第10話 賠償を求めるおっさん冒険者

 冒険者はその字の如く、冒険をする者を指している。

 冒険とは危ないことを押し切って行ったり、成功が約束されていない事をあえて行うことである。

 覚悟をしているからこそ冒険者は重宝され、薄氷を踏みながら辿り着いた成功は莫大な見返り。富と名誉を与えるべきである。


 畜産農家……グリフォン牧場のグリフォン達が取り押さえられたのだた冒険者達は、俯き依頼を受けた事を後悔していた。


 彼らが受けた依頼は、数日の宿代で消える程度の報酬で受けた調査依頼だが、大勢のグリフォンと戦闘になり、捕らえられ牢へ入れられていた。

 

「あんな数のグリフォンに勝てるわけないだろ……チクショウ」

「グリフォン一体の討伐依頼でももっと高額の報酬なのに、あんな数が生息している地域への調査は報酬とみあってないだろ、ギルドに戻ったらクレームを出してやる」

 大剣を折られ、右足を失った戦士の男性。

 刀を折られ両手首を落とされた剣士の少年。

 衝撃により内蔵に大きなダメージを受け、脂汗を流しながら自分を回復している回復職の少女。

 杖を折られ片腕を肩から落とされ、茫然とした魔法使いの女性。



「お前がもう少し早くカバーしていれば」

「お前がもっと早く倒せていれば」

「苦しい、支援職を守るのがあんた達の仕事でしょう」

「私の腕が……これじゃあもう魔法使いとしては引退するしか……」


 罵り合ったり、痛みに泣き叫ぶ牢へ、一人の男が現れた。


 平凡そうな神官帽をかぶったアラフォーのおっさんに見えた。

 あまり強そうではないが、彼らは助けにきた冒険者だろうか。

「おい、こっちだ。助けてくれ……魔物達に捕まってしまったんだ」


 早く助けろよ、この愚図が!言葉にする事はなかったが、悠長に歩いてくる男に戦士は舌打ちした。


 一歩。

 また一歩。

 おっさん冒険者が近づくごとに、これは違うと冒険者達は感じた。

 膨大な漏れ出す魔力、種族が違うほどの濃厚な魔力。

 

「酷い状態だな……」

 そして男が手をかざすと、冒険者達の欠損部位が一瞬のうちに癒される。

 戦士の男性の足が再生し、剣士の少年の手首が再生した。

 回復職の少女の苦しさはなくなり、魔法使いの女性の片腕が再生した。


 そして痛みがなくなり、ありえないレベルの回復魔法を見せられた冒険者達は、目の前の男へ感謝の言葉もなくじっと見つめる。


「死んでいたらどうしようと思ったよ」

 ありえないレベルの回復魔法。

 離れていてもわかる膨大な魔力。

 そして魔物達の匂いを滲ませた男は、そういって安堵した。


「魔王様、なぜこいつらを回復したんですか」

「グリフォンの牧場を襲った犯罪者ではありませんか」

 不愉快そうに言う魔物に、ディアは首を傾げた。

「牛の代金を払ってもらわないといけないだろう?」

 こいつらに任せておくと恨みから、喧嘩をふっかけるような条件を出すだろ……、とディアは考え

「グリフォン達の怪我は全て癒え、被害は牛だけだろう?ならばこのくらいの額が妥当だろう……」


 数日後……冒険者がギルドマスターに魔王(ディア)の手紙を手渡した。

「グリフォン達が育てている牛が殺されたので賠償金としてアーリ王国金貨で千枚……!?」

 アーリ王国。数千年前に栄えていたこの大陸の金貨である。

 出土が少ないため、現存する金貨は二千枚あるかどうか。

 歴史的な価値も含め一枚あたり今の金貨価値に直して千枚程度の値がついている。


 単純に買い集めたとしても金貨百万枚、それは国家予算数年分にもなる額だ。

 歴史的な価値のある国中の金貨を全て、国家予算数年分を使って差し出す。

 そんな判断が一介のギルドマスターに判断できる訳がない。

 勿論王にもそんな判断ができるわけがないだろう。

「……国を差し出せと言うのと同じだな、戦線布告だろうな」


 数千年生きたディアの金銭感覚は狂っていた。


 ディアは単純に、物々交換が主流で貨幣の価値があまりない時代に生まれ。

 金山が次々と発見され、低い価値で扱われていた時代に育ち。

 畜産が盛んでなく、一頭の牛に高い価値があった時代を生きてきた。


 自分が人として生きていた頃……数千年前の相場を提示しただけだったのだが。


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魔物(けいけんち)を育てたら魔王様と呼ばれるようになっていた 可空幼虫 @hoshinajimi

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