風と砂(蟹と梨)⑶
「てめえとは不本意ながらも結構な間の腐れ縁だったがよ、もーそろそろいいだろ。ここで決着つけてやるよ」
やや長めの短刀を右手に握ったアーソーが、険悪な口調でそう言う。
緑がかった黒髪は逆立ち、吊り上がった目とあいまって、まさに“怒髪天を衝く”を体現するようなありさまである。
一言ひと言を発する度、彼の感情にまるで呼応するように、大気に電光が弾ける。
埃と電光と敵意をはらんだ強風をまともに受けながら、相対する男、オーサーは、右手にもった長剣を杖のようについた姿勢で、どこかのんきな口調で返した。
「いや今そんな場合じゃないだろ」
「ああ!?」
果たせるかな激昂し、今にも飛びかからんばかりの反応を見せるアーソーに対し、困惑したような表情を浮かべる。
羽飾りのついた皮の帽子を風に飛ばされないよう左手で押さえ、オーサーは続けた。
「いまこんなところで戦ったりしたら、おれたち死ぬぞ。それよりまず「なァにが『おれたち死ぬぞ』だ! 誰のせいでこんなとこでこんなことになってるかわかってんのか? だいたい、てめえは死ぬもなにも・・
言いさして、アーソーは飛び退った。その顎の下を、焦茶色の物体がかすめていく。
長剣の鞘。
言葉の途中で、オーサーが鞘におさめたままの長剣でアーソーの首筋を薙ぎにかかったのだ。
「すきあり」
「ッ・・!!」
この不意討ちに対し、アーソーの眼に危険な光が弾けた。
切れたのだ。
「・・上等じゃねえか・・!!」
緑がかった黒髪がますます逆立つ。強風は渦を巻く気流となって彼を取り巻き、上空に立ち上る。そして、渦巻く風の流れに乗るようにして、先ほどまでとは比較にならぬ量の電光がアーソーの周りを走り出した!
電光は螺旋を描きながら彼の手元に集束し、目の眩むような光の玉となる。
明らかに、自然には起こり得ない現象である。
まるで電光が意思を持っているかのような―否。
それは電光ではなく、それを持つ者の意思による動きであった。
電気人間。
アーソーは、自ら電気を発生させ、思い通りに操ることのできる能力の持ち主であったのだ。
「くたばれ!!」
叫ぶとともに光球を宿した左手を突き出すと、光球は稲妻へと姿を変え、対面する相手―オーサーに向かって一直線に伸びる!
「ぎゃああああああああああああ!!!」
せいぜい剣の間合いから数歩遠い程度の近間から放たれた雷に、反応することもかなわずまともに電撃を浴びたオーサーは、断末魔じみた悲鳴を上げた。
ひとたまりもなく黒焦げになって倒れた相手を冷ややかに見降ろし、アーソーは左腰に差したもう一本の短刀を抜く。
そして言う。
「さっさと立てよ。あんなもんでテメエがくたばるはずないなんて、一見さん以外はみんなわかってんだよ」
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