えっ終わるの?
人狼の脅威は去った(特に人狼は何もしてないが)
だが、この状況を一体どうまとめれば良いのだろうか?
現在の状況を客観的に見るとこんな感じだ。
・街から不審な3人がやってくる。
・教会に勝手に入って放火、目撃者を殺害して証拠隠滅。
・旅籠の物品を二次盗難。器物破損。
・村をミサイル攻撃して、全焼させる。
・人狼を殺害し、心臓を取り出してコレクションする。
完全に通り魔か何かにしかみえない。
主人公というよりむしろ、スラッシャー系ホラー映画の、殺す方の行動だ。
しかし、視点を変えれば、きっと何か世界に良いことが起きているはずだ。
そこを強調していけば、いい感じな風な終わりになるはずだ。
「ほほほ!財閥のコレクションに加えるのに相応しい逸品ですわ!」
「学術的な資料として、ちゃんと人狼の味も見ておきましょう。犬肉というよりは、すこし豚肉よりですかな?」
「オレのアートセンスをこいつで表現してやるぜ! 題してワイルドハントだ!」
ダメだ!!
こいつら完全に悪役側だ!!
しかも、別に誰かを助けたとか、村を救ったわけでもない。
救うどころか、むしろ村にミサイル落として全焼させてるし。
おそらく村に生存者は残っていないだろう……クソッ!!
せめて誰か一人生き残っていれば「助かりました」の一言で、なんかいい感じにヒーローっぽい感じで日常に帰れるのに……!
何か、何かないか?
ここからエンディングに持っていく描写は……! このままでは、探索者たちが延々と人狼の死体をオモチャにする描写が続くだけになってしまう。
俺は脳をフル回転させる。
映画、ゲーム、マンガ、なんでもいい。この状況をいい感じにできるもの――
そして、ここで俺は、ある設定が使えることに気がついた。
……そうか! これなら!
GM:さて、人狼を破壊した探索者たち。ですが、あなた達の耳に、騒々しい音がはいってきます。バタバタと空気を叩くような音。ヘリコプターです。
GM:みると、財閥のエンブレムを機体の横につけた輸送ヘリが、こちらまでやってきていますね。
「あら、今さらになって機動部隊が来たようですわね。ですが、ちょうどいいですわね、皆様、帰りはあのヘリに乗って、帰るとしませんこと?」
「ホッホ! それは良いですな。バスは腰が痛くなりますから」
「教授の言う通りだぜ、ここはアナスタシアん家のヘリで帰ろうぜ!」
GM:君たちは着地した輸送ヘリに乗り込む。ヘリの中には財閥の機動部隊、兵士達が君たちを迎えた。「お嬢様、ご無事で何よりです!」兵士たちは姿勢を正し、君たちに向かって敬礼する。
「随分遅かったですわね。」
「ハッ、それについては申し開きのしようもございません。ですがお嬢様、こちらを御覧ください――」
GM:そう言って輸送ヘリの奥へ案内する兵士。そしてそこにあったのは……なんと、人狼の死骸だった。君たちが出会ったのとは別に、人狼が存在したのだ。
「これは?」
「ハッ、郊外で発見された人狼の集団の一部をサンプルとして回収しました。そして、これをご覧ください」
GM:兵士が指さした人狼の側頭部。そこには何かの金属の部品が埋め込まれていた。円盤状のパーツは兵士が抜き取ると、脳まで達する針が出てきた。
「これは恐らく、脳波をコントロールする部品です。おそらく財閥のライバル会社が、人狼を生物兵器にしようとしていたのでしょう」
「なんと恐ろしいことをしているのですぞ! ではこの村は……!」
「きっと、生物兵器の実験場だったわけですわね?」
「マジかよ?!」
GM:兵士はアナスタシアの言葉に頷いた。「人狼が外部に逃げ出す前に、村を完全に破壊できたのは幸運でした。流石はお嬢様、お気づきになられていたとは」
「えぇ。ですがメイドと爺やが犠牲になってしまいましたわ」
お前が無理矢理に登場させようとしなければ、死なずにすんだけどな?
「財閥のライバルってのはとんでもねぇな!」
「ですぞ。まさか人狼を生物兵器として使うことを計画していたとは……」
GM:「皆様のご協力で、今回のところは未然に防ぐことができました。ご協力に感謝します」そう言って人狼の死体にカバーをかける兵士。しかしこうも続ける。
GM:「財閥のライバル会社は、こういった神話的生物を生物兵器として運用する計画がまだ他にもあるようです。どうかお気をつけて」
「ええ、ありがとう」
「あんたも、死ぬなよ」
「ですが、ひとまずは……」
「まだなにかあるのか、教授?」
「今回の件で協力いただいた、ゼミ生の諸君の評価を決めねばなりませんな、ドミトリー、アナスタシア、そうですな。A+としておきましょうか」
「やったぜ!!」
「当然ですわね」
GM:君たちの乗ったヘリは、水平線に向かって飛んでいく。人と魔の境界を超え、人の世界へと。今回、幸いにも君たちは生還できた。しかしまだまだ世界には未知の領域がある。次は一体何に出会うのだろう――
GM:と言ったところで、今回のシナリオは終了です。お疲れ様でした。
PL一同「「お疲れ様でした」」
PL1:しかしちょっと、後が気になる感じの終わり方ですな。
PL2:だな、ひょっとしてこのシナリオって、キャンペーンだったりする?
PL3:そうですわね、GM、もしかしたら引き続き出来ちゃったりするんですか?
えー……もう終わりでよくない?
お前らが好き勝手した後の展開考える、こっちの身になってくれ。
GM:いやー、単発シナリオですから、流石に考えてないっすね。
PL1:まあ、GMも予定がお有りでしょうからな。
PL2:楽しかったぜ!
PL3:ええ、機会があれば、またお願いしますわ!
GM:ソウデスネー、ソノ時ハヨロシクネ。
俺はそそくさと荷物をまとめると、セッションの場を後にした。
やれやれ、今回のゲームはえらい大変だったな。
TRPGというゲームは皆で遊ぶものだ。
皆が楽しくなるべきで、GMである俺だけ、何でこんなに負担がかかるのか?
これがわからない。
『
なんて言葉を言ったやつも居るが、ここまで惜しくない別れもそうないだろう。
だが俺は別に彼らに怒っているわけではない。その逆だ。
物語を紡ぐ緊張感から開放されたこの瞬間。
良い物語にしろ悪い物語にしろ、この瞬間を味わうために、俺はGMをしている。
紙とペン、そして駒。それらを使って、文字だけで語る世界。
そこから現実に返ってみると、目にする、感じる情報量が劇的に増えていくのを感じる。木漏れ日。風の温み。足で踏む砂利の音と靴下の擦れる痛痒。
全てに実感が還ってくる。
さながら生き返ったみたいな感覚だ。
現実に帰ってくる、この瞬間のために、俺はゲームマスターをやっている。
――ああ、これだ。今日は人生最高の日だ。
俺はぐっと伸びをすると、最寄り駅のホームへ向かって、家路についた。
(了)
【TRPGフィクション】いつかどこかのマンチ卓で…… ねくろん@カクヨム @nechron_kkym
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