第8話 魔物(けいけんち)を大事にするおっさん冒険者

『意思疎通』

『不老』

 老ゴブリンから貰ったスキルはこの二つだけだった。

「スキルを手に入れたのがやはり大きいな」

 そう言ってディアは老ゴブリンに感謝する。


 意思疎通のスキルにより、魔物達と話ができる。

 言語を持たない魔物もディアを通して意思疎通ができるようになった。

 例えばグリフォンは言語を持たない。

 巨大な体躯と力があっても、背を取られると弱点の翼がもがれるかもしれない。

 ゆえにグリフォンは背に何も乗せることはない。


 人でも意志が通じない生き物には恐怖を覚え攻撃的になる。オオスズメバチが針を剥き、貴方の瞼に止まったらどうか。8割の人が振り落とすか手で払おうとするに違いない。


 もし会話ができるオオスズメバチが

『なんだか瞼の内側がゴロゴロしない?炎症をおこしてるよ。刺さないからちょっと見せてくれる?』

 という意志を感じて瞼に止まったのなら、振り払うまでのことはしないのではないだろうか。


 人は言語を用いて意志を伝え、農耕を発展させた。世界中で農作物を作る生き物はヒト、もしくはヒトに近い亜人だけだった。

 種籾を植えても掘り起こされ喰われる。

 なら種籾を食べる方がいい。

 意思疎通を持たない魔物は、常に生存競争にさらされてきた。意思疎通ができない種族とは敵対するしかなかった。


 それをディアは意思疎通スキルにより『そこの食べ物は取っちゃだめだよ』『背に乗せてね』『それ毒あるから食べられないよ』と意思疎通をはかることにより魔物(けいけんち)を効率的に統率していく。


 不老により老衰で死ぬことがなくなったディアは魔物達(けいけんち)を増やし、収穫し続ける。


 そして時は流れる。

 百年、また百年。

 百年、また百年。

 寿命が千年を超える魔物の子、孫を寿命まで育てて看取った。


 魔物の集落に新しくやってきた不老不死の人間?がいる。

 魔物の友として相談に乗ってくれる

 魔物の父として進むべき道を導いてくれる

 魔物の母として慈愛を持ち魔物を癒やしてくれる

 魔物の統率者(リーダー)として、平和な魔物の世を作ろうと尽力している。


 噂が噂を呼び、魔物達の集落はどんどんと規模を大きくしていく。やがて国にも匹敵するような魔物が集まったとき。魔物達、魔族達は、その人間の男……ディア……に対して、王様と呼ばれるようになっていた。

 魔物の王。

 魔族の王。


 ディアは『魔王』と呼ばれるようになっていた。


「王様、オークのオーガン爺がもう長くなく、魔王様により魂の解放を望むそうです」

「解った、すぐ行く」


 長く生きるほど魔物は経験値を溜め込んていく。

 生存競争で淘汰されるはずの老いた魔物でも、ディアによる農畜産業の発展により食糧を得られない事はなくなった。

 農畜産業の発展により、魔物同士で狩り合う事はなくなった。


 できる限り長生きして経験値を貯めてもらい、老衰死直前や、癒せない病気の魔物を儀式としてお祈りをしながら倒す。

「ぉぉ……魔王様、ありがとうございます」

オーガン爺へ麻酔魔法(麻痺)をかけ、防御力無視のナイフを核へと突き刺していく。

「オーガン爺の魂が安らかにあらんことを」


 ディアのレベルがどんどん上がっていく。

 老オークが溜め込んでいた経験値は若い青年ドラゴンと同等ほどに高まっていた。


「次はハーピィの長老です、魔王様……」

 ディアは魔物と争うことなく、環境を整えて長く生きてもらい、希望する魔物にのみ安楽死(麻痺+防御力無視のナイフで核を一突き)を行っていた。


 ディア

 種族、ヒト

 職業、神官(魔王)

 レベル 32FF 165E FFF5 0E42


「8バイト16進数表記にもなれてきたな……」

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