あとがき:私と少年

20代後半の頃。

仕事上、子供と関わる機会もありました。


待合室で既に号泣してる子供。

私の顔を見て怯えて逃げ出す子供。

暴れる子供にどうして良いか分からなくなる事も。


そんな日々が続き、ノイローゼになりそうでした。


とにかく解決の糸口を求め、本を読み漁り

職場の先輩に相談もしました。


「お前も父親になれば、子供の扱いが上手くなるよ」

その時の私には、何の慰めにもなりませんでした。



ある日、“ 圭佑 “という小学生が現れました。

ダダダッと入ってきて、私に向かって片手を挙げ

「よっ!」と言うのがいつもの挨拶でした。

子供の扱いに四苦八苦していた、その時の私は

また面倒くさい子供か、とため息をついただけでした。


そんな私が、いつしか

人懐っこく屈託なく笑う圭祐と会うのも

学校であった事や取り留めのない話を聞くのも

楽しみになっていました。



そんな時に思い出したのが

『逃がれの街』のフレーズでした。


「 俺はヒロシの母親代わりにはなれない。

父親でもない。兄貴にすらなれない。

でも、友達にならなれる。

腹を割った男と男の真剣な友達だ 」


このフレーズが、悩み続けてた解決の糸口でした。



それまで『逃がれの街』の事を忘れていたので

圭祐と会った事が、心の深いところから呼び起こしたとしか思えませんでした。



雑貨店で、おもちゃを買い

圭祐との最後の日に渡しました。

「圭祐、俺に会いに来てくれてありがとうな」

言葉に出すのは恥ずかしくも、そんな想いを込めて渡しました。


「じゃあまたね」


そのすぐ後に、部署移動となり

私に手を振った姿が最後でした。





俺の事など覚えてないだろう_______


圭祐は今、何をしてるのか

あの頃のように屈託なく笑い

元気に過ごしてる事を

今も願っている


遠い街で、俺はお前の事を、こうして思い出している_____

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

【 逃がれの街 】レビュー Eternal-Heart @Eternal-Heart

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画