エピローグ


(原作4巻のネタバレありです。ご注意ください。)



『みくるちゃんに加えて、有希までアメリカに留学するなんてねー。キョン、今からアメリカに行って有希だけでも連れて帰ってきなさい』

『無茶言うな』


 あれから半年。

 俺は東京の中小企業になんとか受かった。妹が、俺が東京へ行くと知った時、泣くとは思わなかった。

 必要最低限の荷物をまとめ、引っ越し業者に任せ、俺は駅から二十分ほど離れたアパートのワンルームを借りた。

 新生活が始まり、こき使われ、学生時代がいかに自由だったかを、まざまざと思い知らされた。

 ハルヒによる超常的、もしくは現実的なイベントもなく、あいつもあいつで忙しいのだろう。

 そして、俺の少し、いや、だいぶおかしかった学生時代は、思い出になろうとしていたとき――、


 『やつ』からメッセージは来た。


 ○


「いやあ、何度もご足労いただき、申し訳ありません」

「お前、俺が東京に就職できなかったら、どうしてたんだ……?」

 地元から東京に呼び出す気だったのか?

「その時は違う手段をとらせていただきましたよ」

 古泉が呼び出したのは、半年前に話し合った、雑居ビルの一室だった。

 ただし、休日なので俺は私服だし、古泉もやけにしゃれた私服だった。

「もうお前と話すことなんてないぞ」

 長門のことは報告済みだしな。

「さびしいことを言わないでください。僕が、あなたに伝えたいことがあるんです」

 愛の告白だったら間に合ってるぞ。

「ははっ。残念ですが、僕の興味は今も昔も女性に限られていますよ。あなたにも全くないと言えばウソになるかもしれませんが」

 今すぐ逃げ出したくなるようなことを言うな。

 古泉は、真剣な顔になり、こう言った。

「長門さんのことですよ」


 ○


「そもそも、長門さんは、僕たちが北高に通っていたときに、エラーをため、一度世界を改変しています。ですから、『機関』は、長門さんが感情を持つことに、非常に敏感になっていたんです」

 俺としては長門が大人になるにつれて感情豊かになってくれることを祈っていたがな。

 そして、それは一度叶って、そしてなかったことになった。

「そうですね。今でも、あの人間味あふれた長門さんは、僕の目にも焼き付いていますよ」

「さっさと要点を話せ」

「わかりました。涼宮さんのおかげで、長門さんは愛くるしいお方になりました。ですが、『機関』は、それをよしとしなかったのですよ」

「おい、まさか――」

「そのまさかです」

 古泉は、顔に張り付いていた笑みを消して言った。


「長門さんの恋人だったF氏は、『機関』の人間だったのです」


 俺は、なにも言えなかった。

 古泉は薄ら笑いを浮かべて、

「つまり、F氏は、最初から長門さんを元に戻すために、僕たち『機関』側が送った刺客だったんです」

「お前……!」

 俺は、とっさに古泉を殴ろうとした。だが、すんでで思いとどまる。

 今、コイツを殴っても、『あの』長門は帰ってこない。

「お気持ちはわかります。ですが、『機関』の上層部の決定でしたので、僕でも覆すことができませんでした」

「……ひとつだけ聞きたい」

「なんなりと」

「なんで、今さら俺に言ったんだ?」

 古泉は、ため息をひとつついて、言った。

「さあ。なんででしょうね。罪悪感から逃げたかったのかもしれません」


「あえて言うなら、懺悔ですよ」


 俺は、雑居ビルを歩いて立ち去りながら、考えた。


 あのまま、もし長門が『初期化』せずにいたら、どうなっていたのかを。


 きっと、今も会う人全員のアイドルになっていたに違いない。俺が保証する。


 その時、スマホにメッセージが来た。

 ハルヒからだった。


『ヤッホー、キョン、元気?』

『こっちは毎日残業で死にそうよ』

『なにか奇跡でも起きないかしらねー』 


……このアマ、返事くらい待て。

 俺は、ハルヒのメッセージに対して、こう打った。


『お前、奇跡ならもう起こしてたぞ』


 あの髪の長い長門は、奇跡以外のなにものでもなかった。




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【二次創作】長門有希の再会 鈴木雨丸 @whitealice318

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