婚約破棄、もふもふしすぎた侯爵令嬢。
touhu・kinugosi
婚約破棄、もふもふしすぎた侯爵令嬢。
「アリシア・テイマー侯爵令嬢、お前との婚約を破棄するっ」
ハスキー王太子が大声で言った。
貴族学園の卒業式のパーティーだ。
「こちらの、ペルシャ公爵令嬢と婚約する」
ハスキーは、凶悪な胸部装甲を
「それがいいと思いますわ、アリシアさん」
ペルシャがハスキーと一緒に、後に一歩下がる。
ゲ~ホ、ゲホゲホ。
ズビズバ~。
「な、ゲホ~、なぜですか~、ぜ~ぜ~」
アリシアが、息もたえだえに聞いた。
「あ~、いや、だって、アリシア」
「お前は”毛アレルギー”じゃないかっ」
顔にぴったりとついた透明のゴーグル。
ガスマスクかっ、というようなマスクをつけたアリシアの顔を見た。
約十歩ほど離れた距離。
ハスキーは、イヌミミ、お尻にイヌシッポ。
ペルシャは、ネコミミと、お尻にネコシッポがゆれた。
これ以上近づくとアリシアの命が危ない。
ここは、人口の八割を獣人が占める獣人の国。
王宮は、メイドも含めてほぼ全て獣人だった。
王妃教育のために王宮入りしていたアリシアは、一年前、見事に毛アレルギーを発症。
王宮内は当然、掃除は行き届いていたが、ベットの中の毛など限界があったようだ。
厳しい王妃教育のストレスと、アリシアの体質にもよるのだが。
「そ、そんな」
ゼヒ~ゼヒ~
アリシアが近くの椅子にへたり込んだ。
「さ、酸素呼吸器がいるんじゃないかっ」
「それならば、アリシアは俺がもらおう」
後ろから大きな声がした。
「あなたは、フェンリル辺境伯令息っ」
後ろから、180センチくらいの
全身、銀色の毛でフッサフサである。
何故か上半身裸で、肩からななめに大きな傷があった。
酸素呼吸器を片手にアリシアに近づく。
「お前、アリシアを殺す気かっ」
ハスキーが止めようとした。
「案ずるなっ」
「俺は十年間、世界を放浪し修行してきたっ」
「気功を使って、毛一本までコントロールできるっ!!」
「さらに、ここに来る前に五時間のトリミングをして来たっ」
全身ツヤッツヤである。
「第一階梯、究極魔法、”クリーン”」
フェンリルが、アリシアに
アリシアの周りで、毛が青白い炎を上げ燃え尽きる。
「そ、そんな、第一階梯の究極魔法っ」
「大賢者でも使いこなせないわっ」
宮廷魔術師でもあるペルシャが驚きの声を上げる。
「さ、アリシア」
フェンリルが鼻セレブのティッシュペーパーでアリシアの顔をきれいにした後、酸素吸入器を口に当てる。
アリシアを膝の上に乗せた。
「フェ、フェンリル?」
幼馴染の顔が近くにあった。
「そうだよ、アリシア、世界を旅してやっと見つけたんだ」
「受け入れてくれるかい、俺の愛を」
”医師の診断書無し”で使うことを。
周りに巨大な五重の魔法陣が展開される。
魔法の詠唱が始まった。
「アレジン~・ムヒ~・レスタミンコ~ワ・アイカフ~ン」
「禁断の抗アレルギー魔法っ、”コーヒ・スタ・ミンヤーク”」
カッ。
辺りが光に包まれた。
「目がかゆくないっ、鼻水も出ないっ、のども痛くないっ」
アリシアが、ゴーグルとマスクを投げ捨てた。
フェンリルに、にっこりと笑いかける。
「なっ」
「ああっ」
王太子を含めた周りの獣人が息を飲む。
テイマー侯爵家はビーストテイマーの名家。
その笑顔は、無差別に獣人を魅了する。
「さあ、十年前のようにして」
フェンリルがアリシアを膝から降ろしイスに座らせる。
アリシアにトリミング用の櫛を手渡した。
「もふもふ、してもいいのね?」
アリシアがフェンリルに聞く。
「そうだ、俺は君だけのものだ」
アリシアは、膝の上の置かれたフェンリルの顔を、愛おしそうにくしけずった。
とろけるようなフェンリルの顔。
獣人にとって抵抗はほぼ無理であろうアリシアの優雅で正確なトリミングの手つき。
その場にいる獣人は全て魅入られ、獣人女性に失神者が続出した。(←ペルシャも含む)
その後、フェンリルは、自領にアリシアを連れ帰り結婚。
アリシアは、フェンリルの魔法と辺境地の空気の良さ、王妃教育からの解放などから、毛アレルギーは改善された。
フェンリルに似た五つ子を産み、幸せに暮らしている。
ハスキーは王に、ペルシャは王妃になった。
ハスキーは名君として後の世に名をはせることとなる。
婚約破棄、もふもふしすぎた侯爵令嬢。 touhu・kinugosi @touhukinugosi
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