第16話 バズった

「バズった」

「ばず……?」


 翌日、登校したばかりの幸子をつかまえた中村は、得意げに自分のスマホを見せつけながら聞いたことのない呪文を唱えた。


「SNSで、投稿がめちゃくちゃ拡散されることを『バズる』って言うんだよ」

「えすえぬえす」

「え、ゆっこちゃんなんもやってないの? スマホ持ちなのに?」


 とにかく見てよ、と手渡される。

 そこにはこんな文書が表示されていた。


『【本当にあった怖い話】ガチのなんで詳細は伏せるけど、とある少女漫画雑誌に載ってた恋のおまじないが実は呪いだった。儀式に使われたもん見つけたら呪われて、それやった女の子も呪われた。毎晩少しずつ蛇に首を絞められて、起きたら痕も残ってる。で、協力して呪いを解いて、俺たち付き合いました』


「え、首に痕なんてないように見えるけど……」

「あ、後半はほとんどウソだから」

「ええ⁉︎ 付き合わなかったの⁉︎」


 中村はへらりと笑う。どうやらその質問に答える気はないらしい。


 あれほどの出来事を昨日の今日でネタとして消化していることに、呆れればいいやら感心すればいいやらわからなかった。トラウマになっていないようなら、それがいちばん良い。もしかしたら蛇は二度と見たくない状態になっているかもしれないが、こうしてあっけらかんと笑いながら学校に来たことには心底ほっとした。


「やっぱり、怖い系は鉄板だね。こんなにふぁぼもらったのはじめて」

「ふぁぼ?」

「この、黄色い星のマーク。この投稿おもしろいなって思った人の数だけ、ここに数字が表示されるんだよ」


 中村が指さした星のとなりには、七万とあった。


「七万? ……七万⁉︎ えっ、すごい、神奈川県民くらいいるんじゃない?」

「いや、神奈川県もっとすごいよ」

「じゃあ白希町の全員くらい?」

「まったく足りない。うちの町、たしか四千人いないんじゃなかった? 社会の授業でそんなこと言ってた気がする」


 数字は基本的に耳を通過する幸子である。曖昧に小首を傾げながら受け流そうとして、


「ん?」


 ふと、なにか繋がりそうな気がした。


 考えこむにつれて、糸は明確に繋がっていく。大粒のアーモンドのような瞳がみるみる見ひらかれて、輝きが内側からあふれだす。

 一度ひらめいてしまえば、どうしてこれまで気づけないでいたのかふしぎなほど、ヒントは身の回りにじゅうぶん揃っていた。


「ありがとう! ありがとう中村くん!」

「え? なに、ありがとうはどちらかっていうと俺のほうだけど……あっ、早乙女! おはよ! ちょっと、なんで逃げるんだよ」


 中村に感謝を告げて別れると、幸子はおおあわてで自分の席に座った。

 くたくたになった部活申請書を机に広げて、シャーペンの頭を鳴らす。






『運命の白い糸』完

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