繋いだ手の温もり


 目を覚ますと、病院のベッドの上だった。

 ベッド脇にいた母は感極まったようにわたしを抱きしめたが、しばらくして怒り出した。

 あんな場所でなにやってたの、と言われて思い出したのは猫のこと。

 坂道でわたしは、大切な友だちの無事を祈った。

 その途中で力尽きて倒れた……のかもしれない。


 道路にうつ伏せているわたしを見つけてくれてのは、あのなぎさちゃんだった。

 どうしてそこに居たのかと言うと、わたしの家に向かう途中だったらしい。


「ハンカチ、ロッカーの中にあったの、ごめんなさい」


 病院のベットで空を見上げるわたしになぎさちゃんが深く頭を下げた。

 病室にはわたしとなぎさちゃんのお母さんがそれぞれいて、「うちの子が」「いやいや、うちの子が」と互いにぺこぺこ謝っていた。


「いいよ、そんなこと。別に、いいよ」


 飛行機雲を見つめながら、その向こうにある天国のことを考えた。

 大人は嘘つきだ。

 わたしは悪くないのに、お母さんは謝ってる。

 動物のお医者さんは、白猫を助けてくれなかった。


 大嫌い、こんなとこ……やっぱり、大嫌い。


「ありがとう」


 なぎさちゃんの声が聞こえた。

 振り返ると、ぽろぽろと涙を流すなぎさちゃんがわたしを見ていた。


「ありがとう、ごめんなさい……ありがとう、あかりちゃん」


 名前で呼んでいいよ、なんて言っていない。

 泣いてもいいよとも言っていない。さっきまで泣いていなかったくせに、『ごめんなさい』の時は泣かなかったくせにどうして、『ありがとう』では泣くの?


「わたしも……ハンカチ投げて、ごめんなさい」


 涙が溢れた。

 あっ、悔しい……そう思うのに止まらなくて、ボタボタとシーツを濡らした。


 彼女は『ありがとう』で涙を流すのに、どうしてわたしは『ごめんなさい』で泣いてしまうんだろう。


 仲直りの握手として繋いだなぎさちゃんの手がとても温かくて、この子みたいになりたいと思った。

 この子のことを知りたい、友だちになりたいと……。

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