第32章 ふざけた世界の女装村
「これを、ここですね」
静岡県の警察署内。ここにいるのはまずここの異少課の若木露里と野宮陸。そして富山県の神代新と波山愛香だった。
なんでこんなところに2人がいるのかというと、ここで若木達が倉庫の物品移動の手伝いを頼まれ、でも上の方まで運ぶのきつそうだから瞬間移動を使える愛香がいる富山県に行き、愛香とそこにいた新もついでに連れてきたから。
「よーしっと、終わったぁ……」
「お疲れ陸ちゃん。皆もお疲れ。手伝ってもらってごめんね」
「いやいや、私達暇でしたから」
「あ、そうそう。三岡さんがこの前出張のお土産で買ってきたお菓子が部屋においてあるから、ちょっと食べていってよ。あれ、美味しいのよ。抹茶の風味がいい味出してるのよね」
「抹茶……食……べ」
「いいのか?じゃあお言葉に甘えて」
抹茶と聞いてウキウキの愛香。それを見たらいやいやいやと辞退するなんてできなかった。
「はぁ……美味しいこれ」
「あぁ……美味しいこの顔」
「また露里がヤバい顔してる。なんかすまんなこんなやつで」
「陸ちゃん。人のことをそんなこと言っちゃいけません。めっ」
「親かよ。そしてこんな親嫌だ」
異少課の部屋でワイワイ中。そしたらドアがノックされ
「終わったのか。大変だっただろ、あー、手伝い呼んだか。ほい。ミネラルウォーター」
現れたのは静岡県異少課の上司の三岡浜海。さっきの倉庫の仕事も彼女から指示された。
「それじゃあ。なんかあったらいつもみたいにこっちの部屋に」
「あんれぇミオミオじゃん!ミオミオ〜!」
「げっ……」
廊下から誰かの声が聞こえた。そして三岡さんがすっごく嫌そうな顔してた。
「ミオミオギュ~」
「暑いっての離れて」
「なるほどこういう人前で甘えるのには現在のミオミオの羞恥心メーターの上限の関係から制限がかかってるそのリミッターを解除するのは厳しいからムード的にできる場所少なくとも誰もいない場所ならブツブツ」
「何言ってんだ。それでなんだ、仕事か?」
早口で言ってるのをシカトする三岡さん。
「まずどちら様?」
「私は平良天江。そしてこっちの子が平良心。心には会ったことあるかな」
「うん天江姉。この前のときに会ったよ」
「山梨県の異少課の上司やってるやつ。で、私の昔馴染だ」
「平良君じゃないの。元気だったかしら?」
「うん。僕怪我も病気も無しだったよ」
「はぁ……こいつが横にいるせいでこういう子見ると癒やされる……」
心君は素直な良い子。露里っていう発言問題児に付き合ってるとこんな子が清涼剤になるみたい。頑張れ陸。
「それでなんだ?ただ会いに来たわけじゃないだろ。用件は?」
「ってか俺達帰ったほうが良いよな。こっちの話っぼいし」
「確かにそうですね。お邪魔しました」
「帰らなくてもいいよ。任務で人が少ないから手伝い頼めないかなってね。行けそうミオミオ?」
「こっちは特に仕事もその予定もないが、そこらはこの子達と」
「私は良いわよ。陸ちゃんもいいでしょ?」
「いいんだよ。いいけどさ、そういう言い方だと断りづらいからやめてほしいかな」
「陸ちゃんのことめちゃくちゃわかってるつもりだから大丈夫」
まあ歴は長いし2人の仲悪くはない。なんだかんだ陸も心地よく思ってそう。
「ちなみにどうかしら?任務の人数多いほうが早く終われるから、できるのなら手伝ってほしいかな。もちろん、巻き込んだみたいなもんだから帰っても良いからね」
「まあ良いですよ暇だったわけですし」
「私もかな。この仕事好きですから」
「皆ありがとう。本当こんな急なの手伝ってくれて良い子たち。そしてそんな子たちにしたミオミオも良い子〜」
「あー!だから、ハグすんな。しかも強く。こんなの続けたら怒るぞ」
「昔みたいに私に甘えてよ。いつでもALLオッケーだから私」
「昔のかと蒸し返すなあんなの」
「三岡さんが甘えてた?気になる私」
「割と気になる俺も」
「気にせんくていい」
「ミオミオはここをポンポンと叩くの好きだったよねこんなふうに」
「ふにゃ~……いやいや止め……ふにゃ~」
「めっちゃとろけてる。クール系がたまに見せる顔って、けっこういいのよね」
「これは三岡さんが弱いのか、あのポンポンが最強なのか……」
目の前で起こる三岡さんの痴態を真剣に見ていた皆だった。あとで忘れろと三岡さんから圧をかけられた。
「コホン。とにかく」
ハグで甘々に溶かされていた三岡さん。その事自体が起きなかったかのように振る舞う。
「そのまんま進行するんだ」
「クール系が甘えるのってキュンってくるのよね。そういうの好きだわ」
「若木、野宮。2人共ここ5分の記憶を忘れろ」
「……天江お姉ちゃん。僕もしてほしい」
「はいはいこっち。心もギュ~」
「上司と部下って関係なのに凄く仲いいですね。岐阜県のあの人みたい」
「ってか名字同じだけどもしかして」
「心の親戚のお姉さんで、昔から良く一緒に遊んでたんだ私。今も心とは仲いいよ」
「おーい、任務の話。それ目的で来たのに脱線しすぎだ」
「そかそか、それで任務の話だけど」
ハグしていた心君をハグやめて椅子に座らして、そして任務の内容を話す。
「山奥の集落に行った人から魔族の目撃情報があってね、その調査だよ仕事は。悪さしてるのなら討伐も。2人だけなら調査時間かかりそうだから頼みに来たんだ」
「2人?心君以外にもう一人」
「私私」
「あぁー、なるほど」
異少課の上司は大抵現場仕事にはいかず事務的な仕事ばっかりやっている。でも討伐を含まない調査ぐらいなら上司でもやれる。
だとしても事務仕事が回らなくなるやらでほとんどの人は任せっきりならしいけど、彼女は違う感じのよう。
「そうそうそれともう一つルールがあって、女子は何でも良いけど、男子は女装して任務に望んでほしいなぁ。というか確定で」
「はぁ?何言ってんだ」
「女装って、長い間夢見てた陸ちゃんの女装がついに!何度も妄想したけど結果はどうなるかな~」
「しねーよ。どうせ何かの間違いだ。除草とか助走ってことだよ。あと人で勝手に妄想するなゾワゾワする」
「女装にハマって学校でもずっと女装し続けた陸ちゃんの妄想したことあるわよ」
「話すな勝手にやってもいいけどその話持ってくるな胸のうちにしまえ」
「妄想は自由なの!つまりこれは親公認……」
「親じゃないし公認もない」
「いやさ、なーんでそんなことを。しかも男子だけってことは尾行などで素顔がバレたくないってことじゃないだろ」
「正解。簡単に説明すると、目的地の集落の掟で男性は女装しないといけないみたい。伝統がどうたらこうたら?だったかな。女装してないと村に入れてくれない」
「何そのふざけた素晴らしい村、エヘヘへ」
「笑い方汚な!」
「さあ、さあさあ陸ちゃんのを……」
ゆっくり陸へと近づく不審者若木露里。
「日光で消毒しろゾンビ。ってそれより、そんなことだったら俺やめるぞ。いやだって手伝いの要請だよな。じゃあ俺に拒否権あるな。誰が女装なんて」
「野宮諦めろ。行け」
「なんで!」
「人の恥ずかしいことを見たんだからな、逃がすかよ」
「そうだそうだ!陸ちゃんは女装から逃げるなー!」
今度は陸に圧をかける三岡さんと便乗して女装させようとする露里。
「いや勝手に、目の前で、あんなことやったのが悪いからな」
「知らん。後揶揄ったから同罪」
「司法仕事しろ。ってか君達、嫌だよな嫌だよな。女装なんてしたくないよな」
「え、僕は……嫌ってことじゃないけど。任務だし」
「どうだろ、やったことないからな……いや分からん」
「くそっ、仲間がいない」
「逃げれないわよ、やるしか無いわよ。陸ちゃん」
「楽しそうですね静岡県のみんな」
周りの人からいいなーなんて思われて助け舟を出してくれなかったり、同僚と上司にやるよう追い込まれてたり、そもそも状況が断りづらかったり、なんか可哀想な陸。
「うぁー……」
「なんかげんなりしてる、大丈夫陸ちゃん」
「元凶が……」
結局任務を受ける。女装をすることとなった陸。すっごい嫌な顔してる。
「じゃあまず女装のための服買わなきゃだね」
「ちょっと待って、買わなくても私の家に服色々とあるからそれ着たらいいと思うわ」
「そう?ならお願いしようかな」
「どうせなら私の家行こっ。いろんな服の中から自分に似合うの選べるわよ」
「どんなのがいいかな」
「愛香、服選ぶの手伝ってくれるか?女ものは全く分からなくて」
「いいですよ。神代先輩。私にできることなら」
「……」
割と楽しんでる心。任務だからとちゃんと考えてる新。そして、仕方なく受けたけどすっごく嫌な陸。
この子達の衣装のため、若木家へと向かった。
「そうそう。ここの部屋に色々と出してもらったわ。着替える際には隣の部屋でやって。ここらの部屋には入ってこないよう言っておいたから大丈夫よ」
そのまま露里の家の中、服がたくさん置かれている部屋へと入れられた。
心君は家やら服やらの凄さに感動して目を輝かせ、新は愛香と一緒に問題がなさそうな服を選ぶ。そして
「なんで俺は負けてもういいなんて言ったんだまだ勝ち筋あっただろ俺があの服着るのか一生恥さらすんだが」
「陸ちゃん。諦めて着よ。大丈夫、先っぽだけだから、ね?」
「はぁ……仕方ない。せめてマシな服を探すか」
「陸ちゃんはそこじゃなくてそっちに置かれた服から選んで、いつか陸ちゃんが女装すると願って前もって準備していたから」
「最悪だ……同僚ガチャ最悪だ……」
露里のことをなんだかんだ認めてはいるがここだけは頑なに認められない。
露里は露里で長い間そのことを考えていて、今ようやく叶うとめちゃくちゃ嬉しそう。自分が大好きな幼女の愛香よりもこっちに執着している時点で分かる。
「陸ちゃんの可愛さを最大限引き出せるようしたから!」
「ちっ……」
舌打ちしたものの、もうどうにもならないと悟った陸。なら嫌なことは早めにして早く終わらせると選んで隣の部屋に持っていった。
「陸ちゃんー陸ちゃんーうへへへへ」
「あの、こんなこと言うのだめだってわかってますけど、気持ち悪いです普通に」
異少課にそこそこいる素の性格はいい人なのに残念な性格やらなんやらをしている人の一人。若木露里である。
「やっと出てきた。あー可愛い。女の子にしか見えない。こういうのが女装の良さだから」
「良かったです神代先輩。これなら女装がバレて面倒なことになるはことはないと思います」
まず出てきたのは新と心。心は元々の身体の小ささも相まって可愛いロリっ娘に、新は今を生きる女子学生みたいな格好になっていた。
カツラで伸ばした髪に髪留め付けて、薄ピンクのフリルのついたワンピースを纏う心。
カツラでストレートにし、半袖のラフだけど女の子っぽさのでる服装をする新。
どちらもかなり良い。露里もご満悦。
「俺もいかないと、だよな……露里にだけは見られたくないが」
そして最も露里が見たい陸も露里の前へと現れた。
「なあ、どうなんだこれ?鏡置いてないから分からん」
「ふぁっ……」
元々の小さな背と女子みたいな綺麗な肌。それに薄ピンクのフリルの付いた可愛い洋服と水色のスカート。その組み合わせが融合しそれぞれが元の可愛さを乗算していった結果、そこにいたのは"美少女"としか言い表せない子だった。
「天使だ」
「泣くなこんなので」
「天使だよ!陸ちゃん本当尊い、可愛さ天元突破してるよ!もう最高で最高で最高。可愛い可愛いあぁもう可愛い。もう、生きてて良かったよぉ……これは守護らなきゃ」
感動の涙を流してべた褒めする露里。陸の女装で感情が揺れ動きまくってる。
「経験者、なんですか?女装の。2人も似合ってましたけどそれ以上に似合ってて、女子にしか見えません」
「女装ってここまで変わるんだって驚いてる俺」
「テレビに出てる子役みたい」
露里のは元々の性格がアレなのでまあ多少オーバーではあるとはいえ、周りの皆もこれぐらい褒めてる。ちゃんと女装が凄い似合ってる。
カシャカシャカシャカシャ
「露里撮んな写真。全部消せ」
「えっ……うぅ……」
見るからに絶望的な表情。悲しみから流れる涙も流す。
「ねぇ何とか、何とかならないかしら!?お金が欲しいの?これだけあげるから!それとも宿題1年間代わりにやってあげるわよ。だからお願いこのカメラに収めさせて!こんな素晴らしいものを脳内にしか収められないのやだから!ねぇねぇ」
「ちょちょ痛い痛い揺するな!話聞け話聞けや!」
「若木さん!どうどう、どうどう」
「なんかさ、その熱情がキモいよ。本当こんなのになんでそこまで。お前好きなの幼女で女装は違う分野だろ」
「違う分野でもいいものはいいの!女装には女装の良さがある。中身は男の子なのに見た目は女の子で女の子に成り切ろうと一生懸命になる姿とか、本当に最高なの!だからお願い陸ちゃん」
「ああ涙拭け!くっつくな暑苦しい。わかったよ露里の中だけで完結するなら、他の誰にも見せないなら。あと露里も恥ずかしいことをするっていう条件で撮らせる。なんかもう諦めた」
ここまでされるともう面倒くさくなった陸。その声を聞いてすっごい笑顔になる露里。その笑顔はもっとマシなとこで使おう。
そんなこんなで一旦露里の家での件は終了。そのまま車に乗って異少課まで向かった。
「ここ、もうすぐ目撃情報があった村に着くよ。それじゃあ男子達は準備しようか。心はいこれ」
「はーい」
山梨県の異少課にワープしてそこから平良天江の車で移動。村の近くにある休憩スペースで女装に着替え、そして村へと歩いた。
「もうすぐ村着くよ。村の中では女の子っぽい話し方してね。女装してれば村の中には入れるけど、中身から女の子みたいになってないと村人が不機嫌になったりして、話聞いてもらえないんだって」
「こんな感じ、かな?どう?ぼ、私」
「心はいいね。元からバリバリ男が出てるタイプじゃないから。そこまで気にしなくても少し気をつければいけるかな」
「『わ』とか『なのよ』とか語尾につけてればいいかもね。一人称に気をつければ、私はそこまで大丈夫じゃないかなって思うわ。男女でそこまで差は無いものよ」
「いやそう……ね」
「必死に頑張るその姿いじらしい可愛い結婚したい」
「うん。そんな感じ、いいよ陸ちゃん」
「でも難しい。こんな感じ……なのよ?」
「リラックスリラックス神代先輩。私の喋り方真似しません?にしても伝統がどうたらって言っても、なんでこんな変な風習なんでしょう?」
「旅人にも要求してるからかなり重大な伝統らしいけど、調べてもこの村の情報そんなに出てこなくて。女装のことはあっても理由までは参考ページに書いてなかったんだ」
「地方の風習って、割と変わったもの多いわよね。わたしにとってはこれ最高だけど、ここまでだと不気味さが来るわね」
「見えてきたね、ここ妙安村が」
「パット見はよくある普通の……いや、そうじゃなさそうですね」
村の建物とかはまあ山奥の村って感じ。ただ村を歩いている人に女性はいても男っぽい格好をしている人がいない。男性が子供から大人までみんな女装していた。
「この村が。本当に女装してるわね」
「ところで天江姉。魔族の目撃情報って、結局どんな魔族なの?」
「その人はこの町に荷物を運んだあと、町の近くで見かけたんだって。見た目は人に似ていたけど、角が生えてて、耳の形も良く見たら人と違ったらしいよ」
「この町の近くなら、町の人が何か知っていそう」
「聞き込みですか?」
「うんうん。流石に本当なら知らないってことは無いんじゃないかな」
まあ誰かしらは知ってそう。
「とりあえずあそこの店の人にでも聞いてみるか」
適当にそこら辺の店に指を差して、その店へと入った。
「あら、いらっしゃい。うちの野菜は新鮮よ」
「すみません買い物ではなくて。少し調べものをしていて、最近村の近くで何か変わったこと知りませんか?」
「村の近く?変わったこと?うー、思い当たることは私には。いや待てよ、のぞみー!こっち来て」
「なんさお父」
階下から降りてきたのは皆と同い年ぐらいの子。
「前森の中で何か見つけた言うとったよな。この人たち村の近くの変わったこと調べてるらしくてな。前のこと教えてあげたってくれ」
「アレさね。前森でキノコ採ってたら、何か見つけたんさ。何ていったらいいかな。なんか空間が歪んでる、みたいな。伝わるかかさね?」
何だろう。似たようなもの……今までに……考えてみたけどやっぱり分からない。
「案内頼める?」
「分かったさ。じゃあその場所案内するさ。ウチは瑞穂のぞみ。よろしくさ」
「瑞穂さんも女装しているんですね」
「そうなんさ。村の外から来たんなら、この村の風習に驚いたんじゃないさ?」
「確かこの村の伝統……なのよ、ね?」
「そうさ。ウチは良く分からんけど、なんかそうらしいさ。村の男皆女装してる。それがこの村さ」
「なんでそんな伝統が生まれたんだろう」
「ほぇー……言われてみればなんなんさね。昔のことかさね。聞いたことも何もないさ」
「村の人でもそこは知らないのね」
「ウチは気にしたことも無かったからさ。ウチにとってこれは伝統だからやってるって、ただそれだけさ」
変わった伝統だと思うけど、まあ外部の皆がとやかく言うのはなんだかという感じ。皆がそれでいいってなってるなら、まあいいのかも。
「この奥、真っすぐ行ったらあるんさ。ちなみに調査時間かかりそうならウチは先に戻っとるさ」
「全然。ありがとう案内してくれて」
「いいんさいいんさ。実際目的のものかも分からんさね」
ということで別れた。魔族関係だとしたら一般人巻き込むのは良くないから自主的に離れてくれるのありがたい。
「それで、これは……」
「何なんですかね。こんなもの見たこともありません」
言われた場所にあったもの。それは空間に浮かぶ小さな謎の歪み。説明も難しいけどまあそういうもの。周りはただの森なのに、その奥には森とは全く別の平原が見える。大きさは指が数本通る程度の小さなもの。
「愛香の瞬間移動……というより、あの移動扉みたいなもの?」
東松木の武器の力の、扉同士をつなぐ扉を生成するやつ。あれに似た雰囲気は感じる。
「元々の目撃証言があった魔族に関係はしそうだよね」
「能力か何か。かな?」
「でも、これ自体はほっといてもいいのかな?何も起きそうにはないけれど」
「気にはなるけど、一旦魔族の方調べてからかなー。分からないけど魔族に関係しそうだから、元々の証言の信憑性もかなりありそう。こっちのこともだけど、魔族の方は場合によっては早急に対処しなければ村が危ない事案かもしれないから」
「その魔族探す天江姉?」
「うん。でもどうしようかな。もう一回村に帰ってこんなの知らないかって聞いてみよう」
一旦これは後回しにして、村へと戻った。
「あれ目的かと思ったけど、あれじゃなかったんさ?」
とりあえず村へ戻って、一旦はのぞみのところへ。森にあるあれを見ていたのならもしかしたら知ってるかもしれないから。
「関係はしていたけれどね。単刀直入に聞くけど、ここらへんで変な動物を見たって話。聞いたこと無い?」
「変な動物ってなんさ?」
「ここらへんで今まで見たことなかった動物が、それが最近急に現れた感じ?聞いたこと無い?」
「分かんないさね。最近は森怖くて行けてないんさ。特徴とかはないんさ?」
「目撃情報によると、見た目は人に似ていたけど、角が生えてて、耳の形も良く見たら人と違った。だよね」
「うんうん心。良く覚えてたね。それで、そんなのに心当たりない?」
魔族関係を無闇矢鱈に話すのは良くないが、魔族の見た目を魔族という言葉を使わないで説明するなら多分大丈夫きっと。
天江さんが何も言ってこないから多分大丈夫そう。
「それって……もしかして村長さんさ?村長さん見た目は違うけどいい人さよ。動物扱いするのは良くないさ。でも見た目違うから、その情報出した人が勘違いしたのかもしれないさね」
「村長?」
「そうさね。村長さんの家は村の奥さ。案内するさ?」
「ちょっと皆集まって会議」
のぞみのことは一旦置いて会議スタート。
「村長ってどういうことかしら?」
「でも人間とみためは違うだわよね」
「悪い魔族じゃなかったってことじゃないですか?良い魔族で村となんやかんやあって最後には村長に就任したってことなんじゃ」
「そう考えても村長に就くまでがトントン拍子なんだよな。いくら何でも村長にまでなれる?」
「そこが気にはなるよね。目撃した日時は今から一週間も開いていない日。それより前に来てたとしたらもっと早く目撃が起こっててもおかしくないからさ」
「一旦、会いに行く?」
「そうだな。ここらでうだうだ考えてても仕方ない気がする」
「なんか決まったさ?」
「村長の家への案内、教えてくれる?」
「お安い御用さ。こっち来てさ」
家を出て道なりに進む。そんなのぞみのことを追っていた皆。村長のことが気になって仕方ない。
「村長さんって、どんな人なの?」
「どんな人って、ウチはあんまり話したことないけど、いい人そうさよ。村のことちゃんと考えてる人さ。悪い噂も聞かんさ」
「やっぱりこれ、最初の人の見間違いで、それとは別に森のあれができたってことじゃないでしょうか?」
「ありえなくはないけど愛香、森のアレを見るになんか繋がってると考えたほうが自然なんだよな」
森のアレがほぼ確実に魔族が関わってそうなやつ。この世界にはないもの。
これがあると目撃情報もつながっていそうと考えるのが自然だった。
「正直それより私は見た目が違うことを違和感なく伝えてることが気になるわ。いくらなんでもおかしいわよね陸ちゃん」
「そういうのを気にしないって言っても、まあおかしいかな」
「村長の見た目って隠してたか?」
「隠すってどういうことさ?」
「村長さんが物被ってして見た目が違うのを隠していたけど、それをたまたま知ってしまったとか、そんなのじゃないんだよね?」
「そんなことやらんさ、普通にしてるさ」
「そう。ならありがとう」
たまたま知ったとは違いそう。いくらなんでもおかしい。そんな見た目が違う怪しい人が村長になんてなれるだろうか?
そして問題なく村長の見た目が村で受け入れられていそうな雰囲気を感じた。一部はともかく大多数は見た目が全然人間じゃない人をずっと村長にするだろうか?
「村長さんって、何者か分かる?」
「何者か……うぅ考えてみたけど昔のことなんて分からんさ」
「聞かない?村長さんは昔どこどこで〇〇したって」
「分からんさね。村長になってからのこともあんまり知らんさ。全く知らないんさ私」
「親とかから話を聞いたことも?」
「ないさね。それでも話せないような事があるわけじゃ無いとは思うさ。そんな話わざわざしないだけさね」
「見えたさ。あそこにある家さ。でも村長さんと何するんさ?前の森のと同じ感じさ?」
「まあそんなところね」
「分かったさ」
着いたので案内してくれたのぞみと分かれて、そして家の前で色々考えてた。
インターホンを押して少し待って、中から男が出てきた。
「誰ですか?」
「っ……」
その見た目は一目見ただけで人間じゃないって気づく。もうそれはあからさま。隠そうとすらしていない。
そして見た目の至る部分が目撃情報に酷似している。とりあえず最初の目撃情報が指しているのはこの人で間違いない。
「私達は……まあちょっとした調べごとをしていて、……とにかく、質問いいです?」
「変なことでなければ」
「すみませんあとここでは話しづらい内容なので中で話すのは?」
「うーん?良いですけど」
とりあえずあっち側が混乱している。
「それで、魔族ですよね?」
「はっ……!いや、何の話ですか?」
「流石にこの見た目で言い逃れはできんでしょ」
「隠そうとしてないわよ」
「まさか」
「ちょっとまあ、そういうのは分かってるので」
「え?あーあーそうですね」
「それで、魔族ですよね?」
「だとしたらどうするのです?」
「違うの。悪い子としてないなら私達も何もしないから、こっちに来てから何があったのかおしえてくれない?」
「まあこの村の親切な人に拾われて、そしてそのままんまなんやかんややってたら村長になった。そういうことですね、どうでした?満足いただけましたか?」
「ちゃんと魔族ではありますが、こちらの世界で生きようとしているだけですよ。何か問題でもありますか?」
話聞いた感じ、やっぱり気になるところはあるけど繁や凪などのタイプな気はする。迷惑かけずになんか生きてるタイプ。
「悪いことはしてないんだよな。なら俺達が残る必要もない」
「そうよね。魔族だからって何でも倒してたら私達のほうが悪人になってしまうわ」
思ったより相手は物わかりが良く話にきあってくる。楽なことこの上ない。
「ふーん?」
「もう、いいですか?」
「はい。すみません手間かけて」
一旦聞きたいことは聞けたからという理由でとりあえず話を終わらせた。
「変わった人達でしたが、あの様子だと私を捕まえようとしていたわけではなさそうですか」
村長の家の中、先ほどの異少課の人達の訪問が終わったあと、独り言を喋っていた。
「特に問題はなさそうですね。村の中では見たことないので外の人でしょうが、外の人にはかけた魔法が効かないので困りますね」
「バレてないのならいいです。大人しく帰ってもらう……しかしあの女装した子達欲しいです。魔法を全員にかけることは私の身体が持たないですね。良くて女装していた3人でしょうか」
「賭けですね。このことがバレてしまう可能性はありますが、その分得られるものも大きい。あれほどの逸材は見たことがない。やってみましょうか」
村長の家の前、さっきの村長の件で話している。
「話した感じ、いい人そうでしたね。こっちにの世界に来たけど悪いことしていない、いい魔族だったってことですね」
「うん。やっぱり他の魔族も皆こうしてくれたらいいのにな。天江姉?どうかした?」
「隠さずやってるのを見ると、なんでこのことを普通に村の皆は受け入れられてるのかなって。やっぱり小骨が刺さったような違和感がね」
「村の人がそういうのに寛容だったってことじゃないかしら。伝統で女装する、ちょっと普通と変わった村だから、普通の人の考え方じゃわからないものもあるわ」
「まあ、気にはなるけどかといってこの村で何かしらの被害が出ていたら連絡が来るはずなのよ。それが無いってことは、特に何も起きてないってことでいいのよね」
結局のところ、魔族はいたが対策を講じるほどではない。そういう結論で今回の件は終わりということとなった。
「ところで森のアレの件はどうするんです?」
「それはこちらで何とかするから。あまり心配しなくて大丈夫」
「さて、任務も終わったから帰ろうかと思うけど、どうする?ついでにしたいことあればしてきていいよ?」
「お土産とかです?」
「うんうん。こんなとこまで来ること、後にもないでしょ?」
「そうだ今のうちに、今しか陸ちゃん女装しないんだから、脳に焼き付けないと!陸ちゃんー!陸ちゃん?」
「ちょっと心、どうしたの?目が虚ろに鳴ってるけど眠いの?車に乗るまでは我慢してそこでなら寝ていいから」
「神代先輩大丈夫です?さっきから何も喋ってないような気がしますけど」
女装している3人の男子。そのどれもが何故か変な状態だった。皆何も喋らず目は虚ろで、心ここにあらずといった状態。
「え?もしかして熱中症、大丈夫大丈夫?」
「陸ちゃん、陸ちゃん!私、若木露里、聞こえてる?」
「神代先輩、熱中症なら日陰に」
「熱中症にしてはおかしくないかしら?3人が一気になるのもそれに何も喋ってくれないのも。熱中症だからって意識失うほどの重度じゃなければ話はできるはずよ」
まさかの事態。何ともなかった3人に一体何が起きたのか。
とりあえずそこら辺の場所に3人を座らせた。
「うーん、熱も無さそうで脈拍とかも安定してはいるけれど」
「神代先輩、聞こえてますか?」
「状況はまずいね」
3人共目が虚ろ。さっきから色々と声かけてるのに全然反応を示してくれない。
「原因が分からないわね。私の力で無理矢理回復……現実的じゃないわね」
「武器の力で回復、できるんです?」
「攻撃したらだんだん溜まっていってそれを使って回復するみたいなの私のは。だから攻撃する対象がないと駄目なのよ」
こんなところで暴れるわけにも行かない。そもそも時間がかかりすぎる。
「原因原因……ついさっきあの村長と話してそしたらこうなったよね」
「村長が何かやったってこと?」
「3人は急にこうなったのに私達は問題なし。原因が不明。男の子だけがこうなった。誰かによって意図的に引き起こされたと考えるのもありだと思うわ」
「いい人のように振る舞ってたけど、やっぱり小骨が刺さったような違和感があったのよ」
「でも、それでいたとして」
「あ、俺どうした?」
「神代先輩、大丈夫だったんですか!?」
「……何かあったぽい?」
「良かった陸ちゃん……大丈夫、後遺症とかない?」
「心、心ー!」
「わぷっ。天江姉苦しいよ」
なんか話してたら全員元の感じに戻った。ちゃんと返答もできてるし、虚ろだった目も全く普通になっている。
「覚えて無いの陸ちゃん?」
「あの村長の話聞いて、そっから先が全然。話聞いた感じ変なことなってたっぽいけど」
「本当に、何もなってないのよね?」
「ないんだよね。違和感も何も。そんなこと起きてるのに自分でも不思議なくらい」
「大丈夫だったのは安心しましたけど、何だったんでしょう?全員がこんな一気に戻るなんてありませんよね?」
「心達は心当たりない?」
「僕ない。全然思いつかない」
「そう。何も起きてないのならそのまんま帰ってもいいけれど、そんな楽観視しちゃ駄目ナ気するのよ」
「原因は調べておきたいわ。またいつそうなるかわからないもの」
分からないし手がかりがないとはいえ、それで諦めることはせずちゃんと考えて理由を見つけようとする6人。
「村長さん、ですかね?」
「さっきはその可能性考えてたわね。3人はどう思う?」
「ありえなくはないけど」
「他のことも考えていいと思う。何も分かんないから」
「他の理由……女装?」
「……ふざけてるなってつっこみたいけど、倒れた3人が女装してるからあり得なくもないのがな」
「だとしてどういう理由で倒れた?」
「それは分からないわ」
やっぱり情報が少なすぎる。議論が進んでる感覚はなかった。
「仕方ないけど、今日はやっぱり帰ろうか。後日またこっちで調べるということで。このまま話しても埒あかない気がしてね」
「私としては調べるの早いに越したこと無いと思うけれど、理由も何も分からないというのも分かるのよね」
「見た感じ、誰もピンピンしてますから、早くに終わらせなくてもいいんじゃないですかね」
まあ今の件、何で起きたかを予想することも難しい。まださっきの虚ろなままなら今すぐ探すことになっただろうが、結局元に戻ってしまったようなら急ぐ必要もない。
「じゃあ帰ろう。車のところ乗っておいて。さっきも言ったけどこの村でどこか寄りたいところあるなら行ってもいいよ」
「天江姉、どこに帰るの?」
「ど、どうした心。帰るって異少課に、だよ。特別なことは無いよ」
「何で帰らないとなの?僕ずっとここにいたい」
「ちょっと待ってくださいおかしいですよこれ」
「心、何言ってるの?」
「そのまんま。僕はずっとこの村から出ていかないよ。帰らないよ。むしろここが帰る場所だよ」
どう考えてもおかしい。心は天江姉のことなら基本従う。こんな感じに反抗することは珍しく、ましてやずっとここにいるなんてすることが。
「だよな。俺も帰るが気になっていたけど」
「神代先輩何言って」
「聞き間違いだよな。だってここから出ていくわけないよ。こんなに素晴らしいこの村から出ていくなんて」
「陸ちゃん。変なこと言わないで」
女装した3人共が変なことをいい始めた。無理に止めることができないみんな、驚きこの上ない。
「これって……」
「そんな気が」
「村長?」
「私はそれをずっと思ってるわ」
「なにかしろできる位置だよね。家近いみたいだからら」
「隠れながら変なことするのも可能」
「今、あそこのカーテン閉めたよ」
「やっぱりいた?」
「何かやっててもおかしくない」
さっきの村長の家を指すと2階のカーテンが直接閉められたところだった。もしかしたら何かをしてその様子を観察して、それがバレそうになったから慌ててカーテンを閉めて誤魔化した。そんなのでもありえない話ではない。
「とりあえず、さっきは帰るって言ったけど、心がこんな状態のなら治るまでは帰れないいいよね?」
「はい。神代先輩をせめて元に戻してから」
「陸ちゃんの分、私がなんとかする。」
一旦こっちはまとまった。根本的な要因に関しては何もわかってないが、少なくともこの状況は放ったらかすとやばいことになってしまってもおかしくない。
だから、ここを定めておくのは大事だった。
「とりあえず問いただしてみるとしよう村長に」
「状況的に100怪しいわね」
「あんまり分かってないけど、まあなんかやりゃいいって?」
「あー……ここは一旦私達に任せて陸ちゃん。今の陸ちゃん達にやらせるの多分無理だから。ただ従えばいいから」
「はあ」
この村にいたいと思う以外に問題が無いから言う事聞かせようと思えば聞かせられる。それに関してはとてもありがたい。今までのだと乗っ取られて話聞いてくれなかったり挙句の果てには敵対してきたりだったから。
とはいったものの、乗っ取られてるやら説明したところで多分話にならないから変になってない女子達がやる。
「押しますね」
そして村長の家のインターホンに手をかけ、そして押した。
ピンポーン
村長の家の中。インターホンの音に悟ったかのように呟く。
「これはまたまずいですね。先程カーテンから様子を覗いているのに気づかれましたか。何故気づかれたかを嘆いていでも仕方ありません。あちらにはもうバレている。あの逸材は逃したくありませんから、第2の作戦といきましょうか」
家の中から武器を取って、そして玄関を開けた。
「出てきた」
「ちょっと私またお尋ねしたいことがあるのですが」
「そうですか。気づきましたか。やはり賭けは賭けでした。その通りですよ。私が魔法でここにいたくなるよう3人を変えたんですよ」
「えっ?あ、ああやっぱりそうなのね!」
「え、あ、えっ、えっ?」
「そう……思ったより早く終わったわ」
確証は無いが問いただして証拠を見つけようとしていたらまさかあちらが簡単に自白してきた。
あっちはこちらが全部分かってると思ってペラペラ喋ってくれる。チャンスなので実は知らなかったなんて釘を差さずにこのままもっと自白してもらおう。
「何でそんなことを?」
「簡単な話ですよ。3人共逸材なのですから、もう二度と会えないなんてことにはさせません。ずっと見られるようここに住まわせる。特に可愛い真ん中の子、絶対に入れたいです」
真ん中にいた陸を指差す。可愛いなんて言われて露骨に不満顔になった。でも可愛いことに変わりはない。
「とりあえず元に戻して」
「嫌ですね。私も言ったように逃がしたくはないので。なので、戦いで勝負をつけましょう。こちらです」
そして家から出てきた彼に案内されて、そして最後に来たのは周りにある森の中だった。
「ここなら誰にも迷惑はかからないでしょう」
「思う存分戦って勝ち負けつけろってことね」
村近くの森。村から少し離れた誰にも見られないであろう場所。
「ここならいいですね」
「私あんまり分かってないけど、逸材ってどういうこと?」
「陸ちゃん達に何か悪いことしようって?」
「そんなこと滅相もありません。先ほども言いましたがこの村に住まわして愛でる。それ以上のことなんてないですよ。3人共の見た目、凄い逸材で一目見て凄く可愛い欲しいとなりましたよ」
「逸材って……え?見た目?」
「当たり前じゃないですか。男だというのに可愛らしい格好して本物の女の子、いやそれ以上に振る舞ってる。これを逸材と言わずして何になるというのですか!」
「露里みたいなこと言ってる」
「……私も分かる」
これ思ったよりしょうもない理由だ。義理堅い性格でまだ印象は良かったってのに何でこうなんだよ。一瞬でなんだコイツってなった。
「まさかこの村の女装、ちょっと気になっていたけどもしかして」
「やはり気づきましたか。私が魔法で女装が長い間の伝統であったかのように改変したんですよ。ついでに改変で村長になって村を思うようコントロールできるようにもしましたね」
やってること凄いけど動機が。
「女装は素晴らしいよ。私もそう思うわ。だけど、改変してまで女装はさせるものじゃない!女装は話の流れなどでいやいや始めても、そして最後には心地よくなって堕ちていくものなの。それを分かってる?」
「露里、お前はどっちの味方だ」
「女子がいくら吠えようと聞きません。ここが私の理想郷なのですから。女装のパラダイスですよ」
「質問は以上ですか。なら始めましょうか」
「普通にバトルでいいんだよね」
「ええ。そういえば私の名前教えてほしいませんでしたね。カマラオです。私に勝てば直してしあげしょう」
「よろしくカマラオ」
「準備できてる?」
「私達は大丈夫」
「それでは、始めましょう」
同じ場所にとどまって話をしていたカマラオが動き出した瞬間だった。
「私とて女子は好きではありませんが、嫌いになるほどでもありません。ですが邪魔をするのならば、このようにしましょう」
構えたのは小さな2つの拳銃。両手に持って乱発して攻撃してきた
「よしっと、瞬間移動!」
「なるほど。最初から思ってましたが一般人ではないですか」
瞬間移動して愛香は攻撃。それをくらっても落ち着きながら対応している。
「侮っていたら負けそうですね。女装したあの子達を手に入れるためです。全力でいきましょう」
「こっちだって、心達をこんなにしたの起こってるから」
「陸ちゃんが女装してくれたからそこに関してはありがたいけど、それはそれよ。女装は節度を守って楽しむものよ」
「どっちの味方だよ」
「私は陸ちゃんの味方だよー。女装してくれたらー」
「もう魔法がかけられないのが痛いですね」
3人にこの村にいるようかけた魔法。そんな魔法は連発できるものではないのでできない。できたら戦わせないよう洗脳して詰んでた。
「なので、こちらをしましょう」
「えっちょ、見えな」
「この霧みたいのを張って視界を悪くするのが武器の力ってことね」
「瞬間移動したとして、場所分からないと無理だ」
拳銃を同時に天へと撃った途端、白い霧が現れて辺を包みこんだ。周りにいる皆はかろうじて見えるけど、少し離れたところにいるカマラオはもう見ることができない。
「でもこれなら、向こうからも攻撃できないよな」
「問題はありません。慣れてますから。綺麗な女装子に傷は付けたくないのです。絶対に狙いを定めて当てましょう」
どこから来てるか分からない攻撃が襲う。音や勘で攻撃しようにもいささか厳しい。いると思ってやってもスカってる。
「電磁かけてるけど、くらってもだよね」
「そうだ心、心の風で霧吹き飛ばせない?」
「やってみる。強風吹かすよ。それっ!」
「あ、いいかも。ちょっとずつ視界が良くなってく」
心が起こした風は霧を流すのにピッタリ。強い風がどんどん白い霧を明るくしていった。
「戦う相手にも恵まれませんか。すぐに洗い流すわけではないのが良いところですから、そこを突いてみましょうか」
「痛い……流石に外から一方的な攻撃は強い」
「攻めたいが待つしかないよな。こわなのだと」
あのふざけた言動だというのに中身はちゃんと強いの、そこ活かせばもっと良かっただろとは思う。それはそれとしてちょっと難しいかも今回は。
「陸ちゃん。ところで今日の御籤は?」
陸の武器の力の御籤。
「時間をかけて周りを守るとかのやつ。使ってはいるけど弱いっぽいからあんまり期待するなよ」
「じゃあ私もやらないとね。今ならいけるかな」
武器を持って天江は敵のところに狙いを定める。少し溜めてそれを一気に放出。
それは敵の近くに小さな雷を発生させた。
「外しちゃったかー。さて」
「雷攻撃?武器の力?」
「天江姉のは発雷っていう力で、溜めたらその時間によって威力が上がる雷を発生させるんだって」
「そうだね。ただ溜めてる間無防備だから使い勝手は悪いんだ」
「あんまり喰らいたくはないですね。ただあれぐらいなら躱せる……でしょうけどこれ以上だと未知数ですね」
「まあいいです。とりあえずこれで、少なくとも一人は戦線離脱させたいですね」
「飛ばすよ!風よ吹け!」
「霧消えるまでこっちはできないのに、あっち側は普通に攻撃してくるのやってられないわね」
「ダメージ自体は低いけど痛いよな。チクチク胸が痛む」
「風君以外に何か霧を消せそうなの、ないわよね」
「愛香の瞬間移動で霧だけどっかにとかできない?」
「やってみますけど、多分無理……やっぱり無理でした」
「仕方ないかな。霧消えたとこ一気に畳み込もう」
霧は風で少しずつ薄まり、中にいるその姿をちゃんとしにんできほどになり、そして完全に晴れたら。
「瞬間移動して」
「電磁かけられないかな」
「ダメージ放置したらジリ貧だから回復させないといけないわね」
「溜めて、これでっ!」
そのところを狙ってた皆で袋叩き。相手が可哀想になるぐらいの戦い方。これが一番戦いやすい。
「アレを何度もされると負けてしまいますね。対策なしは流石に難しかったでしょうか」
「私達降伏はいつでも受け付けているから」
「この女装を逃したくはないのです。だから降伏などという自らそのチャンスを溝に捨てるようなことはありません。ですので、このような戦い方をしましょう」
「見えない、皆!大丈夫」
「私は大丈夫、いるね陸ちゃん」
「ゴホッゴホッ。むせるこれ」
「これ早く解かないとまずいよ。頑張る!」
先程までより強い霧。近くにいるものも全く映さない強さ。
こちらの強さも上がっていってる。
「ふー……あんまり強くやり過ぎると疲れますね。ですが、撃つだけなら疲れててもできるのがいいです」
「風で少しずつ消していってるけど、さっきより濃いから時間かかっちゃう」
「こっちの方だと思うけど、当たれ!当たってなさそうだね」
声から大体の方向は予測できるからそこら辺に当てずっぽうに攻撃してみたけど、全然。
「電磁で痺れさせたらその間に霧を晴らせられそうなんですけど、一帯全部に張るのは難しいですよね」
「だめだね。一番張っても全然。近接攻撃なら近くに来るのを見計らって電磁のトラップ仕掛けれるのに」
「私の雷もそこまで範囲広くないんだよね」
ああならこうならできるという現実とは違う全く使えない策ばっかりは出てくるのに、戦うのに有効的な策は出てこない。
「試してみて良かったですね。疲れるからあれは触ったこともなかったですが、このような状況では戦いでこちらを使用したほうがいい。勉強になりますね」
「これで、行けるかな」
「見えた!私の陸ちゃんを良くもー!」
ようやく霧を晴らせたから次までの楽な時間。皆でこのときは全力で攻撃。少しでも早く敵をたおせるのなら
「これに関してはどうしようも無いですね。正直この作戦だけで勝てるのか微妙なところですけれど」
「今なら今なら!」
「攻撃して溜めて置かないと回復分」
このときは一斉に戦いに行くからスッゴいわちゃわちゃしてる。ちょっとうるさい。
「ふー、よし。それではまたこうしましょうか」
また同じように濃い霧を発生させる。これされるたびだとこっち側がジリ貧でしかない。
どうやってやりゃいいのか難しい。
「溜めてたのに外した」
「天江姉のそれ当てにくいよね。動かないのならとっても強いよ」
一発の威力が強くても外しがちだからあんまり有効活用ができていない。
悪くはないのに。
「陸ちゃんのって結局どう?使えそう?」
「さっきから全員に使ってるけど劇的にダメージが減ってるようにも見えないから、ほんとに気休め程度の外れ技だと思ってる。今回俺は役に立たん」
「運任せよねそれ」
「使いづらいことこの上ないけど、これもらっちゃったんだからこれでやるしか無いんだよ」
ガチャでどんな武器の力になるか決まる御籤。当たればいいが外れると使い物にならなくなる本当に使いづらい力。
あと基本初見なので慣れてないし応用法も分からないもの。普通のやつよりその点でも劣ってる。
「任せて陸ちゃん!攻撃&回復私頑張るわよ。おりゃー!」
敵に突っ込んでいく彼女を前に今の力を使う陸だった。
「瞬間移動で俺達を移動させて一気にとかできない?愛香?」
「私への負担は大きいけどやれはしますよ。ただ、飛ばしたところでバラバラに始まるだけな気もするんです」
「あーたしかに。一気にではないか痛いは痛いけど。電磁で飛ばして何とか……」
「動けなくする作戦は良いですけど、そんなうまくいきますかね。一応やってみます?」
「お願い」
勝つためになんか新たな考えを行う彼。簡単に倒せるならそれに越したものはない。
「何やかんやあってるけど、陸ちゃんの守る技のおかげで私の回復が間に合ってるのよね。このままなら時間さえかければ特に問題はないかしら」
「時間はかかりそうね。でも安定して倒せるなら私はそちらのほうがいいわね。でも皆が痛いって感じるから……」
「よーしよし晴れた晴れた!」
「瞬間移動からのっと。今のうちに」
一発の威力が低いし、何より敵が使う武器の力が霧を発生させて視界は奪うがダメージがあるものではない。そしてこっちに回復がてきる露里がいる。
陸の力による軽減も込めると回復が受けるダメージより多くなってた。つまり、ミスさえしなければ何の問題もなく倒せるといったことである。
「陸ちゃんのもちゃんと役に立ってるよ多分!」
「だといいな」
「先程から薄々気づいてましたが、このままでは良くないですね。相性というものがよくありません。これはもう私の不運のせいですね」
実際あの霧は視界を塞ぐのにこちらからは慣れで一方的に攻撃できる。たとえ一発が弱かろうが攻撃関係の力を持っていなかろうがこっちに利はあったはずだった。
最大の誤算が風に関する力を持つ心がいたこと。かけた霧を消されてしまうなんて想定外だ。
「私は見つけたのです。この世界に真っ当に生きようとする意味を。私はまだ未熟なのですから、もっと女装というものにふれておかないとならないのですから!」
「なにか良いもの、こうしましょうか。1人ぐらいならギリギリ行けます。ちょっと休んでもらいましもう」
「僕に……わぁっ!」
「心、心大丈夫?」
「大丈夫だよ。僕は」
心に向かって何かをしたカマラオ。
「成功しただろうか。まあそれはそれとして霧を」
「心、心?」
「うん?」
「霧を風でかき消さないと」
「なんで?」
今かなり疲れてるカラマオ。しかし彼の目的は達成された。彼にとって霧を消す心は邪魔になってしまった。
心が女装してるから傷つけたくなく、その結果心に魔法をかけてじゃまにならないなら働く高度な技をやってのけてる。
心は魔法をかけられて、倒し終わるまでじゃまにならないような場所にいてもらってる。心にかけた魔法は簡単に言うと少し変えて戦わせないようにさせるもの。これ以上のことをさせようとすると多分自滅する。
疲れという代償がでかくて今やってなかったそれを、四の五の言ってられず使った。
「ちゃんと、成功しましたか」
「心?心?」
「ん?」
「無駄でしょうよ。できるだけいじるものも範囲も何もかも狭めて何とかかけましたよ。戦いを始めたときに分かっていたでしょうけど、私が使える力ですよ。それで霧を風で吹かせられないよう変えさせてもらいました」
「ねえ陸ちゃん。これ不味くない?」
「霧を他に晴らせる手段無いってことだよな。無理に探すぐらいしかできないか?」
この霧の中じゃ目を凝らしたところで全然視認できない。しかも全員技の範囲が広くないのがさらに。
「瞬間移動!瞬間移動!瞬間移動!」
愛香は瞬間移動で周りの適当な場所に飛んで見回して、いる場所をたまたま見つけられないか試してる。視認範囲が狭すぎてでも全然見つけられてない。
「あれはまた当てづらいですね。まあ、先にこちらを倒しましょうか。あれは最悪後回しにしましょう」
「声聞こえた。こっち側かな」
「一人一人ずつ倒していきたいですね」
撃って攻撃。少しずつ痛いのが蓄積していく。
「回復は今できないから気を付けて」
「守るのはつけるけど」
攻撃しないと回復できないのにめんどくささを感じてしまう。
「声からして場所はこっちの方。大まかなことさえわかればあとは雷落としてみる?」
「愛香ちゃんを巻き込まない、そうだ愛香ちゃん一回帰ってきて」
「これでいい?当たらない?」
「ここかな。それともここかな」
少し溜めて雷を出してみる。でもあたってる雰囲気は見えない。
「この感じ、まずいですね。主に私が。流石にあの状況で魔法を使うなんて負荷がかかりすぎましたか。惜しいですが……悩みますね」
「声で頑張って当てるの有効かな。さっき当たってたよね」
「ここら辺にいると思うんだけど。これ見つからない」
「この中歩くのよくないか?」
「ダメージの回復のためにも、私も攻撃しないとよね」
視界が遮られた状態でも、色々な方法で攻撃しようとしてくる。
いくら遠距離でちまちま与えられるったって、視界が遮られてるから攻撃が当たりにくいったって、カマラオにとって危機的状況ってことには変わらない。
ただでさえ霧を再度かけるまでにタコ殴りにされていたのにさっきの魔法もあいまってカマラオの身体はきつい。
たまたま見つけられたら隠れるまでの数発は避けられない。これは死にかねない状態であった。
「あまりにも惜しいですが」
ここで勝てばあのとても良い3人の女装子を手に入れられる。ものすごく大きいが、背に腹は代えられない。
何を失ったって、死んでこれから会う様々な女装子を見られなくなるよりはマシとの判断をした。両手に持つ拳銃は懐にしまい込む。
「この勝負。どちらも攻撃を与えるのが遅い。とてつもなく時間がかかってしまうでしょうから、ここは一つ、引き分けという形にしましょうか?」
「引き分けだと?」
「はい。どちらも攻撃をやめるということです。もちろん、彼らにかけた魔法も消して元に戻しましょう」
「信用も難しいけど。一度私達相手に嘘ついてたからね。今のところは全員攻撃やめてるけど、少しでも変なことしたら交渉は破棄するよ。あとこれだけでもだめ。村にも魔法かけたんなら、全部戻して」
唯一の大人の天江が話を進める。他の異少課メンバーは邪魔しないよう静かにしていた。
「そうですか。ならまず、これでそこにいる3人の魔法を解きました。村の魔法はこれさえ飲んでくれば解きましょう。どうです?」
「心、この村のことどう?帰りたくないほど好き?」
「え、天江姉急に何?いや、何ともないよ」
この感じ、ちゃんと戻してはくれたみたい。
さて、どうしようか。
「どうでしたか?私はちゃんと約束は守るのですよ」
「………」
実際のところ、この場の被害だけを最小にするならこの取引に乗るのがいい。状況に応じて悪いやつと取引するなんてことは稀にあるのが異少課の業界。前も愛知県でちょっとあった。
だとして、それができるかと言われると。
「断るというのなら私だって全力で戦いましょう。さっきまでのアレになると、困ってしまうのはそちらでしょう?円満な解決策を提示したと思いますがね」
「この後村人元に戻したからって、また後でやろうなんて考えてないよね」
「どうでしょうか。約束はしたいのは山々ですが、私も娯楽というもの、この世界で出会った素晴らしさを追い求めたいので。わざわざやらなくても女装子と触れ合えるそんなことになればいいですが」
「ま、なんかそれっぽい顔してでまかせの反省述べるやつよりはマシだけれどさ」
ここで逃したらまた同じような事が起きる可能性がある。今を取るか未来を取るか。
「僕は天江姉に従うよ」
「心……うん。分かった」
コクっと一回うなづいて、そして目をちゃんと向けて言った。
「それを飲む。でももしまたこんなことやるようなら、今度こそ完膚なきまでに叩きのめすから私が」
「ありがたいです。それでは、これで村にかけた魔法も解きました。これで私がかけた魔法は全て解かれましたね。私だってまだ愛でていたいので、敵対されるようなことが無いように過ごしますよ。そんな心配なさらんでも」
その穏やかそうに話す顔。割と身勝手で色々とやってたからその余裕が心底腹立ってる。
結局のところ、天江は選んだ。自らの意志関係なく、ただ全体の利になることを。
「うん。天江姉」
天江にはその心の視線が勝手に突き刺さってるように感じた。
「村戻ろう。ちゃんと確認しなきゃだめよ」
「何も無い元の村に戻った。ってことでいいんだよな」
「かけた魔法は全て解いたのでそうと思いますよ。消したときに記憶をほんの少しいじらせてもらったので、私に関することも何も覚えてない。正真正銘元の村になってますよ」
「謝罪も無しで全てなかったことにするってことかい」
「私が謝罪したところで混乱を招いてしまうだけと考えたので。私の魔法やら、言ったところで分からないでしょう」
ある意味で正論。だからこそムカつく。
「私としてはせめて刑務所にもぶちこみたいけど」
「そういう約束を交わしたのですから、破らないでもらいたいですね」
「普通だね」
「普通ですよね」
村の中は至って普通。でも女装なんかをしてはいない。本当に普通で何もおかしくないただの村に戻ってた。
「ありゃ、また会ったさね。なんか捜し物してるんさ?」
「瑞穂さん。かっこいいですねその服」
「なんさ急に、ありがと、さ?」
村の中でお世話になった瑞穂さんも、女装じゃなくちゃんと男子っぽいかっこいい服を着ていた。
「特に。気にしないで」
「そうなんさ、ところで気になったんさけど、その服って都会の流行りなんさ?分からんさそんなの。すごいさね」
そこにいた3人の女装している男を指していう。戻る前なら自分も女装していたからなんとも言われなかったが、
「えっ……あっあっあうあぅ……」
「そっか、僕のこれも、戻ったから変わった服って見られてるんだ」
「流石にこれは……恥ずかしいんだけど戻っていいと思う愛香?」
「後のことは私達やりますからいいと思いますよ」
「ヤダヤダヤダもうやだ死にたい」
「大丈夫だよ陸ちゃん!似合ってるから!陸ちゃんの女装私好きよ!ってかもっと見ていたい一生やらない?」
「お前慰めるふりして心へし折るなもうやだ脱ぐ……こんなん見られるなら裸になったほうがだってもう着る必要ないよねだから」
「陸ちゃんごめんってー、だからそれはまずいからまずいから。じゃああのまたね瑞穂さん」
「はい……」
自暴自棄になる陸をなだめる元凶の露里であった。
「約束は守ってはくれたと」
「仕方ないとはいえ信用がないですね。それで私に何か聞きたいことあるのなら答えますよ」
「なら私気になったんだけど……」
「森の奥の……ああ、あれのことですね」
聞いたのはさっき見たけど結局分からないままあとで調べることにした森の奥の謎の歪み。どうせ関連しているだろうしという理由で尋ねてみた。
「やっぱり何か知ってるんですね」
「あれは私がこちらの世界に来たときに降り立った場所ですよ。行ってみましょう」
どうせならとあの場所へ移動しながら話を続けた。
「降り立ったって」
「あちらの世界……私はこことは違う世界からここに来ましたが、変なものに吸い込まれて目が覚めたらあの場所だったんです」
「あの歪みがコッチの世界とあっちの世界とを繋いでいた?ってことかな」
「多分そうでしょう」
「確か繁や凪もこんな感じに来たって話だったな」
そして森の中、不思議な歪みの場所へと着いた。
「やっぱりそうですね。あの奥に映ってるのが私が元々いた世界です。まだ残っていたのですね」
「でもどっちにしろ大丈夫?」
「多分大丈夫だと思いますよ。私が来てからあの村に変なやつが来るなんてことはありませんでしたから。それにこの大きさなら、大抵のものは通れませんよ。これぐらいの小石ならいけるみたいですが」
投げた小石は歪みを通り抜け、あちら側へと落ちていった。まだ繋がってはいるらしい。
「もし行けるのなら繁や凪がもしかしたら喜ぶ、そうでなくても色んなものを送ったりできそうで、すっごく変わりそうなものだったのに。残念」
「私の中にちょっとホッとした悪い自分がいます神代先輩」
「でも、理由つけて立入禁止にするぐらいはしないと」
「でもこの大きさ、私が来たときと比べてどんどん小さくなってますから、もう10日も経てば消えて無くなってしまうのではないでしょうか」
「消えるってのに他人事みたいね。帰る手がかりじゃないのかしら」
「このようは大きさではどうせ使えませんよ。私はもうこちらの世界に生きる覚悟はしていますので」
「それでやったのがアレなのは、なんでなのかしら」
「そこなんとかしとくべきだよな」
「結局、原因は不明だけどこれができてあなたがこっちに来た、そうしてあなたが事件を起こしたってことかな」
「あっていますね。もう用は無さそうですかね。では私はこれで」
「もう起こすなよ本当に。裏切ったら承知しない」
「善処はしましょう。敵は無闇矢鱈に増やすものではないと心得てますから」
信用ならんとはいえ、まあ変なことをしでかさないよう祈る。それぐらいのことしかできないまま、颯爽と消えていった。
「とりあえずこれで一件落着ってことか。はよ着替えたい」
「これも悪くはないよね。でもあっちの慣れてる服が落ち着くんだよね」
「もう二度と着てやんね」
今回ふざけたことに巻き込まれた女装組。ようやくこれが終われると思うと清々しい気分になっていた。特にこの女装が大嫌いにも程があった陸が。
「にしても、こんな世界同士がまた繋がる事があるならそこら辺の対策もしないとなー。大丈夫かな」
「頑張ってください」
「ちゃんとやるよ。そういう仕事だから」
そして愛香と天江はゆっくり話しながら歩いて出ていった。
「さってと、私も行かない……えっ?」
最後にその場から離れようとした露里。しかしたまたま目を下に向けたときに映ってしまったとあるものを見つけて、そんな事考えてる暇じゃなくなった。
落ちていたのは古いストラップ。切れたのか壊れたのか、ひっかける部分がボロボロでもうストラップとして使うことはできそうにない。
見た目は少し独特な形。一般に売られているようなものとは違う。
他の人が見かけたならただのゴミとして処分されそうだったそれ。でも露里はそれを拾ってじっと見つめて一言。
「本当、どうして……」
「ん?露里なんかあったの?」
「えっ?なんでもないなんでもない。ごめんちょっと考えごとしてたのよ」
そうしてそのストラップを自分のポケットに入れ、一旦は他の人も任せているからとその場を後に、そして帰っていった。
でも解散した次の日。こんな山奥に不似合いな高級車が近くの駐車場に停められた。
「お嬢様どうぞ。こちらで待機しておりますので、有事の際は」
「ありがとうここまで連れてきてもらって。あんなの見つけたら、調べずにはいられないの」
そこにいた2人。露里と露里の家に仕えてる車の運転手。そのうち露里だけが降りてまた村へと向かった。
村に着いたらすぐ、とある人物の画像を見せて村の人に尋ねてる。
「この人物、見覚えありません?」
「……知らないね。どんな人なんだい?」
「そうですか。ありがとうございます」
(いる。来ているきっと。でも……)
考えながらも、尋ねるのをやめない露里。
「どっかで……あーあー、思い出した!この人、村の近くにいた怪しい人達の中にいた人だ!」
「それ、どういうこと?」
知らないの一点張りをずっとされてたけど、ようやく知ってると言ってくれる人を見つけた。詰めまくってる。絶対に聞いてやろうとしてる。
「僕森の中で休んでたんだ、そしたら奥に変な見たことない人の集団がいたんだ。何か変なもの持ってて、なんかしてるみたいだった。でも僕怖くて、その後すぐ帰っちゃった。だからここまでしか分からない」
「……あっ、これだけわかったら大丈夫。ありがとう」
そこから先も質問は繰り返すも、この件以外は知らない分からないだった。
「出発しますね」
駐車場に停めてある車が発進。山道をおりていく。
「本当になにをしてるの?」
「怪しい不審行為……なんでこんなのしちゃって……」
「でも、跡は見つけたわ。もしかしたら、後もう少しで完全に見つけられるかも」
「お手伝いしますよ私は」
「えぇ」
うつつのなか、ガタガタと車は揺れていた。
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