風と砂(蟹と梨)⑵
アーソーとオーサー。
よく似た、というよりはありていに言えば紛らわしい名前をした二人ではあるが、別に双子だとか、兄弟だとか、そうした血縁的なつながりがあるわけではない。
当然性格も外見も似てはいないが、それとて別に対照的というわけでもない。
単にタイプが異なるだけだ。
アーソーは痩身、中背の男で、目付きにやや険があることを除けば、これといって特徴のない容姿である。
長袖の胴衣と長ズボンの上にブーツとマントという、大陸の一般的な旅装をしており、腰の両側に一振りずつ短刀を差している。
トレードマークの針葉樹の葉をモチーフにしたバンダナは、いまは砂塵を防ぐために口元に巻かれ、代わりに皇国で手に入れた笠を被っていた。
対してオーサーの方は、胴衣とズボンにマントまでは同じなものの、足許はなぜかサンダル履きである。頭には、これもトレードマークである大きな羽飾りのついた帽子を被っているが、あまり日差しを遮れそうには見えない。腰には一振りの長剣を佩いている。
アーソーよりはいくらか背は高いものの、こちらも標準的な体格である。
賢明な読者の皆様はもうお分かりであろうが、二人は流浪の冒険者である。
定まった家も職も持たず、旅から旅を続けながら、ある時は秘境に財宝を探し、あるときは傭兵めいた雇われ仕事を受けて生計を立てる。
もっとも、今回はそのどちらでもない。
このティルート公国の砂漠地帯に生息するというサバクタカアシガニ(砂漠高脚蟹)。それを狩って市場に持ち込んで売り、その金で温泉と海の幸を堪能しようというのが今回のプランである。
サバクタカアシガニはその名の通り砂漠に生息する蟹だが、淡水生の半水生動物でもあり、したがってこの地方の砂漠地帯に点在する水辺―端的にいえばオアシス―の付近にいることが多い。
そのため、アーソーとオーサーの2人は、まずはオアシスを目指して、無謀にも徒歩の旅を強行しているのであった。
徒歩であるだけでなく、2人の出で立ちは実際、砂漠を踏破するには通常考えられないほどの軽装ではある。
昼夜の寒暖差や乾燥などの気候的要因もさることながら、砂漠地帯にはジャイアント人食いワームや人食い八コブラクダ、人食い大サソリ、人食いサボテンモドキなど、危険な敵性生物(モンスター)が少なからず生息する。
並の冒険者ならば、装備を整え、最低でも4人以上のパーティを組んで挑むべき場所であった。
そんな地に、たった2人で、まるでちょっとハイキングに行くかのような身軽さで足を踏み入れたアーソーとオーサーは、あろうことか灼熱の太陽が照り付けるなか不毛な口論を続け、いまや一触即発の空気を漂わせていた。
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