【コント】絶望おみくじ
鵜川 龍史
【コント】絶望おみくじ
〔登場人物〕
運:これまで運がよかったのに、不運に巻き込まれる
不:絶望的に不運な星の元に生まれた
不:(ひどく感激しながら)おお! 久しぶり! やっと会えたー!
運:(少し引き気味に)お、おお。久しぶり。元気だったか?
不:(勢いよく)元気じゃねえよ!
運:……元気そうに見えるけど。
不:まあ、いろいろあったんだよ。
運:そうだろうな。卒業式以来だもんな。みんな、お前と連絡つかないから、どうしたんだろうって心配してたんだよ――。
不:(食い気味に)みんな? マジで? 誰?
運:誰って?
不:誰が心配してたの? 具体的に!
運:え、ええと。……阿部と……あと……。
不:(嬉しそうに)じらすなよー。
運:……阿部?
不:(楽しそうに)阿部はもう聞いたよー。
運:……和也……
不:和也? ……って、阿部和也! 阿部じゃん!
運:それよりさ。
不:みんなって、阿部だけ?
運:まあ、いいじゃん。
不:お前は?
運:え? (少し考えた後、ウソっぽく)……もちろん、心配してたよ!
不:ホントに! 嬉しい!
運:(傍白)信じてくれた。
不:ウソでも嬉しい!
運:(傍白)バレてる!
不:そんなことより、今、ちょっと時間ある?
運:あ、ああ。まあ、ちょっとぐらいなら。
不:よかったー。初詣に付き合ってほしいんだよね。
運:初詣? もう九月だぞ。
不:行かずにとっといたんだよ。
運:何を?
不:今年初めての「
運:なんで?
不:お前と行くためにだよ!
運:(気持ち悪そうに)いや、なんでだよ?
不:初詣の時って、おみくじを引くじゃない。
運:まあ、引くけど。
不:でさ。お前って、昔から運だけはよかっただろ?
運:「だけ」って言うな。
不:で、運の悪い俺も、お前と一緒におみくじを引けば、その運のおこぼれをもらえるんじゃないかな、って。
運:なるほど。そういうこともあるかもな。(しばらく歩くマイムをしながら)もし俺と会えなかったら、どうするつもりだったんだよ。
不:どうもしないよ。去年も、おととしも会えなかったし。
運:どういうこと?
不:この十年、ずっと初詣、行ってないんだ。
運:なんか、色々間違ってる気がするな。……着いた。さすがにこの時期の神社は空いてるな。
不:あっ! おみくじ! なあ、ほら、おみくじ!
運:テンション上がってるところ悪いんだけど、先にお参りしないと!
不:お参りなんかいいから、早く、自分の運がどう上がったか、知りたいんだよ!
運:罰当たりなやつだな。
不:この十年、初詣に来てなくても、何ともなかったぞ。
運:ろくでもないな。
不:(無言で手を差し出す)
運:何?
不:ん。(手を突き出す)
運:何?
不:
運:なんでだよ!
不:俺の金で引いたら、俺の運に引きずられるだろ!
運:……初めて聞いたよ、そんな話。まあいいや。ほら、二百円。
不:これでひどいの引いたら、責任とってもらうからな!
運:お前は、最低の人間だな。お前を心配してた阿部の気持ちが、全く分からないよ。
不:よーし、引くぞ!(派手な動きでおみくじ箱を振る)
運:壊すなよ。せっかくだし、俺も引くか。(普通におみくじ箱を振る)七十七番か。
不:お、運が良さそうなのが出たな。俺も負けない!(さらに振る)九十四番……苦しんで死ぬ……。(ひどく落ち込む)
運:まあまあ、数字は数字だから。引いてみようぜ。(箱からおみくじを取り出す)
不:そうだよな。(箱からおみくじを取り出す)……凶。(ゆっくりと運の方を見る)
運:ちょっと待て、俺は悪くないからな! 逆恨みするなって。
不:ありがとう。(涙を拭く)生まれて初めて、大凶以外のおみくじを引いたよ。
運:そうなの? よ、よかったじゃん。
不:お前は?
運:ああ、まあ、いいじゃん。
不:俺は言っただろ。いいから、教えろよー。(なれなれしく)
運:気持ち悪いな……。まあいいや。大吉だよ。
不:師匠!
運:誰が師匠だよ。
不:じゃあ、師匠の「失せ物」はなんて書いてあります?
運:ええと……「一生、心配する必要はないでしょう」
不:すごすぎる!
運:お前は?
不:「何一つとして見つからないでしょう」
運:そんなこと書いてあんの? つらいな。
不:「恋愛」は?
運:「永遠に一人の人を思い続けるでしょう」
不:俺は……「やめたほうがいいでしょう。迷惑なので」
運:(驚く)そんなこと書いてあんの!
不:(嬉しそうに)アドバイスが具体的でありがたい!
運:え? まあ、確かに具体的だけど……。「待ち人」は? 俺のは「みんな集まるでしょう」だって。
不:(目を見開いて、手を口に当てる。あからさまにショックを受けた様子)
運:何?
不:……「死ぬでしょう」
運:いやいやいや。それはひどすぎる。神社に文句言ってやろうぜ。
不:(絶望した様子)ああああ!(「運」の方をちらっと見る)ひどすぎる!
運:何、どうしたんだよ。……もしかして……お前の待ち人って……。
不:……お前。
運:それ、つまり、どういうこと? 俺が死ぬってこと?
不:ごめんな。お前の金でおみくじを引いたばっかりに、俺の不運に巻き込んでしまって。
運:いや、ちょっと待て。どうにか避ける方法があるはず。俺の運の良さは、普通じゃないんだ!
不:そうだよな。諦めるのはまだ早い。
(二人とも、必死におみくじを見る)
不:「事故」のところにはなんて? 俺のは「生きていればよしとしましょう」……何が起きるんだよ(泣く)
運:俺は……「一度しか遭わないでしょう」……その一回で死ぬってこと?
不:「病気」は? 俺のは「生命保険に入りましょう」
運:俺は……「医者は必要ないでしょう」だって。よかった!
不:即死ってことじゃない。
運:それだあ! うわあああ。
不:もしかして、さっきの項目もさ、意味が違うんじゃない?
運:どういうことだよ。
不:「失せ物」は何だっけ。
運:「一生、心配する必要はないでしょう」……もう死ぬから、心配しなくていいってことか?
不:「恋愛」は?
運:「永遠に一人の人を思い続けるでしょう」……死ぬからだ……。
不:「待ち人」は?
運:「みんな集まるでしょう」……それって――
不:お葬式だな。
運:(頭を抱える)何でこんなことに! 俺は運がよかったはずなのに!
不:いやいや。十年間会ってなかった俺と再会したってことは、運の尽きだったんだよ。
運:確かに。
(幕)
【コント】絶望おみくじ 鵜川 龍史 @julie_hanekawa
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます