猫の坂道

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　あのね、ネコ。

　わたし、友だちができたの。

　猫じゃないよ、人間。

　この街にきて、わかったことが三つある。

　一つ目は、水平線の見えない海がとてもキレイだってこと。

　二つ目は、わたしの暮らすこの場所が猫の街って呼ばれている理由。

　三つ目は、あなたと過ごした坂道が大好きだってこと。

　わたしの大切な、友だちの話をしてもいい？

　この街でできた、わたしの二番目の友だち。

　ツインテールがよく似合う、なぎさちゃんって名前の女の子だよ。

　学校の子とケンカした話したでしょ、その時の子なんだけどね。仲直りしたあとに、友だちになったの。

　お詫びにってプレゼントしてくれたクッキーが猫の形しててね、わたしが猫好きなの知ってたの？　って聞いたらなぎさちゃん不思議そうな顔して。

　ここは猫の街でしょ、って言われた。

　ここで暮らす人たちも、絶景を眺めたいと訪れる観光客も、みんなこの街が大好きなんだね。

　ネコもそうだったんでしょ？

　そういえば、名前で呼んだことなかったよね？

　ネコの名前、ネコにしたから。そのままだけど、いい名前でしょ？

　名前、一度も呼んであげれなかったね、ごめんね。

　いま「ネコ」って呼んでみたけど、聞こえた？　天国に言葉を届けるにはどうしたらいいかな？

　手紙を書いてるけど、これ、どこに出せばいいかな？

　明日、坂道で声に出して呼んでみるけど、ちょっと恥ずかしいな。

　わたしずっと「こんな街、大嫌い」って叫んでたよね。

　あれ取り消してもいい？　取り消せるかな？

　聞いていてね。

　坂道を登って海を見下ろして、もう一度叫ぶよ。

　天国にいるあなたへ声が届くように。

　あのね、ネコ。

　わたし、あなたと友だちになれてよかった。

　水平線の見えない海も、

　猫の街と呼ばれているこの場所と、

　あなたと出会えた猫の坂道が、

　わたしは大好きです。