第8話 救出

 勇太君の位置情報を確認しながら向かっている。すると、反応が止まった。

 「頼む、間に合ってくれ」

 祈る様に車を走らせるが、また赤信号に捕まった。苛立ちが募るのを冷静になれと言い聞かせる。近くまで来ている、もう少しだ。

 「なっ」

 位置情報が動いた。どういうわけか、こちらへ向かってくる。

 交差点に目線を向けた。

 目の前を黒のミニバンが通り過ぎる。

 同時に位置情報も通り過ぎていった。

 「あれかっ!」

 信号が変わると同時に、アクセルを踏み込み無理やりハンドルを切った。クラクションがあちこちから聞こえるが、なりふり構ってられない。他の車と衝突しないよう回避し追跡する。


 首都高速一号を羽田方面に向かっていた。あくまで推測だが、磯崎が関わっている貿易会社が横浜埠頭にある。人目につかず都合が良い場所を考えると、その辺りの倉庫に向かっているのか。

 そして、予想通りの位置で移動が止まった。磯崎が所有する倉庫は把握しているので、見つからないよう離れた所に車を止め、再び安浦さんに電話を入れておいた。

 小走りで向かうと、倉庫の前に先程見かけたミニバンとベンツが止まっている。入口に見張りらしき二人。

 煙草に火をつけ、入口に向かってあえて堂々と歩いていく。気に入っているスリーピーススーツを汚したくない。一刻を争う。手短にいこう。

 私を知っているのか、茫然と並ぶ二人の男の目の前まで来た。

 「はい、こんばんわ」

 一瞬の不意打ち、両サイドから男達の頭同士をぶつけ気絶させた。冠城さんあのひとの得意技でもある。


 周囲を警戒し、注意深く倉庫の中に入っていく。明かりがある方へ慎重に近づくと、話し声が聞こえてきた。


 「紅美さんと桃源さんの、大切な人を返せ」

 勇太君の声だった。

 「あの三人ひとたちの未来を返せっ!」


 次の瞬間、彼は磯崎に殴りかかった。

 同時に周りにいた男達が襲い掛かる。だが、彼はそいつらを次々に蹴散らしていた。急いで飛び出すが、磯崎が起き上がり銃口を勇太君に向けようとしていた。


 「てめぇ、殺してやる!」


 まずい! 両腕でとっさに構える。

 磯崎の―—脳天冷静——狙え!


 パンッ―—


 銃を構えたまま、ゆっくり近付き他の男達の様子に目をやる。磯崎の所まで行くと、腕を抑え唸っていた。落ちていた銃を蹴っ飛ばし、ついでに磯崎ヤツを殴って気絶させといた。


 「勇太君、しっかりしろ!」

 「……冠城さん、あとはあなたの遺体が見つかれば……」

 「どういうことだ⁉」

 「磯崎が殺した……」


 今、何て言った?


 やがて、パトカーのサイレンが間近になった。


 「佐伯! 大丈夫か!」

 「安浦さん! 救急車をお願いします!」

 勇太君はすでに気を失っていた。

 「この子が、星月勇太か?」

 「そうです。彼は、磯崎が冠城さんを殺したとしました」

 「は⁉ どういう事だよ」

 安浦さんを見上げ、目からあふれるものを我慢させながら言った。

 「彼の事情聴取は、私を通してからにしてください」

 これで終わりではない。

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