帝国歴532年。
美しき悪女ディリートは、断罪の炎に包まれて死んだ。
愛した男に裏切られ、家族に捨てられ、真実を語る声は誰にも届かず、すべてを燃やし尽くされて。
けれど彼女は、再び目を覚ました。
戻ったのは五年前。まだ、何もかもが壊れる前の時代。
政略結婚の駒として差し出された娘、
家族に影と呼ばれて生きてきた姉、
そして、帝国に偽りの皇帝を戴冠させた共犯者。
ディリートは、そのすべてに静かに微笑み、歩き始める。
これは――復讐劇ではない。
そう思わせるほどに、彼女の微笑は気高く、優雅で、そして冷たい。
毒と陰謀が渦巻く宮廷。
感情を見せない夫、公爵アシルとの邂逅。
甘く無垢な「主役」を自称する義妹。
そして、自らの死を仕組んだ皇帝と、その座を奪われた第一皇子。
運命を塗り替える第二の人生が、
美しくも冷ややかな笑みと共に幕を開ける。