最終話 魂が欠ける時
警察の事情聴取を終えたのは翌朝だった。
それから病院で勇太君と話せたのは午後になる。銃を使った事については経緯を話して打ち合わせをした。そして、磯崎とのやり取り、冠城さんが殺された件についても詳しく話を聞いた。
問題は紅美だ。勇太君からは何も話していなかったから、オレから冠城さんの事を伝えた。彼女は実感が持てないのか、ただ呆然としていた。
一週間後。
磯崎の供述通り遺体が発見され、歯科所見の結果、冠城さん本人と特定された。
冠城さんも私もすでに身寄りは居ない。なので、私が彼の身元引受人になった。安浦さんと共に霊安室へ行き対面する。
「車に火を付け、海に沈めたと言ってた。直接の死因は、司法解剖してみないと分からないそうだ」
もう、面影すらない。現実離れしすぎて理解出来なかった。どのくらい時間が経ったのか、安浦さんに来て欲しいと言われ、そこを後にする。
「お願いだから! 会わせてよ!」
受付の所へ行くと紅美が大きな声で叫んでいた。なぜ
「
「……会わせられない」
彼女は私に掴み掛かってきた。声にならない声で何か言っている。
「次に会えるのは、骨になってからだ」
「あ……いっ、や、ああぁぁーっ……」
声を上げ泣き崩れた。紅美の気持ちは痛いほど分かるから、オレは女に触れられない体質だが、強く抱き締めてやることしかできなかった。
後日、冠城さんの密葬を行う。
立場上、普段は顔を合わせない近藤さんと安浦さんが一緒に参列してくれた。少しは落ち着いた様子の紅美は、遺骨を引き取ると申し出た。
葬儀終了後。
「これ、冠城さんから」と、小さな紙袋を紅美に渡した。彼女は黙って中身を取り出し、目を潤ませながら手紙を読んでいる。
冠城さんの遺言になってしまった。万が一、帰ってこない時には、隠し金庫に入っている物を渡してほしいと、机の引き出しにあったあの封筒の中に手紙が入っていた。
「ねぇ、見て! 結婚指輪!」
笑ってるのか泣いてるのか、でも声は明るい。
「良かったな」素直に喜んでやった。
「
腕に付けた時計を見せる。
「冠城さんは
この腕時計は冠城さんが長年愛用していた。それも、世界で十本限定モデルだ。
「なっ!
キーキーうるさい女だ。
「ほら、勇太君の
紅美は冠城さんの骨箱を抱えると、文句を言いながらも後を付いてきた。
半年後——。
オレと紅美は魂をえぐられたように大きな存在を失った。だが、今では勇太君の存在が前向きになれる支えだと言っても過言ではない。紅美も勇太君から元気を貰っているし、三人で
それに、
魂が欠ける時 裏側編 伊桃 縁 @Ito_enishi
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