愛してるの響きだけで

惟風

愛してる

 ねえ。

 私ね、貴方のことが大好き。

 だから、私は、死ぬの。



「好きな娘ができたんだ。だから、僕達別れよう」


 いきなりそんなのってないじゃない。

「世界中の誰より君のことが好きだよ」


 大げさで芝居がかった口調で愛を囁いてくれたの、今でも覚えてる。

 あれは嘘だったの?

 ううん、嘘でも良い。その場だけのノリだったとしても、私は嬉しかった。

 マメで誰にでも優しくて純粋で、綺麗な瞳をした貴方を心の底から愛してる。ロックで音楽界のトップに立ってやるんだ、なんて夢を語ってる姿を見るのが何より好きだった。

 その澄んだ瞳で、私の最期を見届けて。


 最初は、「綺麗だね」って言ってくれた髪を。

 次は、プレゼントでくれたピアスで飾った耳を。

 その次は、ベッドでいつも握り合っていた手を。

 いつもドキドキさせてくれた心臓は、最後にするわね。

 私の欠片を、ちょっとずつ貴方に贈るわ。

 それ等が私の一部だって、いつ気づいてくれるかしら。

 ちゃんと貴方の元に届くように、手配してるから。

 全部ぜんぶ、受け取ってね。


 私は今日、貴方のために死ぬの。

















 この聖剣“スーパーエクスカリバー”で、地球に襲来しようとしてる宇宙大怪獣“爆裂最凶最悪龍エンペラードラゴン”と相打ちになって。


 ごめんね。

「ありのままの私を愛して」なんて言ってたけど、私、貴方に隠し事をしてた。

 私、異世界から転移してきたドラゴンスレイヤーなの。

 貴方に振られてすぐは、この聖剣で貴方ごと地球を叩き斬ってやろうと思った。その後に自分も。

 貴方を殺して、私も死ぬ。地球も死ぬ。


 そう思い詰めていた時、宇宙大怪獣“爆裂最凶最悪龍エンペラードラゴン”が地球に向かってきているニュースを知ったわ。

 皆パニックになってた。貴方だって。

 世界中の全武力を行使すれば、アイツを止められるかもしれない。

 だから本当は、わざわざ私がやる必要はない。

 でも、悔しかったから。

 貴方に、思い知らせてやりたかった。

 最愛の人を守るために死んで、それを全世界に知らしめてやりたい。私から貴方を奪った女に、見せつけてやりたいの。

 アンタにはできないでしょ、って。

 愛する人を守るってこういうことなのよ、って。


 私は今、宇宙空間にいるの。地球が私の後方に小さく見える。

 大怪獣を見張る偵察衛星が近くを飛んでるわ。きっと衛星カメラで私の姿が全世界に中継されているわね。


 宇宙大怪獣“爆裂最凶最悪龍エンペラードラゴン”に、自分の魂をエネルギーに変えて放つ超奥義・超絶スペシャルハリケーンを全力で叩きこむ。

 大怪獣ごと私は死ぬけれど、細切れになった死体を少しずつ貴方に送る転移魔法をもうかけてあるの。


 ねえちっぽけな人間の彼女さん、見える?

 私はこれから、人類の英雄になるの。

 命をかけて愛する人と彼の住む惑星ほしを守った勇者として、未来永劫その名を刻むのよ。


 愛しい貴方。

 地球の片隅で、私の勇姿を焼き付けてね。

 そろそろ時間だわ。




 私は、聖剣を構えた。





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愛してるの響きだけで 惟風 @ifuw

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