ネコ



 動物病院に連れて行くと、君の猫かと聞かれた。


「わたしのじゃないけど……友だちです」


 お医者さんは目を伏せて、「もともと病気を持っていたみたいだ」と言った。

 だからもう助からないよ、と。

 

 その言葉が信じれなくて暴れ回るわたしを、看護師さんが取り押さえた。

 困ったように顎を触るお医者さんが、「わかった、頑張ってみるよ」と言ってくれた。

 お礼の言葉を言って、白猫を預けたわたしは病院を飛び出してあの坂道へ向かった。

 いつもの帰り道、白猫と話をしていた大切な、特別な場所。

 そこで叫ぶんだ、さっきの言葉を取り消してくださいって。それで山の上の神社に行って、お参りして……。

 謝るから、ごめんなさいをちゃんと言うから。


 だからどうか、消えないで。


 なくならないで、死なないで。


 あの白猫を、大切な友だちを、わたしから奪わないで。





 息が苦しい、喉の奥で血の味がする。足の裏が痛い、血管が切れそう。

 一段飛ばしで階段を登って、坂道を駆け登って、塀のある場所へ向かった。

 水平線の見えない海が見えるあの場所で、本土と島を結ぶ橋を見下ろして、丘の上から叫ぶんだ。


『わたしはこの街が大好きです』、って。


 この街が嫌いだなんて、言うんじゃなかった。

 わたしの言葉を隣で聞いていた白猫は、あなたは、どんな気持ちで海を眺めていたのだろう。

 あなたの生まれ育った街を、毎日眺めていた空と海を、島の緑を。


 わたしはずっと、酷い言葉で傷つけていた。


 景色を眺めてみればよかった、あなたみたいに。

 静かに移りゆく海の色を眺めて、通り過ぎる船に思いを馳せて、夕日色に染まる街を猫の坂道から見下ろして。

 そうして二人で、穏やかな時間を過ごせばよかった。



 ごめんね、ネコ。

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