学校と友だち


 翌日、最悪な事件が起きた。


「そのハンカチ、なぎさちゃんのだよね?」


 教室の隅でざわざわしていた女の子達の視線がいっせいに、わたしに向けられる。


「……え?」

「なぎさちゃんが無くしたハンカチと同じ柄なの、それ」


 簡単に説明すると、なぎさちゃんとやらのハンカチが無くなったらしい。大好きな従兄からもらったもので、ずっと探してたって。

 それは今日わたしが持ってきたハンカチと同じ柄だから、なぎさちゃんのじゃないか、盗ったんだろう、と。


「ちょ……ちょっと待ってよ」


 わたしがよそ者だからって、こんなイジワルは酷すぎない?

 言っておくけどこれは正真正銘、わたしのハンカチだ。名前書くの忘れてたけど、本当にわたしの物で……。


「酷いよ、なぎさちゃんに返しなよ」


 正直に言っても信じてもらえなくて、「先生に言うからね!」と言われてカッとなった。

 持っていたハンカチを、なぎさちゃんに投げつける。


「いいよ、そんなの! いらない! わたしのハンカチだけどね、それ。欲しいならあげる!」


 目尻に涙が溢れたので、ランドセルを背負って教室を飛び出した。

 酷いとか最低とかの言葉が聞こえたけど、酷いのはどっちよ。

 わたしは悪くない、悪くない……。





「ねぇ、そう思うよね⁉︎」


 いつもの坂道、塀の上に白猫はいた。

 唾を吐くように問いかけると、白猫はゆっくりと瞬きを二つした。


「酷いよ……こんな街大嫌い、大嫌いなくなっちゃえばいいのに、みんな消えてなくなればいいのに」


 海に向かって叫ぶと、背後でドサっと大きな音がした。

 なんだろうと思って振り返ると、塀の上の白猫がいなくなっていた。その身体はわたしの足元に、重い荷物のように転がっている。


「うそ、落ちたの? ねぇ、大丈夫?」


 身体を揺らすと、白猫は「ぐぅ」と妙な声を出した。


「お医者さん……お医者さんのとこ、連れてってあげる!」


 猫を抱えて坂道を下る。

 ふわふわの毛並み、ドクンドクンと脈打つ白猫の身体はとても温かくて、急がなきゃと思った。


 急いで助けなきゃ……!

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