがバレずに、終われるだろうか。


「それにしても、いつになったらやられるんだ?ここまで攻撃してるのに」

「あの身のこなしが武器の力関係なさそうなところを見るに、素で高いんだろうけど。単純に見せてないだけで、割と削れてるんじゃないかな」

「はぁっ……こいつなんだってんだ。こいつの力ほんとうぜぇ」

「ありがとうママ。このこと教えてくれて、私。頑張ってるよ」

「そうかもね。今の少し息切れしてそうだったよね」

その通り。武器の力もなく、ただ純粋な己の力だけでやるのは流石に限度がある。すでに結構削れていた。

「あっ、もうちょっとで完全に復活するぞっ!ってことは亜美もそろそろ」

「アタシもそろそろ戻りたいってとこだ。いつだって準備できてる」

「なんか俺、噛ませ犬みたいな、あんま役割できてないな」

「そんなことない!日向はよくやってたよ」

「そうそ、ゴホンッ。我とその配下が認めてるのだ。案ずるでない」

そして倒れていた人たちもそろそろ復活。こちら側の戦力が大幅強化されるところになった。

「ヤバいな。このままじゃ確実に負ける。ギャンブル出るか一か八か。どんなに確率が低いからって、こんなゴミ共にやられて心半ばで散り、悪の限りを尽くされるよりずっといい」

「この世界の法に則って処罰するだけなのに、いかにも自分善人お前ら悪みたいな言い方しないで腹が立つから」


「この体力でも、こいつ一人ならくらわずに倒せる。だからやってやるよ。敵に背を見せるとか知らん。まずはお前ら3人。そして残った復活しそうな奴らども。全員、一気にボコしてやるよ!」

「抜けられたっ!危ない!」

振りかぶったばかりの最も隙が大きい瞬間を狙って、トルちゃんを避けて奥、3人の遠距離部隊へと一気に距離を詰める。

「光の槍よ!」

「それがどうしたっ!」

近寄られるのを防ぐためのブラッドの攻撃。だがそんなものをものともせず突っ込む。

自分の身体がどれだけ傷ついても勝つことに執着してる。だからこその意地を見せてた。

「みんなのところに、行くなぁ!」

トルちゃんが行かせないようしてるけど、すでにトルちゃんの場所は越えられて、トルちゃんがいかに急いでも間に合いそうにない状態だった。


「雪降って!」

目の前に突き進んでくる犯人。普通にかわそうにもかわせず、止めようにも止められそうにない。

雪で視界が全く見えないほどにして無理矢理にでも止めようとするも。

「くぅっ、でも、止まるわけには!」

ちょっとは足止めになったものの突き進もうとしてきた。

「これで、やるしか!」

クロスボウを多分ここらへんにあるとして放っても、流石に当たりはしない。当たったとしても、とどめをさせないと突き進んでくる。


「2人はそっち行ってて!」

いきなりブラッドが近くにいた六道姉妹を壁の方に突き飛ばす。そして

「皆はとどめさして!」

3人が一緒にいたら全員巻き込まれる。かといって全員せーので逃げても1人が襲われるのは確か。

ならと思ったブラッドが取ったのがこのやり方。2人を突き飛ばして無理矢理離れさせ、武器も持たず自分一人で攻撃を受ける。あの攻撃を受けた日向が回復してるから、私も大丈夫多分と。

「あの馬鹿っ」

「ブラッド!」

やろうとしていることを理解した2人は声をあげる。そしてそれを聞いたブラッドは突如あのことを思い出した。

吸血教のとき、同じように自己犠牲して、2人から心配されたこと。そしてあの時日向と話した

「本当吹は自分の命の価値低くし過ぎ。前も自分が凄い頑張って戦ってそして病院に入れられたんだから。他人の命も大事だけど自分の命も大切にする。約束して。いつかおっ死なないか心配だから」

この約束を。

「来るな!私のもとに。お前なんかにやられてたまるか!」

狙われやすくするために武器を外していたけれど、槍を真っ直ぐ構える。

投げたら先ほどと同じ結果になるだろうけど、持つだけで、相手と距離を取るための棒として使う。

「おらっ!まずは一人!」

「こさせるものか!」

雪の中を通り抜け、目の前に現れた犯人。そいつが近づいてこないよう、槍を犯人に向かって突き刺した。


「ちっ、この、どけっ!」

突き出された槍に当たり、思うように進めない犯人。槍に当たらないよう、少しずれても吹がすぐ修正する。

「負け、ないんだ!」

槍を掴んで、邪魔なものとして投げ飛ばされそうになる。飛ばされないよう必死に、火事場の馬鹿力で守り抜く。それが自分を守る意地。

「もう少しで」

雪の中、見えない中進むトルちゃん。抜け出された犯人のところでもう少しで追いつく。そこまで耐えれば、まだなんとかなる。

「来てるかよ。じゃあこいつ無視して2人を」

「だから、させないって言ってるでしょ!」

皆を守るためにも。槍を巧みに操って、そこへと行くのを阻止させた。

「こんなぽっち。これで!」

「っ、つぅっ!」

さっきとりあえず試す感覚でやったときとは違い、全部の力をそこに集中させて邪魔な槍を投げ飛ばそうとした。火事場の馬鹿力でもどうにもならないその力。できるだけ抗ってみるものの、槍は少しずつ吹の手のひらから抜けていく。

「おら、これで!」

そして最後。粘っていた最後の手から抜け、槍が投げ飛ばされた!終わりそうなのを思って反射的に目を瞑る吹、声をあげる丹と日向。でも、そんな時がちょうど。

「これで、終わり!」

後ろから来ていたトルちゃんが到着したときだった。トルちゃんが後ろから、無防備な背中に重たい一発を入れて、残り少しで足掻いていた犯人の体力を全て削った。

「がっ!ぐっ……」

そして犯人は悲鳴を上げたかと思うと、糸が切れたようにその場に倒れ込んだ。

「良かった……」

「ようやく、終われたっ!」

連続暴行事件に、犯人が負けて警察に引き渡されることでようやく幕が降りた。


倒したあとはてんやわんや。倒れていた人たちが大丈夫かの念の為の検査を行ったり、犯人を警察に引き渡すまで見張ったり。

報告を受けてトルちゃんのことで居ても立ってもいられずわざわざ来た輪笠さんに事の顛末伝えた。

来た最初トルちゃんが犯人だと思ってて嫌な顔をしていたけど、話をするにつれ事件の真実を知って顔が軟化していき、最終的にはトルちゃんが犯人じゃないと知って本当に安堵したような顔をしてた。

トルちゃんが輪笠さんに勝手に出たことを謝って、輪笠さんはトルちゃんのことを犯人だと決めつけてしまっていたことを謝っていた。


「あの犯人、フルスって名前らしいけど。担当のやつが頭抱えてたよ。こういうやつは大抵罪が軽くなるよううんたらかんたら言うか大人しく罪を認めるかだけど、差別思想を悪びれもせず伝えてるみたいで。あそこまで酷いと反省の余地無しで、罪も普通より重くなりそうかな」

別日、福井県異少課にて。

「あ、皆!」

「トルちゃん!こっち座って」

「トルちゃんここにいるんだ」

「事件に関連しているから、調書関係で呼んだんだ。今日のところはもう終わったっぽい」

「うん」

笑顔で可愛らしいトルちゃん。本当に今回の事件で振り回されて、大変そう。

「そういえば、トルちゃんよく私達のとこ来れたよね。偉い」

「トルちゃんが来なかったらって思うと、私怖いな」

「私を夜に見たって聞いたのが気になって調べてて、調べてくうちに変装とかしてるのかなって気付いた。それでよく出そうな区域を探し回ってたら出くわしたってところ」

「でも良かった。本当ごめんなトル。勝手に疑って」

「そんな。私何とも思ってないよ。何度も謝られたけど、そこまでしなくていいのに」

「輪笠さんそういうところあるから」

「どんだけ大事にしてるのか、目で見てわかってますから」

トルちゃんが謝ってくれたとはいえ、トルちゃんを疑ってしまって、挙句の果てに犯人同然にしてしまったことは消えない。これからも輪笠さんの中にこの出来事が残っていってしまう。トルちゃんの良い子さで、浄化されることを願いたい。

「そういえば、今日夜時間ある?時間あるならトルちゃんにお疲れ様をするためにどっか外食しようと思ってるけど、どうせなら2人共来ない?2人共大活躍だったし、もちろん奢るよ」

「じゃあお言葉に甘えて。トルちゃんと一緒にいろんな話しよっ」

「私も」

嵐の後、平和で穏やかな日常がこの場に流れていた。


「吹」

「我かっこよかったろ?かっこよかったろ?」

戦いが終わった少しあとの石川県組。丹の治癒も終わって後は帰るだけといった状態。

「うん。かっこよかったな。めっちゃ頑張ってて、全力で戦ってて。ずっと見てて胸にきた」

「お、お。そうだな。我のことがようやく伝わったか」

「珍しいね日向がこう言うの。日向もようやく分かった?ブラッドのこと。日向は中二病がどーとか言ってたけど、ブラッドはすごいんだよ」

珍しい日向のセリフにまくし立てる2人。

「あーもうすぐそうする。でさ、約束守ろうとしてたのは嬉しかった。ほんと吹はさ、心配になってたから。もうちょっと、守ってほしかった感はあるけどね」

「約束ってなんなの?」

「あの時、あーいなかったか丹。自分大切にって約束してたんだよ」

「あ、なるほど。確かにブラッドが何か……そんな感じになるの、嫌かも」

丹は話ながら胸に痛みを感じる。前の吸血教のときもこんな感じになった気がする。それは、こういうことなのかも。そう結論付けた。

(こんなことに、なるなんて)

「そうだ。我怒ってるのだ。こっち来い日向」

「はぁ?急に何イタッ」

日向がこっちに来ないからと、目の前に行って軽くおでこにデコピンする。

「我と約束したというのに、それでいて自分は反故して時間稼ぎ?馬鹿馬鹿しい。守れ」

「あぁ……すまん。あのときはどうかしてた」

なんだかんだいいつつ、日向は時間稼ぎとして攻撃性防御性何も無いのに自分の身体だけで攻撃を避けて来ないようにしていた。これが自己犠牲と言わずして何というのか。

そして日向はあのことを思い出した。途中から、日向が倒れてから吹が中二病的発言をしてないこと。あれは日向には分かってる。切羽詰まったり重大なことが起きたりして、中二病を繕ってられないときに出ることを。それだけ大事な仲間と思ってることを。

「ふん。我ら3人、誰も欠けるわけにはいかぬ。我に任せろ。我が率いてみせよう。我の知らぬ間に、勝手におっ死ぬでない」

「うんうん。みんな、仲良くね」

最後の丹の言葉は、皆に残ったみたいだった。


「なんか今回は思ったより大変だった。まさかあそこまで、かかるやつとは」

石川県に帰って皆と別れて一人。丹は帰路についていた。

「まあでも、たまたま使えそうなこれを手に入れたし、いいかな。俺があいつらを潰すのに、絶対役に立つ」


「疲れたね。北」

「いやー、結構大変だったなぁ」

長野県組の帰り道。平和に2人共帰っていた。

「そうそう。亜美大丈夫だった?死力尽くしてたじゃんあのとき」

「アタシ?まあアタシはね。あのときは結構マズった思ったけど、今はそんなかな。ちゃんと身体治してもらったし。そもそも、アタシは慣れてるしね」

「亜美いつも頑張るよな」

「アタシが適正のことをアタシがやってるだけ。分業ってやつ」

亜美が弱らしてホクが倒す。これが分業。

「そう?火力的な面とかで分かるんだけどさ、もうちょっと亜美のためになりたい、頑張りたいって思うよ」

「へぇ~?仕事放棄して色々やらかしたやつが言うね〜?」

「ま、ま、それはもう終わったということで」

「アタシももう終わったってわかってるよ」

からかい合える、良い仲な2人。


次の日

「おー」

「あ、名村さん」

「何かありましたか?」

移動扉をくぐって福井県の異少課に一人でやってきた亜美。そしてこんなところで会うと思ってなかったからちょっと驚いた顔で質問する六道姉妹。

「昨日のとき見た、トルってやついるか?アタシも最後少し聞いていたけど、知り合いなんだろ?」

「トルちゃんに用事?」

「ちょっと話したいことがあるんだ。そんな時間も取らねぇよ」

トルちゃんの場所を教えられ、そしてそこでトルちゃんを見つけた。

「ちょっと時間良い?」

「、私?」

「そうそう。アタシ名村亜美。あの戦いときいたんだ。それで、聞きたい事あってきたの」

「私なら何でも良いよ。2人を怪我させないよう真っ先に戦っててくれたんでしょ?私感謝してるの」

好印象で話しやすい雰囲気。亜美は聞きたいことをトルに聞く。

「どうやって別の世界から来たか?気づいたらここの公園にいて、2人に見つかって、輪笠さんのとこ行くようになったかな。だから、私を見つけて助けてくれた、ここにいる皆大好き!」

「それじゃあ、あれは……」

少し経ち、亜美がしたかった質問が全て終わったころ。

「それにしても、こんなこと知りたがるんだね」

「私達がやってることに、応用できないかなって」

そうして話は終了。帰路につく亜美。

「空振りかぁ。そんなうまい話はないかなぁ」

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異世界対策少年課 読みやすさ重視版 時の花 @tokuSsenpan

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