―41― 答え
もし、もっと早ければ、具体的には椎名と出会う前に、寧々がこうして告白してきたなら、オレは迷いなく彼女の告白を受け入れていただろう。
だって、オレにとって寧々は間違いなく大切な存在で、寧々と一緒に人生を歩むのも悪くないとオレは素直に思っているんだから。
寧々の潤んだ瞳が見える。
もし、断ったら彼女はより苦しむことになる。
それは嫌だな。
彼女をこれ以上、悲しませたくなかった。
けど、同情心なんかで決めるのもまた違う気がする。
重要なのは、純粋にオレがどうしたいかだ。
だから、オレはこう告げた。
「ごめん、他に好きな人がいるから」
多分、この答えはとっくの前から決まっていたことだ。
瞬間、寧々が声をその場にあげて泣き崩れる。
その場でうずくまって、ひたすら両手で目を覆って泣いていた。
オレももらい泣きしてしまいそうになるが、きっとそれは許されない。オレには彼女の隣にいる権利がないのだから。黙ってこの部屋から出て行かないと。
だから、帰るとも告げずに玄関を出た。
「お兄ちゃん」
玄関の先には妹のアキが立っていた。
「そうか、ダメだったんだ」
全てを察したかのようにアキはそう告げる。
「なにがあったか、知っているのか?」
妹の部屋であったことを見てきたのかような反応にオレはそう尋ねる。アキなら、安全のためにとか言って盗聴器を仕掛けていても不思議ではない。
「別に、全部は知らないよ。けど、お兄ちゃんの顔を見ればわかるよ。それに、その、ここからでも聞こえてくるしね」
確かに、寧々の泣き声がここに立っていても微かに聞こえてくるな。
「そうか」と頷き、この場を離れようと歩き始める。すると、アキもオレの後ろをついてきた。
「ねぇ、具体的にこの家にいくらの借金があるか知っている?」
アキが話しかけてくる。
椎名からは百億以上の借金としか聞いていなかった。
「知らないな」
「だいたい百三十億の借金があるんだって。けど、お父さんの研究施設や権利を全部売り払えば、それなりの額になるはずだから、純粋な借金額は五億にも満たない」
五億か。百億に比べたら大分減ったが、それでも大きな額だ。
「それぐらいの額なら、お兄ちゃんと私が協力すれば、もちろんお父さんに一番働いてもらうとして、流石にすぐにとはいかないけど、何十年後には返せるよね」
「そうかもな」
「それに、もし返せなくても相続放棄て手段もあるわけだし」
「そうだな」
とはいえ、相続放棄をするとしても、家に金がなくなるという事実に変わりはない。今までのような生活はできなくなるわけだし、妹を大学進学させるための費用だって苦労して捻出しなくてはいけなくなる。
「だから、私は借金なんて無視して、寧々ちゃんと結婚したらいいのにと思ってしまう」
「……もし、椎名がいなければオレは寧々とつきあっていたと思う」
「やっぱり寧々ちゃんのこと好きなの?」
「好きじゃないよ……」
今、俺は自然に否定できていただろうか、とか考える。
だって、本当はあの日、告白したときから俺はずっと寧々のことが好きなんだから。
「じゃあ、風不死さんのことは好きなの?」
「好きだよ。間違いなく椎名のことは好きだ。けど、寧々に対する好きとなにが違うんだろうって少しだけ思う」
「じゃあ、なんで風不死さんを選んだの? やっぱりお金?」
「そうだな」
黙って、アキの言葉を肯定する。
俺は最低な人間だな。
こんな俺と寧々はやっぱり繋がるべきじゃないと思う。寧々にはもっと良い人を選んで欲しい。
アキには言わなかったが椎名を選んだ本当の理由は、父さんに研究を続けもらうためだ。
だって、父さんが研究が続けないと、俺たちは長くは生きられないというのに、俺の勝手で寧々を選んで迷惑をかけるわけにいかない。
悲しいけど、現実ってのは非情なんだ。
それからアキに、寧々の様子を見てきてくれ、とお願いした。やっぱり一人にするのは心配だった。それを聞いたアキは頷いて寧々の家へ向かった。
それからオレは椎名のもとへ急いで向かった。
◆
呼吸がうまくできない。
涙がとまらない。
通話で事の顛末を聞いていた椎名はその場で苦しんでいた。
さっきから心の中を様々な感情が支配していて、頭の中がパンクしてしまいそうだ。
自分の選ばれてたという喜び。まさか選ばれると思っていなかったという驚き。奏生の好意を今まで信じられなかったことに対する申し訳なさ。そして、自分のせいで失意の底にいるであろう寧々に対する同情心。
けっきょく、嬉しいのか悲しいのかよくわからずただ泣くことで自分の心を落ち着かせるしかなかった。
早く奏生に会いたかった。
このまま一人で待ち続けるのがとても心細かった。だから、レストランの会計を済まして外にでる。そして、一秒でも早く会うために奏生がやってくるであろうと方向に走った。
「椎名、悪い遅れて」
「忠仲さん!」
そう叫んで、椎名は奏生の胸元へ飛び込んだ。
今は、どうしようもなく奏生のことが愛おしい。
「ごめんなさい、私あなたたちの会話をスマートフォンで聞いていて……その、通話がきれてなかったみたいなので、つい」
それからすぐ謝ろうと心に決めていたことを口にする。
「そうか。別に謝ることじゃないだろ。通話を切るの忘れていたオレも悪いんだし」
そう言われてホッとしたのか、余計涙がこみ上げてくる。
「おい、なんでお前まで泣いているんだよ」
「だって……だって……」
椎名はそう口にするだけでうまく説明することができなかった。
「忠仲さん」
それからしばらくして椎名が泣き止むと同時にそう呼びかける。
「なんだ?」
奏生は椎名の方を見る。
「キスしてください」
強請るように上目遣いで椎名はそう告げた。
「なんでだよ」
椎名の発言が意外だったのか奏生は目を丸くする。
「そういう気分だからです」
まさか純粋に奏生とキスがしたくなったなんて言えるはずもなく、椎名は照れながらそう告げた。
「まさか、できはないなんて言わないですよね」
「そりゃできるけどさ」
そう言いつつも奏生は椎名のことを疑わしいとばかりに目をしかめる。それでも椎名が奏生のことを真剣に見つめていると、本気なのが伝わったのか「本当にしていいんだな」と確認してきた。
それにコクリとうなずくと、奏生がキスをしてした。
キスをするにはつま先で立つ必要があった。慣れてないせいか、歯が当ってしまう。それでもお互い探りつつ、これだというポジションを見つける。
初めてのキスの味は、塩のように辛い味がした。
◆
――失恋したんだ。
時間が経つたびに、そのことに実感が湧き起こり、悲しさがこみ上げてくる。
「寧々ちゃん」
ふと、顔をあげると奏生の妹がいた。
アキはすかさず寧々に抱きついてくる。だから、しばらく二人で泣いていた。それからしばらくして、心が落ち着き始めてから口を動かす。
「ワタシやっぱり奏生のこと好き」
「うん」
「フラれちゃったけどね」
「……うん」
フラれたからもういいやと割り切ることはできない。一生、今日の出来事を胸に抱えて生きていくんだろう。
「寧々ちゃんは、諦めるの?」
ふと、アキがそう聞いてきた。
あまりにも意図しない言葉に、寧々は「え?」と言葉を出す。
「私は寧々ちゃんの味方だから、もし、寧々ちゃんが諦められないなら協力するよ」
「でも……」
あれだけがんばって告白をしたのに、やっぱりダメだったんだ。今更どうがんばってももう無理だろう。
「借金や許嫁のことなら、時間をかけれてがんばればなんとかなるかもしれない。もちろん、保証はできないよ。これ以上がんばって、それでもお兄ちゃんが振り向いてくれなかったら、多分寧々ちゃんは今より絶望することになる。それでも、寧々ちゃんががんばるというなら、私は協力する」
即答できなかった。
ちゃんと告白してフラれてしまったという事実は、思ったよりも精神的ダメージが大きかった。
それでも、ここで諦めて一生後悔し続けるのか。それとも、再起を賭けてもう一度立ち上がるのか。
そう考えたとき、自ずと答えは決まっていた。
「私、諦めない」
すでに寧々は顔を上げていた。
「許嫁がなに? 借金が百億? 他に好きな人がいる? そんなの知ったことか。それでも私は奏生と結婚するんだッ!!」
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【あとがき】
カクヨムコン反省
投稿するタイミングが遅すぎた
もっと早く投稿していればねう少し★を稼げてた
もし、応援していただけるって方はフォロー、★評価よろしくお願いします
中間選考突破非常に厳しいのが現状です
よろしくお願いします。
最後に宣伝。
『ダンジョンに潜むヤンデレな勇者に俺は何度も殺される』もよろしくお願いします。この作品が好きな方は好きかと思います。
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別の女と婚約したら、オレを散々こき使っていた幼なじみが『絶望』した 北川ニキタ @kamon
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