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その日。
納言は光君に呼ばれて琵琶湖浜を訪れていた。
「こんなおっきな湖があるなんて生まれて初めて見ましたわ」
「喜んで貰えて嬉しいよ」
「それでわざわざこちらに参ったのは何かおっしゃりたいのですか?」
納言の問いかけに光君は答える。
「私は其方の事が諦めきれない。たとえ妻がおろうが、改めて言おう」
光君は一呼吸して告白する。
「納言よ、我が妻になってくれぬかっ?」
「光君殿。しつこい御方は嫌われますよ。それに私には夫になる者が既におる」
「世一とかいう農民か?貴族である其方と釣り合わぬであろう。贅沢な生活を捨てて自ら死ににゆくものであろう」
「……たしかに元が農民である者にとっては私は妬まれるだろう。しかし、彼と過ごしたい想いは大きい」
納言は波打つ琵琶湖の小波を眺める。
光君はしばし護衛たちに納言を任せると木々が生い茂る林に入ると一人の兵に命令する。
「金助とやら御主は都に戻り、世一とやら農民を処刑しなさい」
「はっ!」
金助はその場を去る。
「世一がおるから納言は妾のものにならない」
光君は納言の下に戻る。
「何処に行っておられた?」
「すまない。納言よ、お主はいずれ我が妻となろう」
「あなたも分からない御方ですね」
「いずれ時は来よう」
場所は変わり、世一はいつもと変わらずに畑仕事を始める。
そこに金助と名乗る旅人に扮した人物が現れる。
「すまねぇが、この辺に野宿する所はありませんか?」
「この辺は田舎なんで熊や狼が出ますよ。よろしければウチに泊まりますか?」
「それはありがたい。つかぬ事を申しますが、世一と言う男をこの辺で知りませんか?」
「世一とはわしじゃな……」
その時、金助は脇差で世一の胸を突き刺す。
「なっ」
「恨むなら帝を恨みなよ」
金助は急いでその場を去る。
「納言……」
世一は気を失う。
平安物語 さやか @syokomaka09
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