第9話 魔物(けいけんち)を守るおっさん冒険者
「言葉を解する魔物?」
「はい、どうやら数百年前に使われていた旧大陸語を使って会話しているようなのですが、意味が解らず……」
「馬鹿な、そんなのが居たら広まらないはずがあるまい」
大陸の王は、怪訝そうに大臣を見てお固い大臣のジョークに笑うが、真顔の大臣は首をふる。
「冗談ではありません、本当なのです」
魔物が喋る。どんなファンタジーだ、と王は肘をつき手に顎を乗せる。
「だが被害は無いのだろう?」
言葉を解する魔物に村が壊滅された、というのであればすぐに知らせが来るだろう。
「ええ、基本的に彼らは魔の森の奥から出てくることはありませんからな」
「出てくることがないなら嘘ではないのか?」
「田舎の農村の者達が物々交換をしているそうですね、農村側に有利だと」
有利?と首を傾げる王に、大臣が続ける。
「例えば吸血鬼などは食料を代価として、ヒトの血液を買い取ってくれるそうです。どうやら嗜好品らしく、獣の血でも良いがヒトの血液が格別に美味しいと」
「血を吸われて殺されているものはおらぬのか?」
一人もいないそうです、と大臣は資料を持ち上げる。
「刃物で指先を切り入れ物にいれる。200mlくらいの量で小麦を5kgほどくれるらしいですな。それも記録を取り、一回交換すると三ヶ月は買い取れないと拒否されるらしいです」
「……ヒトの健康に被害が出ぬよう気を使っておるのだな」
「他には、農作物の種や農具を持ち込めば、鉱石や宝石、魔物素材と交換したりできるようです。いずれも農具の価値よりも高く買い取ってくれるらしいですな」
ふむ、と王はヒゲを撫でる。
「なら、何が問題なのだ?」
「問題、というわけではありませんが。魔の森とはいえ、我が領地。美しい人型の魔物もおりますし、労働力になりそうな人よりも力の強い魔物もおります。人型ではなくとも、素材が頑丈であったり薬効を持ったりして有用な魔物も……」
重い荷を片手で軽々と持てる、指示を理解する魔物。
人の言いなりになる美しい人型の魔物。
素材として価値がある魔物。
そこまで聞いて、王は言いたいことが解った。
金鉱があるが、掘りますか?というような物だ。
「魔王様……ヒトの国に我が国のグリフォン牧場が襲われたそうです」
美しい容姿の……品種改良により生まれたより人に近いオークの女性が資料を手にしていた。
「グリフォン牧場か……」
グリフォンを畜産で増やして狩る事で経験値、肉、素材を手に入れようと数百年前に指示をしたものだが、ディアはすっかり忘れていた。
経験値……宗教的に、各魔物が死ぬ前にディアにとどめをさして貰いにくるため、経験値は特に必要なくなっていた。
肉……魔物達が労働して魔物よりもおいしい家畜を育ててくれるため、食べるために魔物を狩る必要がない。
素材……生きていく中で死んだ素材がそのまま手に入るため、特に戦う必要もなかった。
グリフォン牧場か。
育てていたグリフォンが襲われたのか、とディアは続きを促す。
「そこから先は、牧場主、および被害にあった畜産農家に来ていただいております。お会いしていただけますか?」
「うむ」
ディアが頷くと三匹の怪我をしたグリフォンがディアの前に飛んできた。
「魔王様、我々グリフォン族の畜産農家が襲われました。申し訳ありません、我々は軽傷で済んだそうですが、育てた牛が二匹盗まれてしまいました」
……グリフォン牧場を作れと言ったが、グリフォンが畜産をする牧場の事だったんだな。羽でどうやって牛の世話をしているんだよ、と思いながらディアは怪我をしたグリフォン達を回復させる。
「おお、魔王様……ありがとうございます」
怪我を治してもらったグリフォン達はボロボロと涙を流し平伏しディアに頭を下げた。
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