身に覚えのある最後通告

目々

ダウンジャケットの伝書鳩

 安原さんはもう手遅れになるけど、どうにもならないから宮内くんは今更気にしないでくれって。


 待ってくれよ。ただ話しかけただけで刺そうとするこたないだろ。ファミレスのフォークなんてさ、よほどうまくやらないと致命傷にもなんないでただ痛いだけだからな。いきなり暴力沙汰はやめてくれよ。よくないと思うんだよそういうの。そりゃご飯中にいきなり連れみたいな顔してお邪魔してきたやつにこんなこと言われたら気に障るのもわかるけど、一応待ってよ。俺にも理があんのよ。三分よりかあるよ。

 とりあえずさ、ちょっとだけでいいから話しねえ? 店員さんにも友達ですって入ったからさ、すぐ出てったら不審者じゃん。俺結構来るしさ、ここのファミレス。ちょっとでいいからさ、本当。食いながら話してくれてていいから。悪いね、宮内くん。


 何で名前知ってんだよって疑問に思うのは当然だよね。でも、こっちだって教えてもらったからとしか答えようがないんだよ。お使いやらされたわけだからさ、届け先分かってなかったら事故るもの。直接言えって話だけど、都合かきまりのどっちかが悪いんだろうなあ、そうじゃなかったらわざわざ他人に伝えさせなんかしないだろうし。

 詐欺じゃないさ。宗教でもない。俺はさっきの内容を伝えてくれって言われただけだもの。むしろ俺の方が知りたいくらいだね、何伝えたか分かってないんだから。


 つうかあんたはさ、心当たりとかおありで?


 あんのかよ。じゃあどうしようもねえじゃん。初対面でこういうこと言うのもなんだけど、あんたも相当ろくでなしだろ。


 誰から聞いてきたってさ、それもやっぱり俺聞きたいのよ。

 多分ねえ、地元の先輩、だと思うんだよ。顔がね、知ってる顔だったから。知ってる? 見代さん。こう、人相の悪い……ひどいことするのもされるのも似合う感じの人。デコの右に火傷痕があるけど、あそう。知らない。でもねえ俺も伝えといてって頼まれただけだからなあ。何でそんなことするのか、みたいなのは聞く気にもならない。あんたとの関係とかあんまり興味ないもの。目ざとく気づいてもあんまりいいことないしね、俺程度のやつだったら大半のことは知らないふりしてた方がマシなんだよね。中途半端に気づいたりすると、本当にろくなことにならないし。生兵法だと大怪我するもんだよね、何だってさ。


 じゃあ先輩だろって凄まれてもね、そこが厄介っていうか、困ってるとこなんだよ。

 先輩かどうかはっきりしろって言われてもね、そこが微妙っていうかさ。なんだそれって言われてもな。顔とか体は間違いなく先輩なんだけどね、雰囲気っていうかなんていうか……断言はできないのよ全然証拠がないから。

 なんか違う気もするけど、

 いや、勘よ。だから八割。俺の直感しか根拠がないとか言いがかりにも程があるじゃん。八重歯あったしなあ。人相悪かったし。あの人もう何人か埋めてそうなもんだけども。そう思わない? いやあんたは知らない人だっけ。うん、まあ、そういう感じの人なんだよ本物の見代さん。そうじゃなきゃ俺だってのこのこ伝書鳩やらないよ。本物だったら断った途端に俺がおしまいだもの。手遅れだよ。

 その見代さんっぽい人さ、もう黙ってられなくなったんだって。言わなきゃいけないけど嫌だから、じゃあ人にやらせようってして、そんで俺に伝書鳩やれっていう馬鹿な流れ。しんどそうな顔ではあったけどね、多分。

 そういうの分かるけど、だからってさあ人に丸投げするこたないじゃん。俺本当とばっちりなんだよね。たまたま目が合っちゃったからなあ。やっぱ人と目合わせるとろくなことにならないや。あんたもそう思うでしょ。いやまあ、そうだなって追い出されると俺困るけど。


 手がかりとかねえのかってさあ、俺脅したって意味ないよ知らないもの。やめてよファミレスの食器を活用すんの。見てるよ。子供が。駄目だよフォーク顔に向けたら。


 俺だって驚いてんだから。たまたま駅前ぶらついてたら声掛けられて、場所と時間だけ教えられて、あんたの外見と名前を聞かされて、そんでなんだろうな悪ふざけかなって来たらマジにいるんだもん。

 左指にデケえ傷あるだろあんた、それも聞いたよ。火傷だって……だから俺は聞いただけなんだって。あんたがなんでそんな怪我したのかなんて、知らないし興味もないよ。お手拭きぶつけんなよな、気分的に嫌だろ。未使用でも。気持ちの問題だよ、そういうのって最終的にはさ。


 分かったよ、早く消えるよ。俺はちゃんと頼まれたことは伝え終わったからな、晴れて映画観に行けるんだよ。午後からになっちゃったけどな、席なんかどうせ余裕で取れるし。家で見られるっていっても、映画館のあの暗い中で見る予告編が好きなんだよね俺。ほんと映画観に行くやつ減ったよなあ。暇潰しの選択肢が増えたからだろうけど、俺からすればドライブやなんやの方が意味分かんないしな。車乗ってどっか行ったって結局戻ってこないといけないし。小物に暇与えるとろくなことしないってのは定説だしね。心当たりがあるもんね俺は。あんたはどうか知らないけど……分かったよ。しつこくして悪かったよ。


 あ、宮内くん。聞いてきたの、もう一個あったわ。

 平成二十九年の七月十四日、覚えてる?


 うわ、すげえ顔するじゃん。


 とりあえず俺は伝えたよ。やるもんじゃないね、伝書鳩なんて。もう頼まれたってやんないよ。

 んじゃあ、失礼するよ。俺だって暇じゃないからね、さっきも言ったけどこれから映画見に行く気だったしさ、今日は。あと公共料金も払い込まないといけないからコンビニにも寄んなきゃだし。やること結構あんのよ俺にも。


 一応ね、先輩っぽい人とかに会ったら、よろしく伝えといてな。ちゃんと俺が伝言できたってことも。多分会えないだろうけどね、俺も、宮内くんも。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

身に覚えのある最後通告 目々 @meme2mason

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ