王位継承・百合ハーレム・ダンジョン
「リオンちゃん、ジャガイモの皮はこう、包丁は上下に……イモの方を回すように……」
「あ、あァ……」
「リセー……形が揃わん……」
「ニンジンは大きすぎたり小さすぎなかったりしたら大丈夫だよ。食感に変化が出るからね」
「マスター、目……目が……!」
「あぁ、玉ねぎはね……。耐えて耐えて。目ぇこすったらもっとひどいよー」
「リセさん、オークのお肉切り終わりました。表面を焦がす感じで炒めますね」
「うん。お願いねアサナちゃん」
「リセェ、ジャガイモの形が揃わねェ……」
「一口分なら大丈夫だよ」
「リセー」
「はーい」
「マスター……」
「うんうん」
「リセさん、煮込み始めますね」
「うん。お願いね、アサナちゃん」
「リセェ」
「リセー」
「マスター……」
「エヘヘッ。パン、焼き始めますね……」
「リセさん」
「……、………………」
すっごい楽しい……!
え、みんなでする料理ってこんなに楽しいの? 酒場の店主のバリスさん、なんで教えてくれなかったんだ。
みんなが用意してくれた料理をバラバラと大鍋に突っ込んで、アクを取り下味を付けながら煮込んでいく。
鍋の調子が良くなったら、コンソメと牛乳を入れて、各種調味料で整えると、一品目、ホワイトシチューの完成だ。他のメニューができるまでしばらく放置すると、より具材に味が染みてよろしい。
「リオンちゃん、お肉切って味付けといたから焼いといてもらえる?」
「おォ」
「ベルさんは付け合わせの野菜をお願い。切って、固いものから順に茹でてって」
「あぁ」
「エクス、目は大丈夫? あー……。じゃあ、向こうでテーブル拭いて、椅子並べてきてくれるかな」
「……! うん!」
「イヴちゃん、ジャム作ってくれてるの? ありがとー! すごい助かる」
「ま、任せてッ、ください……!」
「アサナちゃん、ごめん。生クリームの泡立て終わってないんだ」
「えぇ。ケーキ、終わらせちゃいますね」
◆◆◆
「えー、へへ……。ではですね、大迷宮祭八位ということでですね、景品兼打ち上げってことで、不肖ボク、『赤の夕暮』ギルドマスターのリセ・ヴァーミリオンが挨拶いたしますね」
めっちゃ緊張する……身内なのに!
ラヴァンドラ陛下は大丈夫って言ってくれたけど、本当に大丈夫なのか、こんなことで。
「まず、今回の大躍進の立役者がですね、こちらマクスウェルとそのギルド『紫の波間』のみなさんですね。めっちゃ助かりました。今日も急なのに来てくれてありがとうね」
「礼をいうのはこっちだよ。親友とその仲間たちの大活躍を祝う機会をくれたんだからね」
「リセさんのメシが食えるならいつでもどこでも行きますよ」「あの、このシチューに……神ウェイトレスのお二人が手がけた材料が入ってるってマジっすか? 自慢しちゃお……」
神ウェイトレスって……なにやってたのこの子たち……。
「いつもお世話になってる先生です」
「やぁ、どうも。リセくんのかかりつけ医だ。特異な症例、格安で診るよ」
先生はアサナちゃんがあらかじめ声をかけてくれていた。本当に来てくれるとは思わなかったけど、嬉しい。
「えー、そんなわけでですね……。…………あと話したほうがいいことある? もういいよね? カンパーイ!」
号令すると、たちまち喧騒が貸切の酒場を埋め尽くした。
食事のメニューはホワイトシチューと焼きたてのパン、ローストしたオーク肉にダーツのカルパッチョ、根野菜のグラッセ。デザートのケーキは冷やしの工程に入っている。いい具合になるころには、料理も大体なくなっていることだろう。
「〜♪」
素晴らしいことに、ウタヒメグモのアリアさんが曲を弾いてくれている。
「ねぇマクスウェル、結婚はいつするの?」
「え? あぁ……はは……。落ち着いたら、な」
「春だねぇ」
「そういうリセはどうなんだ? よくわからんが、王位? とやらを得たんだろ? 結婚相手なんかも引く手数多なんじゃないのか?」
「ボクはまだいいかな……。ようやくギルドも軌道に乗ってきたことだし」
結婚、というワードで、ボクに刺さる視線が三つ。アサナちゃんは後見人だし、リオンちゃんとベルさんはギルドのメンバーだ。ボク一人お先に、というわけにはいかないだろう。だから圧を向けるのはやめてくれないかな。
「今度、経営のこととか聞きに行ってもいい?」
「あぁ。アリアさえいいって言ってくれればな」
「幸せ者めぇー!」
人が幸せになる話ほど幸せになる話はない。人間と魔物の婚姻に前例はないが、まぁ上手くいくだろう。
「ケーキはまだなのかい、リセくん」
こそこそと、実は大の甘党の先生が伺いにきた。
「いま冷やしてるから、もうちょっとだね。それまでにほら、シチューで体を温めて、しょっぱいもので甘さを感じやすくしよう」
「持ってきてくれよぉー」
「はいはい。そう言うと思って、もう頼んでるよ。ヤマトちゃん、こちら先生。変なのばかり診たがるから、いつもお世話になってるの。先生、こちらヤマトちゃん。インテリジェンスだよ」
「ヤマトだ。リセくんが世話になっているようで」
「これはどうもご丁寧に……。ん? んん? キミ、龍種なのか⁉︎ わ、わぁー……! 服も魔力で編んであるのかい? ふ、ふーん……」
先生のテンションの上がりようが凄まじい。こんなの初めてだ。
「ヤマトくん、リセくん。もしよければ、ワタシからヤマトくんに直接依頼を出したいのだが……いいかな?」
「いいの⁉︎ あっ、ヤマトちゃんはどう?」
「いいぞ。ただ、ヤマトはリセのギルドメンバーだ。一旦リセを通してくれるとありがたい」
「もちろんともさ! 握手しよ、握手……!」
とても珍しいものを見たな……。
先生はそのあと、ヤマトちゃんと一緒に『緑』の方へと雪崩れ込み、奇人変人トークに花を咲かせていた。呼んでよかった。
「わ。みんなめっちゃ食べるね……」
「あァ。自分たちで作ると、なんつーかな」
「料理が映えているようでな。おかしいことだろうか?」
「ぜんぜん! とっても素敵なことじゃん。ねぇねぇ、二人さえよければ、これからも一緒にご飯作らない?」
「いいのか? アタシら、今日リセやらアサナの嬢ちゃんやイヴにおんぶに抱っこだったぜ?」
「大いに結構。最初はみんなそうだったんだから。ね?」
「はっ、はい。最初なんてもう、ケガばっかりで……ヘヘ。二人とも、キッチンがは、初めてなのに、とても器用で……」
「イヴも映えていたがな。厨房の鬼がメニューを丸ごと任せるなど、ここの料理長が知ったら大騒ぎになるぞ」
え。ボクそんな扱いされてるの? 鬼って……?
「鬼ってなに? 鬼って」
「そうなんですか……? エッ、エヘヘッ、エヒへへへ……!」
イヴちゃんが照れのあまり笑い袋になってしまった。それに目をつけた笑い上戸の酔っ払いが連れ去っていく。……その輪の中心にいるのはエクスだ。なにやってんだあの子……。
「で。……どォだったよ。その、アタシらはさ、花嫁ェ……として」
「珍しく歯切れが悪いね、リオンちゃん。うん。なんにせよ一生懸命、好きな人のために頑張れるのは最高だよね」
「吾輩もか?」
「? うん。最高最高。……なに? 二人とも、気になる人とかできたの……?」
ボクだって人並みに恋バナには興味がある。下衆かもしれないが、しょうがないじゃないか。二人がこんなに聞いてほしそうにしてるのだから仕方ない。
しかし、なぁ。ウェイトレスのバイトで出会ったのかな。だとしたらよかったような、悔しいような。どんな相手なんだろうな。よっぽどの人じゃないとガツンと言ってやらないとな。
「…………」
「…………」
あれ。二人とも俯いちゃった。
耳まで真っ赤だ。言いたくない、というより、中々言い出せない、という具合か。
「……はぁ。リセさん、ドSですか? 鈍感ですか? ……まぁ、後者でしょうけど」
さっきまですごい勢いで、かつ上品に食べまくっていたアサナちゃんが、まったく呆れたというふうに肩をすくめる。
口元をハンカチで拭い、一度立って簡素ながらしっかりとした作りの高級ドレスの端まで整え、リオンちゃんとベルさんとで並んで席に着いた。
「いいですか、リセさん。王位継承戦の次は、当然恋愛争奪戦です」
「……ちょっと、ちょっと待ってアサナちゃん」
「私たちはもう十分待ったと思いますけど?」
「"たち"⁉︎」
ボクが聞き返すと、オーバーヒートしている二人が小さく、しかししっかりと何度も頷いた。
「…………」
ボクを真っ直ぐに見据えるアサナちゃんも、少し薄暗い酒場にあってわかりやすいくらい顔を赤らめている。
「……ボクとしてはその、もう少し冒険者でいたい、というか……」
「では、それまで待ちます。必ず私たちを選んでくれるのなら――ですけど」
「――――」
とんでもないことになってしまった。いや、なっていた。
「――ありがと。とりあえず今はその……絶対幸せにします、とだけ」
王位継承・百合ハーレム・ダンジョン 人藤 左 @kleft
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