第三章

 昔、私は世界で独りだった。


「八代ってさぁ……」


「八代さんさぁ……」


 まるで私に何かを言いたそうなのに、直接言う勇気もないもんだから、そういう言葉を遠回しに伝えてくる。そのほうが、自分は加害者になりにくいから当然か。嫌いな人を直接殴りにいかない。私の周りは、そんな人しかいなかった。


「ただいま……」


「この前のテストの成績、一番ではなかったようだな……」


 家に帰って待っているのは、おかえりの言葉ではなく、開口一番に成績云々の話だ。


「でも、なんとか一番になろうと頑張って……」


「結果がダメなら、その努力に意味なんてない……」


 父さんとまともに話す許可が与えられるのは、成績がいい時だけ。そうじゃなければ、口は聞いてはくれなかった。

 私の家系はみんな高学歴だった。昔兄さんに言われたけど、幸せになるためには頭が良くなければいけないという考えが強いんだという。確かに人生の選択肢は増えると思うから、言わんとすることも分かる。指導権を握るためにクラス委員になって、それに見合うためにさらに勉強もした。けど、その考えが強く根付いたが故に、私は今の辛い生活になってしまっていた……。

 私はクラスの生徒にあまりいい顔はされず、陰口はいつものように叩かれる。いい大学に行くために勉強をして成績が良くないと家族として見られない。そんなもんだから、私は世界の中で孤立していたのだ……。

だからこそ、私は望んだのかもしれない……。


 私にとって、都合のいい世界を……。




 私に能力が宿ったのは恐らくそのあとだった。最初は父親からだった。いつものように成績の話ばかりでまともな会話にならない親子の話につい愚痴をこぼしてしまったのだ。私はすぐに父親の表情を見た。きっと怒りに満ちた表情になっていると思っていた。だが、


「申し訳ございませんでした……」


「えっ?」


 父は、いつもの眉間にしわを寄せた表情とは打って変わり、やけに無表情になっていた。私は恐る恐る父に声をかけた。


「私に色々と指図するのをやめなさい。私の望む父親になりなさい」


 そのすぐあと、父は人が変わったようにやさしい父親になった。すごい……!これはすごい!

 学校では私のことが好きな人間であふれかえり、気が付いたころには、私はみんなに好かれる優等生になっていた。

 でも、すべてがそう簡単に上手くいくわけではなかった。ある日、一部の女子たちが私をわざわざ呼びつけて、詰め寄ってきた。


「私が何かしたの?」


「とぼけないでよ!なんであんたなんかがあの子と仲良くできんのよ!」


 その子はそう言って、私に殴りかかってきた。正直な話あまりにも理不尽だって怒りが込み上げてくる。その感情が体を支配したと思ったら、いつの間にか周りは赤色に染まっていた。


『えっ……』


 何が起こったのかがわからなかった。冷静になって自身の手元を見てみると、人のものではなくなっていた。一瞬恐怖を感じた、感じたと同時に少しずつ喜びに変わっていった。困ったときはこうして殺してしまえばいいんだ……。もう怖いものはない、これまで苦しめられた分、今度は私のための楽園を作り上げるんだ……。


 蜂型の怪物が、夜のビルにスタッと降り立つ。その姿は徐々に変化していき、人間の女性らしきシルエットがその景色を見下ろした。


「そうよ、私は誰からも愛されないといけないのよ……。だから、私のことを好きにならない人間なんて邪魔でしかないの……」




 青い人狼が、人気のない夜道に佇んでいた。その人狼の姿も、徐々に変化していっては人間の姿へと変化していった。

 そこに、その男を追いかけてきた園崎が駆けつけてくる。


「大我……、じゃないわよね?狼我?」


「あぁ……、お前か」


 狼我は、珍しく真剣な顔つきになっていた。狼我の表情を見た園崎は、意外だと感じると共に、思わず声をかける。


「何かあったの?もしかして、新人しんとってやつ?」


 それを聞いた狼我は、先程の真剣な表情を崩しては笑みを浮かべた。そして彼女に近づき、


「蜂を追いかけていただけだ……」


と言って、立ち去った……。




 翌朝のことだった。

 園崎が教室に入っていくと、やけにみんなが騒がしかった。ちょうど自分の席の辺りを見ると、先に教室に来ていた大我が、自身の席に座りながら窓の外を見つめていた。園崎は、自身の席に座ってから大我に問いかける。


「何?この騒ぎ……」


「行方不明になった子の噂だよ……。行方不明らしい……」


 園崎はそれを聞いて、昨日のことを思い出した。


「もしかして、やっぱり昨日……」


 その直後だった、急に大きな物音が教室に鳴り響いた。


「みんな落ち着いて!確証もない噂を信じても意味がないわ!今は確証を持てるまで待ちましょう。いたずらに噂を広めるのは、自分たちにとってもよくないわ……」


 そう叫んだのは、クラス委員の八代だった。彼女が叫んだ直後、先程まで騒がしかったクラスの生徒たちは一瞬にして静まり返った。


「ごめんなさい八代さん……」


「そうですよね!あまり騒がないように気を付けます!」


 その様子を見て、園崎はとても驚いた。


「へー、あの子って、案外こんな風に叫んだりするんだ……。ちょっと意外だったかも……」


 一方で、大我はやけに真剣な顔つきになり、


「臭う……」


と、一言だけ口にした……。




 時間が過ぎ、学校は昼休みになった。

 八代が教室で一人黙々と弁当箱を開けていると、そこに、園崎がやってきた。


「ねぇ、よかったら一緒に食べない?」


「園崎さん?どうして?」


「いやぁ……、なんというか、なんかいつも黙々とご飯食べてるの見かけてたし、なんか今日の感じを見て気になりだしたっていうか……」


 八代は疑問に思いながらも、


「いいわよ、ぜんぜん問題ないわ」


と、園崎と昼食を食べることとなった。


「どうしていつも一人なの?」


「どうしてって、別に意味はないわ。ただ一人が好きなだけよ」


「意外ね……」


「どうして?」


「いや、だいたいそんな人って、仲のいい友達とかと食べているイメージだったから。あっ、ごめん!偏見だよね……」


「ううん、そんなことないわ。でもそうね……、私みたいな人ってどうやら近寄りがたいイメージがあるみたいだし……」


 園崎は、それを聞いて何かぐさりとするものを感じた。


「うぅ……、実は私もそんな気があった……」


 八代は、園崎のそんな本音に近い言葉を聞いて疑問を感じ、彼女に問いかけた。


「それでも、どうして私なんかに?」


「いや、なんか朝のあなたを見て意外に思ったのよ……」


「イメージを悪くしたとか?」


「ううん、むしろ逆。なんというか、結構熱い人なんだなって思ってさ」


「私が、熱い?」


 園崎にそう言われてさらに疑問を感じる八代。園崎は、そんな八代をよそに語り続ける。


「実際、あんたがああしないとみんなが暴走してた可能性もあるわけじゃない?なかなかそういうのを注意できる人っていないと思うから……、正直憧れるのよ」


「そう……、私も意外だった」


「えっ?」


 八代の言葉に思わずそう反応する園崎。八代はそのまま話を続ける。


「やっぱりわからないものね、こうして話してみないと、人の気持ちなんて……」


 そう言うと、八代は空っぽになった弁当をかたずけた。


「すごく楽しかったわ。こんなに楽しい昼食は初めてだったかも……」


 そう言って、八代は席を外した。園崎は八代の背中を見て、


「また!一緒にご飯食べよう!」


と、言った。八代は振り向いて、


「えぇ、私も楽しみにしてるわ」


と言ったあと、再び振り向いて歩きだした。




「行方不明者?」


「はい、昨日の以外にも最近で誰かいなくなったとか聞いてませんか?」


 一方、大我は昼休みの間に、担任の教師に行方不明になった生徒のことについて聞いていた。担任の教師は小声で大我の耳元で語りはじめる。

 

「実は、ちょうど一年前にもあったんだよ。というのも昼休み中にどこかへ行ったのか分からないんだけど、三人くらいの女子生徒がそのまま教室に帰らなくなったんだ……」


 それを聞いた大我は、ある疑問を浮かべる。

 

「なぜあまり大事にならなかったんです?」

 

「それがまた奇妙な話でね、最初こそみんな気にしてたんだけど、次第に興味を示さなくなったんだよ……。おかしいだろ?自分たちの学校の生徒がいなくなったってのに……」

 

 そんな奇妙な話を聞いて、大我はあることを思いだす。

 

「最後になんですが、その子たちって八代さんのことをどう思っていたんですか?」

 



 夕方のホームルームが終わり、クラスのみんなが教室を退室しはじめた。

 

「今日は来ないって、どうしてよ?」

 

 園崎がそう言うと、大我は窓を見ながら語る。

 

「今日はやりたいことがあるんだ……」

 

「なにそれ……」

 

 園崎はそう言ったあと、疑問を浮かべながら部室へと向かっていった。

 園崎や周りの生徒がいなくなったのを確認した大我は、唯一教室に残っていた八代に近づき語りかけた。

 

「ようやくあの新人しんとの正体が分かった……」

 

 八代は笑みを浮かべる。

 

「何?その新人しんとって」

 

「今朝のホームルームの前、お前が一つ叫んだだけで周りの生徒が黙りだした。普通はクラス委員であるお前の言うこと聞いただけかもしれないが、やけにみんな素直に見えた。お前の能力なのか?あれは」

 

 大我の口調が変わっている。つまり、今は狼我が語りかけている。八代は狼我に問いかける。

 

「私を疑うのなら、他にも理由があるんでしょう?」

 

 狼我はそう言われ、ある名前を口にした。

 

「宮崎京香、中井佳奈、そして長谷川南……」

 

「それはみんな行方不明になった生徒たちね……」

 

「そして、お前を嫌っていた数少ない生徒たちでもあり、お前の能力の洗礼を受けなかった者たちだ……」

 

「……」

 

「昨日殺されたあの女は、調べたところ長谷川南だと分かった……。一応下手なりに情報を纏めてみた結果、お前があの新人じゃないかという疑いが強くなったというわけだ……」


 八代はそれを聞いて笑いだした。狼我はそれを見て、

 

「何がおかしい?」

 

と、彼女に言う。

 

「随分とおしゃべりが過ぎたわね狼さん?後ろを見てみなさい?」

 

 狼我はそれを聞いて咄嗟に振り向いた。すると、そこには三人の生徒が呆然と立っていた。

 

「彼を相手してあげて」

 

 八代がそう言った直後、生徒たちが一斉に狼我に向かって殴りかかってきた。それを回避した狼我は、自分へと迫り来る生徒たちから逃れるために教室から逃走しだした。だが、

 

「その人を止めて!」

 

と八代が叫んだ時、狼我の近くにいた別のクラスの生徒が彼の足を引っ掛けた。廊下に倒れた狼我は、すぐに立ち上がり周りを見渡した。すると、その辺にいる生徒たちが全員虚ろな目で狼我のことを見ていた。その生徒たちの中心に立ち、八代は言った。


「いらっしゃい……、私のユートピアへ……」

 

 そして彼女は、蜂型の新人しんとへとその姿を変えた……。

 



 一方、園崎は自分のクラスの近くでそんなことが起きていることも知らず、部室でのんびりとしていた。

 

「しっかし入部早々欠席とは驚いたなぁ!」

 

 美咲がそう愚痴をこぼす。

 

「前だって急に抜け出してたものね……」

 

 と、昨日の大我の行動を振り返りながら志乃は言う。だが、二人の話を聞きながらも、園崎は先程の大我の様子を思い浮かべていた。


(あの時、少しあいつの様子おかしかったかも……)


 昨夜の真剣な顔をした狼我の姿が浮かびあがる。はじめて会った際は、やけに偉そうな人格にも思えたが、案外戦っている時は、そうでもないのかもしれない。当然か、あっちはいつ命を落としてもおかしくはない状況で動いているのだから。

 

「でも、何か私に言ったっていいじゃない……」


 と、園崎は思わず口にした。

 すると、先程まで席に座っていた美咲と志乃がゆったりと立ち上がった。

 

「どうしたの?二人とも……」

 

「……」

 

 園崎が声をかけてもまったく反応しない二人。そして二人は、虚ろな目をしたまま、何かに導かれるかのように歩きだした。

 

「どうしたのよ……、いったい……」

 


 

 狼我は、数名の生徒たちに追い回されていた。

 

『しつこい男ね……』

 

 蜂型の新人となった八代は、狼我の様子を眺めながらそう言った。狼我は殴りかかってくる生徒たちをなんとか気絶させていた。

 

(加減はしてるが、いつ勢いあまってやってしまったら……!)


 そんなことを考えていた狼我に向かって、何者かの手が伸びる。

 

「っ!?」

 

 狼我はそれを回避して、その人物を見た。

 

「お、お前たちは……!?」

 

 そこには、虚ろな目で狼我を見つめる美咲と志乃の二人がいた。二人は再び狼我に襲いかかる。

 

「くそっ!あの女の友人にはさすがに手が出せん……!」

 

 狼我は二人から襲われるも、ただただ腕を前に構えながら耐えるだけだった。そんな光景を八代はほくそ笑みながら見つめていた。


『あらあら、偉そうな態度のわりには優しいんじゃないの?』


 八代の目線の先で、美咲が狼我を殴り飛ばした。狼我はゆっくりと立ち上がるが、息が上がっていた。そんな時だった。


「美咲……、志乃……」


 八代は、その聞き覚えのある声に反応した。彼女の目線の先にいたのは、部活仲間を追いかけてやってきた園崎だった。


『園崎さん……!』


 彼女が気をそらしていた時、美咲の拳が再度狼我に向かって伸び始めていた。園崎はそれを見て、とっさに動き出しては狼我の前に立った。その直後、美咲の拳が園崎の顔面に直撃し、園崎は床に倒れた。


『っ……!?』


 倒れる園崎を見て、八代は動揺した。狼我は思わず倒れた彼女に近寄る。


「おい!しっかりしろ!」


「んっ……」


 園崎はゆっくりとまぶたを開く。ぼやける視界の先には、蜂型の怪物の姿が映っていた。やがて、その視界がはっきりとしだしたとき、彼女は目先にいる怪物が変異したのを確認した。


「八代……さん……?」


 人間の姿に戻ってしまった彼女は、その場から足早と去っていった。


「まてっ!」


 狼我は彼女の姿を追いかけていった。周りの生徒たちや、美咲と志乃は、いったい何があったのかと疑問を浮かべていた。そんな中、園崎は二人を追いかけて駆け出した……。




 あたりは夜になっていた。

 八代と狼我は、昨夜のような人通りの少ない場所でにらみ合っていた。


「ここならあなたとやり合えるわね……」


 余裕のない笑みを浮かべる八代。狼我は真剣な顔つきで語りかける。


「どうしても、自分にとって邪魔な存在を消し続けるつもりなのか?」


「えぇ、それが私にとっての幸せなのよ……」


「なぜ園崎を見て動揺した?」


「……」


 黙り込む八代。狼我は続けて話しだす。


「もし彼女のことを思うなら、これ以上彼女を悲しませるな。今ならまだやり直せるはずだ……!」


「あんな人!……ただの赤の他人よ……」


「……そうか」


 二人はそれぞれ自身の意識を集中させる。狼我は青い体色をした人狼へと変貌し、八代は黒と黄色の体色の蜂のような姿に変貌していった。二人は互いに走り出し、それぞれの顔面に向かって拳を当てる。その拳が届いたと同時に、二人は後ろへと引いていき互いを睨みつける。八代は手に仕込められた針を矢のように放つが、狼我はそれを回避して、そのまま飛び上がっては爪を立てて振り下ろす。


『ぐっ……!』


 胸元にかすり傷がつく八代。八代は横から手を振り狼我に攻撃するが、狼我は体を逸らしながら回避していき、八代の腹部にまっすぐ蹴りを入れた。


『ぐあっ……!』


 片膝をついて座り込む八代。そんな八代に向かってゆっくりと狼我は近づいていく。八代は必死の抵抗で毒針を何発も放つも、狼我はそれをすべて払いのけ、とうとう座り込む八代の前に立った。


『終わりだ……』


 狼我は、とどめを刺すため手に力を入れた。そんな時、


「やめて!!」


高い声がその場に響いた。狼我は目を横に向け、そこに誰が来たのかを確かめた。


『お前……』


 その人物が、二人の間に入る。その人物は園崎だった。


「狼我、もういいでしょう!あとは私が説得するから……!」


『っ……!』


 戸惑う狼我、八代は彼女のその行動を見て、


『ほんと……、優しいのね……』


と口にし、彼女は右手を動かした。


『っ……!?どけ!!』


「えっ……」


 狼我は園崎を無理やり退けた。その直後、鈍い音が彼女の耳に届いた。園崎は、恐る恐る後ろを振り向いた。


『くっ……、かはっ……!?』


 血液がしたたり落ちる。それは、八代の腹部と、口元から流れていた……。


『……』


 狼我は何も言わず、伸ばした右腕を引き抜いた。八代はその場に倒れこみ、その姿を徐々に人間の姿に戻した……。


「八代さん!!」


 八代の元に駆け寄る園崎。八代は苦しそうな声で語り始める。


「あぁ……、そうだったんだ……。私の友達は、こんなに近くにいたんだ……。もっと……、早く、あなたに会えたら……、こんな力に頼らなくても……、良かったのかな……」


「私も、もっと早くあなたを知ろうとしてたら、あなたを助けられたのに……。何もかも、遅すぎた……」


 瞳から涙を流す園崎。そんな彼女の表情を見て、八代は微笑みながら語りだす。


「ほんと、優しい……。最後に友達になってくれて……、ありが……、とう……」


 彼女の命の火が消えた。園崎は彼女の亡骸に頭を埋めて大泣きした。狼我はそのまま何も言うことなく、その場から去っていった……。




 翌日、その日常に八代という少女の姿は消えていた。消えていたというのは、その場にいないというだけでなく、その存在がすでになかったことになっていたのである。狼我によれば、彼女の能力の副作用なんじゃないかというが、真意は不明であった。だが、彼女の能力の洗礼を受けていなかった人間たちは彼女の存在を覚えているらしい。それは、園崎も例外ではなかった。


「……」


 喪失感の中にいた園崎は、昨日まで彼女の席だったその場所を眺めていた。大我は、そんな彼女を後ろの席から心配そうに眺めていた。園崎は、そんな大我の様子を察して語りだした。


「わかってる、あんたは大我だから実際関係ない。ただ、ああしないと私が死んでたのも事実。狼我の判断だって正しかった、だから大我は胸を張っていいわ」


 その声は、明らかに元気さを失っていた。そんな彼女に対し、大我は語りかけた。


「寂しいん……、だよね?」


「えぇ……」


「ならせめて、彼女のことを忘れないでやってくれ……」


「え……?」


 いきなり大我の口調が変わったため、思わず後ろを振り向いた園崎。大我は、少しだけ眉間にしわを寄せた顔で語り続ける。


「あの少女のように、愛に不器用になり罪を犯してしまったが、最後の最後に、自分を本当に愛してくれた人に出会えた、そんな少女のことを、お前は忘れないでやってくれ……」


 そう言ったあと、大我はまた穏やかな顔になって言う。


「多分、狼我はそう言うと思うよ……」


 それを聞いた園崎は、少しだけ笑顔を取り戻し彼の机の上に弁当箱を置いた。


「これは?」


「あの子の代わり……、じゃないけど、今日食べ合おうと思っていたから。少し食べてあげて……」


「……うん」


 大我はそう返事をして、その弁当のご飯を食した……。



第三章[完]

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ROUGA-狼我- 粹-iki- @KomakiDai

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