「ソフレの関係」には、冷めた珈琲よりも暖かいぬくもりを感じてしまう。

小説の舞台は北陸の水族館とカフェとなります。冒頭の一節で、青一色の巨大な水槽の中を、光に照らされたジンベエザメが悠々と泳いでいる。美しくのどかな世界を感じ直ぐに感情移入してゆく。

あまりの心地よい文章が綴られ、ブルーライトに照らされるサメやクラゲへ成り代わり、ゆっくりと耳を澄ましていきたくなる。なにやら訳ありの男女の会話が届いてくる。ふたりは別れた恋人同志であったらしい。

でも、そこには冷たいやり取りなどなく、冷めた珈琲よりもぬくもりすら感じてしまう。どこまでも優しい彼氏の態度に疑念すら感じながら、一方で彼女を大切にするあたたかさに心を打たれ納得してゆく。

けれど、彼らの愛に復活の文字は浮かばないのだろうか。エンディングのひと言でほっと安堵の溜め息をついている。「まだ、今は」の文末の言葉に救われる想いがした。ただひたすら、幸せになって欲しいと願う。

短編ながら、見事な北国の情景描写と共に、男の心の揺れをしっとりと感じさせる名作です。作者の筆使いの巧みさは羨ましい限り。ありがとうございました。

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