風と砂(蟹と梨)⑷

 その言葉に応えるように、というよりむしろその言葉を待っていたかのように、オーサーはむくり、と上体を起こした。

 つい先ほどまで黒焦げだった体は、いつのまにか煤一つ無い。


 上体を起こした姿勢のまま、ニヤリと笑みを浮かべ、口を開く。


 「ふん、さすがよくわがぷごファ!?」


 開いた口にブーツのつま先を蹴り込まれ、オーサーの台詞は中断された。

 もんどり打ってふっ飛ぶオーサーに追い撃ちの電撃を放つと、アーソーは地を蹴って間合いを詰める!


 両手の短刀はいつの間にか柄頭で連結され、双身の薙刀のような形状となって彼の右手に握られている。


 双身刀とでも言うべきその武器を振りかぶり、走り込んだ勢いを乗せて、アーソーは斬りつけた!


 蹴り飛ばされて起き上がったところに電撃を受け、一時的に麻痺したオーサーにこの斬撃をかわす余裕はなかった。


 かろうじて長剣を持ち上げ、薙刀の一撃を受け止める。


 その瞬間、三度目の電撃がオーサーの身体に走った。


 アーソーが振るった薙刀の刀身には雷がまとわされていたのだ。

 

 その電流が剣を伝い、オーサーの全身を撃ったのである。


 恐るべし、電気人間!


 たまらず剣を取り落とし、硬直するオーサーに、下から跳ね上がったもう一方の刃が迫る。


 今度こそ、アーソーの薙刀は相手の上体を存分に斬り裂いた。


 感電によって焼け焦げたのか、血のかわりに煙を傷口と口から吐き出しながら、がっくりとオーサーは膝をついた。


 どうみても致命傷と思える一撃を受け、しかし彼は膝立ちの状態からそれ以上倒れることはなく、逆に立ち上がった。


 「よくもやったな・・」

 灼けた喉から押し出されるように発せられた声には、苦痛よりも怒りがこもっていた。

 先ほどまで、不意撃ちを仕掛けたときですらどこか茫洋とした雰囲気をたたえていた眼差しも、さすがに今は憤怒の色が浮かび、さながら火を吹くようであった。

 ―いや、それどころではない。

 ものの例えばかりではなく、彼の眼は本当に火を吹き出していた。


 眼だけではない。

 先ほどしたたかに斬られた上体からも、いつの間にかごうごうと炎があがりはじめ、たちまちオーサーの全身は火炎に包まれた!


 人体発火現象?自滅?そんなはずはない。

 すると、これはオーサーの能力であろうか?対峙するアーソーが電気を自在に発し操るように、彼は身体から炎を噴き出し操る能力者なのだろうか?


 ―そのとおり。だが、それだけではない。


 オーサーの身体を包んだ炎は、すぐに拭うように消え去った。

 そして火が消えた後には、先ほど致命傷と見えた刀傷もまた、オーサーの身体から拭うように消え去っていたのである!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

エレメント・ファイブ @abno

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ