クライマックス(?)


 ついにきた、クライマックスだ。緊張の極み。最高潮。物語のヤマだ。

 これまでウダウダとやってきたことは、全てこの瞬間のためにある。


 失われたストーリーを取り戻す、最後のチャンスだ。

 よし、力をいれて人狼を描写するぞ!


GM:天を焦がすように立ち上る炎。それを背景に人狼は姿を浮かび上がらせる。その全身は深い毛に覆われており、毛深い手の爪はナイフのようで、大地を掴む二本の脚はイヌやネコとの類似が見られ、人とは似ても似つかない。


GM:異様なのはその口元だ。人狼の顔は狼そのものだが、裂けた口唇の向こうからは人間のものと変わらない歯列が見える。明らかにこの世のものとは思えないその姿に、名状しがたい嫌悪感と恐怖を探索者たちは感じた。


GM:正気度チェックの時間だ。人狼の姿を目にした君たちは、正気度チェックに失敗すると、5+1d10の正気度を失う。


 5+1d10、これは10面ダイスを振った数値加えて、さらに5点の正気度を失うという意味だ。そして一度に10点の正気度を失うと、「発狂」という状態異常になる。


 「発狂」になると、探索者達はパニックに陥り、殺人癖、逃亡、放心といったリアクションをとることになる。これらの行動もサイコロを振って決める。


 今回は5+1d10なので、探索者達は50%の確率でこの状態に陥るというわけだ。


「なんておぞましい姿。旅籠の看板のとおりですぞ!」

「ああ、人狼が実在したなんて……!」

「機動部隊が来る前に遭遇してしまうなんて、もうおしまいですわ!」


PL1:正気度チェックは、おや、失敗ですな。減少する正気度は……15。発狂ですな! いやはや参りましたな。ハッハッハ!

PL2:あ、オレも発狂したわ。

PL3:わたくしもですわ。


 ゲッ! みんな発狂しちゃったよ!!

 ……いや、最初からおかしいから、特に問題ないか。


GM:ではどういった内容の発狂をするか、ダイスを振ってきめますか。


PL1:ダイスロール。ほう、異食症ですか。では急に人狼が食べたくなりましたぞ。


PL2:こっちは自傷・自殺だな。急に死にたくなったから、人狼に突撃するぜ!!


PL3:わたくしは極度の執着ですわね。では人狼の心臓が欲しくなりましたわ!


 こいつら狂ってる?!

 いや、狂ってるからそれで良いんだけど……限度!!


「ホッホッホ、まさか人狼に出会えるとは……も見ておきましょう」


「あいつは俺の死だ。なんだか急に死にたくなってきたぜ! ウォォ!」


「伝説の人狼に会えるなんて感激ですわ!! 財閥のコレクションに、人狼の心臓を加えますわ!!」

 

 もうダメだ、おしまいだぁ……!

 完全にやばすぎる連中がここに爆誕してしまった。


 一人残らず探索者が発狂した今、人狼化したアルカス神父との交渉は、不可能と見ていいだろう。このまま普通に戦闘開始でいいな。


 ……発狂してなくても、まるで交渉できる気はしないが。


GM:えー、では君たちは人狼に突撃していく、で良いのかな?


PL1:そうですな、色々な謎はそのままですが……この際、命を守る行動を優先するとしましょう。


PL3:そうですわね、命は何よりも大事ですもの。


 メイドと執事を爆殺して、一番命を無駄にしてる、お前が言うな。

 

GM:えー、突撃してくる探索者達。それを見た人狼は声をあげます。その声は怒りに震えているようです。


「お前たちのせいで、私が人間に戻れるチャンスは失われた。よくも村を焼き払ったな。だが神は最後に、お前たちを殺すという幸運をくれたようだ!」


GM:「ウォォォーン!」人狼は、どこか悲しげな遠吠えを上げた。もはや人ではなくなった自分に対しての哀悼か、それとも、これから死にゆく君たちへ向けてのものか。人狼との戦闘を開始します。


 ふう、全く望んだ形ではないが、何とかなった。

 あとは探索者が死ぬか、人狼が死ぬかだ。


 しかしあれだな、本来は民俗資料館で剣を手に入れたり、村の猟師から猟銃を盗むなんかのイベントがあったが、全てすっ飛ばしたから、武器も何もないぞ。


 これは探索者たちのなぶり殺しになるかなぁ?

 今ある武器って、ドミトリーのポケットナイフしか無いもんな。


 まあ観念して死んでもらうとしよう。

 プレイヤーたちの手番が先だが、おそらく何もできまい。


PL1:ではここで教授はバケツ型のヘルメットを外しますぞ。


 む?


PL1:そしてヘルメットを人狼の頭に被せるために「レスリング」をしますぞ。教授はかつて世界大会で優勝したほどの腕前なのですぞ! 


PL1:そしてダイスロール、成功ですぞ!! 人狼にヘルメットを被せますぞ!


 むむ? 成功したは良いが、こんな程度で何ができるというのだ?


PL1:ルールブックによると、人狼の「力」は、「爪と牙」による2d6でしたな?私の手によってヘルメットを被せられ、牙を失った「力」は、1d6に半減するはずですぞ!!


 何ッ?! クソ!その手があったか!!


「1992年のオリンピックを思い出しますぞ!! そうれ!!」


「ヌワー!!」


PL2:俺の追撃だぜ! 人狼に駆け寄った俺は、ポケットの釘を取り出して、レスリングで組み付かれている人狼の手を、釘で打っていくぜ!!


PL2:これは戦闘じゃない。金属を使った工作だから「金属工作」でロールするぜ! 成功!! おらあ!


「教授、そのままだ! 釘で地面に打ち付けるぜ!! トントントン!」


 アイタタタタ!! 加減しろ!!


PL3:では私は、所持品の※カトラリーセットから銀製のナイフを取り出して、人狼の胸に突き立てますわ。食事ですからこれは日常動作、つまり、ルールに基づいて絶対に成功する行動ですわ。


 ※食事に使われる「ナイフ」等の食器。「切るもの」という意味。


「それでは――いただきますわ」


「グワーーー!!!!」


GM:えーっと……アナスタシアのナイフが人狼の心臓を捉えた。切り出された心臓は、その鼓動を留め、人狼はその命の火を消した。


「激しい戦いでしたわね」

「ホッホ、間一髪といった所でしたな」

「単位のためだったのに、大変なことになったもんだぜ」


 全くだよ。村は消し飛ぶわ、人狼は活造りにされるわ、意味がわからんぞ!

 ともかく、戦闘が終わったから、次はエンディングだ。


 もうすでに何もかもが終わっている気がするが、どうまとめよう……?

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