エピローグ

「フェイ様、ルゥお姉さん、ご飯ができました。研究は終わりですよ!」


 ルゥの話し相手。僕の生活の補助。もしくは、研究の助手になれる。メルにはそういう部分を期待したつもりだった。

 実際には、僕とルゥの研究を止める役割を担ってしまっている。そりゃ、メルにはルゥの手伝いをこなせるように家事お手伝い性能を強めに付与した。だが、それはあくまでお手伝いの範疇に収めたはずだ。

 同時に、自主性を持つようにとは思っていたが、思っていた以上に家事の方面での成長が凄まじい。

 おかげで、僕の世話をする必要がなくなったルゥが、すっかり僕にそっくりになってしまった。弟子としては正しい姿だろう。

 だが、如何せん、メルが故障などでシャットダウンなどしようものなら、僕たちの生活は破綻するのではないか。それほどまでの研究馬鹿が二人になってしまって始末に負えない。

 ……自分のことであるけれど。


「メル、魔力を充填した魔石を準備してあるから、残りがあるうちに補充しておいてね。食事だから」

「分かりました」


 敬語は一向に砕けることはない。けれど、それは礼儀正しく命令を聞いているというよりも、ただの癖のように感じるようになっていた。

 これは僕が変化したのか。それとも、メルが変化したのか。定かではないが、慣れたことに変わりはない。

 メルに食事を示して、僕らも手を合わせる。


「フェイ、魔石難しい。属性の付与はどうやってる?」


 お互い研究に夢中になる癖ができたものだから、食事の時間がルゥの質問タイムになっていた。勉強熱心なのはいいことだし、僕も研究の話ができるのは面白い。師匠を除けば、そんな話に花を咲かせられる相手はいなかった。


「属性ひとつひとつの魔法は使えるようになったのか?」

「……一応」

「無詠唱で二秒以内に掛け替えできるくらい使いこなせるようにならないと付与は難しいって言っただろ」

「コツは?」

「ルゥは魔力の扱いは得意だろう?」

「サキュバスが淫夢を見せるために流動させるのと、魔法を使うために流動させるのは勝手が違う。フェイは簡単に言う」

「そんなこと言われても、サキュバスの流動なんて僕には分からないんだからしょうがないだろ? どう違うのか教えてくれ」

「そんな本能、教えようもない」

「今一番気になることはそれなんだけどな」

「じゃあ、フェイが調べてくれればいい」

「どうしろって?」

「淫蕩?」

「ろくでもないこと言わないでくれよ」


 ルゥも本気で言っていないし、僕も本気ではない。そうした冗談をなんてことのない態度でやり合うこともできるようになった。

 元々フランクではあったが、冗談を交わせるようになったのは成長だろう。ルゥがまたひとつ人間らしい態度になったのと、僕がまた深くルゥをルゥと認識できるようになったのと。二つの要素が掛け合わされたものだった。


「ところで、あの人たち来るんじゃないの?」

「……なんで来るんだろうなぁ」

「ボクのこと見張ってるんじゃない?」

「余計なお世話だよな」

「仲間が来てくれるのに嬉しくない?」

「相手をしなくちゃならないからね」

「研究馬鹿」

「君に言われたくはないな」


 僕とルゥの生活は順調だ。

 そして、何故だか彼女たちもうちに遊びに来るようになった。ルゥの言う通り、僕のことを心配してくれているんだろうけれど、だからってやって来て何をするわけでも、ルゥと仲を深めるわけでもない。

 僕らは苦笑を浮かべながら、フォークを動かして食事を続ける。


「フェイ」

「なんだ?」

「魔力、ボクも欲しい」

「分かった。後でな」


 僕の魔力がルゥの魔力になることも、その補給をしていることも変わらない。そして、その行為にもことごとく慣れてしまっていた。

 サキュバスと魔法使い。魔族と人間。その共生は悠々と続いていく。

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異種族師弟の密かな日常 めぐむ @megumu

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