合言葉はラッキートレイン
改淀川大新(旧筆名: 淀川 大 )
合言葉はラッキートレイン
合言葉はラッキートレイン。掲示板の指示には、そう記されていた。
強盗や窃盗を
輸送されるのは五億円。全て
俺は考えた。時刻から列車は特定できる。それに乗ればいい。乗客の中から運搬人さえ特定できれば、あとはこちらのものだ。現金で五億円なら、アタッシュケースで五個。その大きさも察しが付く。運搬人は三人から五人。別の形で運ぶとしても、外見で分かるはずだ。よし、いける。
不景気続きで誰も大金なんて持っていない。強盗専門の俺もキツイ日が続いていた。転職を考えて、求人情報を漁っていた俺が、ふと気になって、いつもの闇サイトを覗いたのが
この掲示板に載せてある以上、もう情報が回っているはずだ。俺と同様にこの列車を襲う奴がいるだろう。だから合言葉が指定されているのだ。
俺たち裏家業の人間も互いに協力し合う時代だ。昔のように強奪金を巡って争うような事はしない。結局、残った奴も
今回の現場でも多くの同業者に出くわすだろうが、この合言葉で区別はつくし、協力者が増えれば仕事が成功する確率も高くなる。五億円なら分配金も少なくはないし、もし少なくてもゼロよりはましだ。文句はない。そういう暗黙の了解の下に皆が現場に集うはずだ。争いは起きないだろう。「ラッキートレイン」。いい合言葉だ。
俺は片笑みながらネットでその列車について調べた。
列車は六両編成。計十二の駅に停車する。一駅の間に全ての車両を調べる事は出来ないが、他に同業者が乗っているとすれば、情報を交換し合えば、容易に運搬人を特定できるはずだ。あとは、その運搬人たちを列車から降ろせばいい。楽勝だ。
俺は上気した。
俺は予定時刻どおりに出発駅からその列車の一両目に乗った。乗客とその手荷物を観察していく。全員の荷物と外見を観て回ったが、それらしい荷物を持っている乗客はいなかった。
二つ目の駅に着いた時、俺は二両目に移動した。乗ってくる乗客を観察していると、隣の男に小声で言われた。
「ラッキートレイン」
「ラッキートレイン」
俺はそう返した。男は俺の目を見て頷いてから言った。
「この車両は俺が調べた。乗ってねえみたいだ」
「後から乗ってくるかもしれないぞ」
「それは他の奴に訊くさ。各車両にそれぞれ数人ずつ同業者が乗っている」
要領のいい奴だ。俺はその男と共に三両目に移動した。乗客を観察していると、列車は三つ目の駅に着いた。注意して乗降客たちを観ていると、背後から女に声を掛けられた。
「ラッキートレイン」
「ラッキートレイン」
「この車両は私が調べたわ。他の同業者からの情報では、五両目と六両目には乗ってないわ」
「では、四両目だな」
三人で四両目に移動すると、さっきの男が俺の肩を突いた。
「あの学生風の連中を見ろ。部活に行くような恰好の」
俺はその方に視線を向けた。男が小声で続ける。
「四人いるのに、スポーツバッグを提げているのは二人だけ。しかも、やたらとデカいし、重そうだ」
女が口を挿んだ。
「待って。バッグをよく見て。角が浮いている。札束の形に」
「確かに。学生に偽装して運搬か。まさか大金を運んでいるとは思わないからな。考えたな」
俺たちは密かに懐からナイフや銃を取り出すと、その若い連中を取り囲んだ。俺はその中の一人にこっそりとナイフを突きつけ、静かに脅した。
「次の駅で降りろ」
四つ目の駅に着き、その若者たちが降りた。奪ったバッグを同業者に預けると、俺は叫んだ。
「ラッキートレイン!」
「ラッキートレイン」「ラッキートレイン」「ラッキートレイン」
列車内の方々から声が上がった。
「よし、今の言葉に覚えがない人間は今すぐ降りろ。早くしろ!」
半分ほどの乗客が慌てて降りていった。扉が閉まり、列車が走り出す。前方と後方の車両からも合言葉を口にしながら同業者たちが移動してきた。
全員が集まったようなので、さっきの同業者がバッグを開いた。
「くそ、やられた!」
偽の札束が入っていた。その車両の前後のドアは開かない。俺たちは列車に閉じ込められたまま、警官隊が待ち伏せる五つ目の駅へと運ばれた。
掲示板に情報を書いたのは
この列車は
合言葉はラッキートレイン 改淀川大新(旧筆名: 淀川 大 ) @Hiroshi-Yodokawa
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