42.番外編 バレンタイン(幸司目線)

「いいわね、あんたら、ラブラブで」


森田は俺と唯花の貴重な放課後デートを邪魔した上に、唯花を帰らせ、一人になった俺を睨みつけてきた。

こいつは唯花に甘いから、唯花にこうした苛立ちは見せない。


「亨に会えないからって、俺に当たるなよ。ってか、帰りは一緒に帰れんだろうが。何文句言ってんだよ」


予備校の廊下で歩きながら言い返す。


「帰りなんて時間少ないもん! あんた達みたいに、普通の日に一緒に帰ったり、塾の前にファミレス行ったりファストフード行ったりしたいの!」


「だから、俺に言うな」


「分かってるわよ! 本田君に言ったってなーんも解決しないってことぐらいさぁ!」


なぜ俺がこの女のヒステリーに付き合わなければいけないのだ。まったく解せん。


「あ、そうだ。金曜日と土曜日、唯花を借りるわよ」


思い出したように森田はパンっと手を叩いた。


「なんでだよ?」


「別に毎日会ってんだからいいじゃないっ。ホント、器の小せー男だな、おめーは!」


「ああ?」


「何仲良く話してるの? 二人で?」


「あ! 亨君!!!」


俺達の背後から亨が話しかけてきた。

森田の豹変ぶりが凄い。


「あのね、今度の土曜日に唯花とバレンタイン用のチョコレートを作るの! 楽しみにしててね、亨君!」


「それは嬉しいな。麻奈の手作りなんだね」


「そう! 金曜日に材料買いに行くの、唯花と!」


「楽しそうだね」


「うん! ふふふ~♪」


おい・・・。俺、そのこと唯花から聞いてねーぞ。

もしかしたら、唯花はサプライズにするつもりだったんじゃねーか?

聞いてしまった俺の立場、考えてる? 





「コウちゃん、ごめんね。明日は一緒に帰れないの。麻奈と約束してて」


家の前で唯花がちょっと言い辛そうに俺を見た。


「ふーん。分かったけど、森田と何処に行くの?」


「え、えっとね。ちょ、ちょっと買い物? 麻奈に付き合ってくれって言われて・・・」


唯花の目が泳ぐ。


「ふーん。土曜日は?」


「え?! 土曜日? だって、土曜日、コウちゃん用事あるって言ってたじゃん!」


別に誘ったわけでもないのに、唯花の動揺が酷い。

ああ、やっぱり、唯花は俺に内緒にしておくつもりだったんだ。

明日の予定を家の前までギリギリ言わなかったって事も、言い逃げするつもりだったんだな。

どうしてくれるんだよ、森田! この、唯花の健気な想いを!


「うん、用事あるよ。聞いてみただけ。じゃあな、おやすみ」


俺はシレっと話を流して、唯花の頭を撫でた。


「う、うん。お、おやすみー!」


動揺を隠そうとブンブン手を振る唯花。

本当に嘘が下手な奴だな。


騙されているわけだが、全然嫌な気持ちがしない。

俺は口元がにやけそうになったので、慌てて踵を返して家に向かった。

バレンタインが楽しみだ。





生憎、バレンタインの日は予備校の日だった。


「はい、コウちゃん。チョコレート!」


唯花は会って早々、俺にチョコを渡してくれた。

満面の笑みで俺を見てる。もう、ここで抱きしめていいかな?


「ふふ、実はね、金曜日に麻奈と出かけたのはこれの為だったんだ! 金曜日に材料買って、土曜日に一緒に作ったの!!」


うん、ごめん、知ってたよ。


「そうだったんだ。ありがとう。唯花」


まあ、知っていても知らなくても俺の喜びに大差はない。

ただ、驚くことが出来なかっただけだ。森田の奴、覚えてろよ。


その後はいつも通り、軽めの食事に付き合ってもらい、予備校の前で別れた。

ビルに入ろうとした時、いつもならギリギリになるはずの亨が道端にいるのが見えた。

さすが、バレンタイン。森田に言われて早く来たのか?


だが、様子が変だ。


亨の前に他校の制服を着た女子が立っている。

何かを手に持って、亨に話しかけている。

あれって、チョコレート? もしかして告ってる? あんな舗道で?


俺は急いで森田に電話した。


森田には以前に多大な恩がある。

林田に唯花を連れて行かれた時に、連絡を貰ったどころか、後まで付けてもらった。

ここは恩を返しておくのが礼儀だろう。


森田は既に予備校の教室にいたようだ。

ドドドっと地響がするほどの勢いで予備校の入り口まで走ってきた。


「本田君! どこ?! どこ?! どこに居るの? 亨君とその女!!」


俺は黙ってその方向を指差した。

女子高生は亨に寄り添っている。とは言ってもどうも不自然だ。亨に何かを見せられているようだ。


「ちょっとぉ~!! 亨君! 何してんの~!!」


と森田が叫ぶ前に、その子は亨に頭を下げると、逃げるように走って行った。


「?」

「?」


不思議に思い、一瞬、森田と顔を見合わせた。

だが、森田はすぐに亨のもとに駆けて行った。


「ちょっと! 亨君! 何、今のっ!?」


「ああ、麻奈。ごめん。今、告白されていたんだ。今日はバレンタインデーだからね。いつもより多くて。対応していたら来るが遅くなってしまったよ。ごめんね、待たせちゃったね」


「!!!」


どうしてこいつって、こうも素直なんだろうね。森田が固まってるけど。


「でも、この写真見せるとみんなすぐに諦めてくれるからね。なんとかギリギリ間に合ったかな」


俺と森田は亨の携帯の写真を覗いた。


それは亨と森田がブチューッとしているところだった。


俺は白目を剥いたが、森田はその場にヘナヘナとしゃがみ込んで悶絶している。


「この写真、気に入っているんだ。麻奈も可愛いし。あれ? 麻奈、どうしたの?」


「ううん・・・、何でもない・・・。亨君・・・。大好き・・・」


俺は二人を捨て置き、予備校に向かった。

でも、あれはいい手だ。俺も早速、唯花と撮ろう。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

完結でございます。

最後までお付き合い頂き、本当にありがとうございました!


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好きでもない幼馴染に恋人のフリをお願いした結果 夢呼 @hiroko-dream2

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