「正しい紙の切り方」の感想文

バルバルさん

正しい紙の切り方 は 少女を呪いから守る少年の物語

 今回、私が読ませていただいたのは「正しい紙の切り方」という本です。


 この本を手に取った理由としては、題名が小説らしくないという点が興味をまず引き、次に、ハサミを持ってたたずむ、表紙の少女に何か惹かれるものがあったからです。


 この本、作者は「東西南北」と書いて、「あずませいなんぼく」と読むらしく、この本を読むまで、私は恥ずかしながら知らなかった作家なのですが、読んだ今なら、自身を持って他の著書も手に取りたいと思えます。


 さて、この作品で最も気に入った点は主人公の「俺」こと関君の行動。それ一つ一つが、初見時と二週目、というか、最後の章を読んだ後にもう一回一章から三章まで読むと、全く違って見えてきます。


 特に、ヒロイン的存在の「奏」ちゃんが一章で、自分宛ての手紙をハサミで切ろうとするシーン。その場面で関君は止めるどころか、切り刻まれた後の手紙を集め、彼女に隠れて燃やしています。


 このように、関君は、物語上で奏ちゃんが切った紙類を、燃やす、水に流す、果ては飲みこむといったように、原形が無くなるくらいに処分しています。


 その理由が最終章で判明するのですが、それがとても意外。かつなんだか納得できるな。という物でした。


 突然ですが、私は呪いなどは信じる性格です。こんなことをするとダメだな、あれをするとダメだな。といった程度に、罰という物を恐れています。


 そして、それは関君もそうでした。いや、私のように、現実に存在しないものを恐れているのではなく、本当に、彼は恐れていたのです。紙に宿った、何かの罰を。


 奏ちゃんが最終章まで切っていたもの。その中には、いろんな思い、想い、呪いが隠れていました。彼は、それを彼女に向けたくなくて、あんな行動をしていた。


 正直、事実を書くだけなら簡単です。だけど、この作品は物語の端々に、「呪い」や「罰」によって破滅した人の様子もちりばめられていたり、関君の真っ直ぐな思い、奏ちゃんの秘めている闇が繊細に書かれていて、読んでいて心が洗われる場面、心を突き刺す場面が繰り返しきて、読んでいて、感情の飽きがきません。


 さて、そんな「正しい紙の切り方」で唯一、私が気に入らないのは、ラスト。奏ちゃんと関君が別れてしまう点です。詳しくは書きませんが、あんな別れ方は、関君が報われなさすぎる。


 と、同時に。でも、奏ちゃんを救えた関君の心は、満足していたのだろうと思うと、悔しいですが納得してしまいます。


 そんな「正しい紙の切り方」。私は自身を込めてお勧めさせていただきます。

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