正しい正月ゴミの出し方

改淀川大新(旧筆名: 淀川 大 )

木星のとある町内のゴミ捨て場の朝

『みなさーん、おはようございます。今日は、お正月ゴミ一斉回収の日でございます。いつもと違って全種類のゴミを本日まとめて回収しますので、可燃ゴミ、不燃ゴミ、ペットボトル、プラ、再生紙、不要金属ゴミなど、しっかり分別して出してくださいね』


「あ、タツノオトシ子さん、おはようございます」


「あら、ウッキーさんの所のサッキーさん、おはようございます。嫌だ、違うわね。明けましておめでとうございます。本年もよろしくお願いします」


「そうでした。明けましておめでとうございます。本年もよろしくお願いします」


「サッキーさんは兎で、今年は干支番だから、色々と忙しくなって大変ね。お正月も忙しかったでしょ」


「まあ、大晦日から元日にかけては、地球の父と土星の義母と共に冥王星まで温泉旅行に行きましたから、ゆっくり出来ました。でも、二日と三日はフル稼働で、正直、疲れました」


「でしょうねえ。ウチは来年だから、どうなるか心配で。ほら、私、ご覧の通り小柄でしょ。同じ辰でも、ブルース区長さんみたいに太くて長い体じゃないし、宇宙連邦の拳闘局長でしたっけ、元アクションスターのラングレンさん、あの方みたく羽のある体で炎が吐ける訳でもないじゃない。できる事って言ったら、このお口の拡声器を使ってアナウンスするくらいしかないのよね。どうしたらいいのかしら」


「そんな。タツノさんは毎回、年賀状とか切手の絵柄に起用されているじゃないですか。立派ですよ。それに、こうしてゴミ捨て場で皆さんに案内してくれて、助かっていますし。ホントにありがとうございます」


「あら、嫌ねえ。そんな仰々しく……オホホホ」


「あ、トリッキーさん、おは……明けましておめでとうございます。本年もよろしくお願いします」


「ああ、ウッキーのとこのサッキーさん、おめでと。今年もよろしく」


「どうされました。随分とお疲れですね」


「疲れたよ。これ見てよ」


「あれ? 鶏冠とさかがなくなってません? どうされたのですか?」


「どうもこうもないよ。ウチの西隣のモンキーノさんに取られちゃって」


「ええ! ひどい。でも、どうして」


「いつものやつだよ。東隣のイヌヤマさんと喧嘩さ。どっちもお酒が入っていたみたいだったから、止めない訳にもいかなくてね……」


「それでトリッキーさんがを食らったんですか……お気の毒に。病院には行かれたのですか」


「行ったさ。正月早々、救急ホバーで搬送されて。そしたらさ、船内で体中に何だか変な粉を掛けられてさ、カーネルサンダース財団の衛星病院に運びますって救急隊員の方が言うものだから、これはマズいと思って、すぐに降ろしてもらって、近くの病院に飛び込んだんだけど、そこがまた鶴専門で、看護師さんが皆機織はたおりばかりしているものだから……」


「それは災難でしたね。トリッキーさんはクリスマスから気が休まらない日が続いてましたものね。少しお痩せになられたんじゃないですか」


「え! どういう意味? サッキーさんまで、そんな目で僕を見るのかい! サッキーさんは兎だから草食主義者だと信じてたのに、それじゃ、トラカワさんと同じじゃないか! なんか僕のことをジーと見つめて……」


「そんな、私は別に……ああ、トリッキーさん……ああ、行っちゃった」


「気にしなさんな。この時期の彼は精神的に不安定なのよ」


「あ、ウマモトさん。おめで……」


「新年のあいさつは昨日したじゃないの。もう、トリッキーさんたら、ゴミも放り置いたままで。仕方ないわね、ヒヒン」


「でも、ちゃんとした病院とか行かなくて大丈夫なんですかね」


「大丈夫よ。あの鶏冠とさか、ヅラだから」


「ヅラ? 作り物の鶏冠だったんですか?」


「そうよ。ああ、サッキーさんは背が低いから見えなかったでしょうけど、私からは丸見え。ハゲてるのよ。だからサブスクか何かで日替わり鶏冠を頭に載せているみたいよ。夜中に随分と派手な色の鶏冠を付けて帰ってくるもの。黄色とかグリーンとか。いい歳して夜遊びなんかしているから、早起きできないのよね。鶏が昼に鳴いてどうするのよね、まったく」


「そうなんですか……。知りませんでした」


「あら、タツノオトシ子さんも頑張っているわね。あんなに小さな体でみんなに指示して。トリッキーさんも見習えばいいのにね」


「今朝からずっと、お口の拡声器で叫んでいますからね。喉を傷められなければいいですけど」


「塩水で鍛えた喉でしょうから、大丈夫でしょ。それより、サッキーさんはお正月のゴミはそれだけ? 随分と少ないわね」


「ああ、いえ。主人と子供たちが残りは持ってきてくれることになってるんですけど……何してるのかしら……」


「まあ。ウッキーさんとお子さんたちまで手伝ってくれるの? うらやましいわねえ。耳のあかせんじてウチの旦那に飲ませてやりたいわ」


「耳はちゃんと洗ってますよ」


「ああ、そうね。ごめんなさい。でもね、ウチのバカ馬ときたら、なーんにもしないのよ。それじゃ、馬鹿じゃなくて馬馬でしょ、もう。ヒヒン」


「たしか、ウマモトさんのご主人は、定年退職される前は立派なお馬さんでいらしたのですよね。地球のロンドンで騎兵隊にお勤めしていらしたとか」


「そうなの。若い頃はカッコ良かったのだけどねえ。今ときたら……」


「そんな事ないですよ。足もスラっと長いですし。素敵です」


「ありがと。伝えてくわ。鼻息鳴らして喜ぶと思うわよ。それより、来たわよ。ほら、そこの塀の日陰の所」


「あ、ヘビカワさんところのミーちゃん。元気だったんだ。若い子はいいですね、お肌も艶々で」


「脱皮しただけよ。証券会社でOLさんをしてるらしいけど、気取っちゃって」


「別にいいじゃないですか。そう見えるだけですよ」


「そうかしら。男の目を引こうと思ってるのよ。体をクネクネさせて。ミーちゃんのことはタツノオトシ子さんも良く思ってないと思うわよ」


「どうしてですか」


「干支番が来たときは、いつも中華龍さんたちの御下がりで済ませようとするでしょ。衣装とか。手足取って、着て、頭出すだけだもの。要領がいいのよねえ。あれはきっと、会社でも長い物に巻かれるタイプね」


「自分が長い物ですけどね。でも悪い子じゃないですよ。頭も良くて、呑み込みが早い子だって、ウチのウッキーが……」


「気を付けないと、あんたも丸呑みされちゃうわよ」


「私は大丈夫ですよ。兎キックを鍛えてますから。こうやって、後ろ脚で、シュッ、シュッって」


「ママ、なにやってるの?」


「何やってんだ、おまえ」


「ああ、ピーター、ウッキー。ああ、これは、ちょっとした運動よ。ゴミ、持ってきてくれた?」


「うん、持ってきたよ。はい、ママ。ジュースのペットボトル」


「わあ、ありがとう。全部潰してくれたのね」


「ううん。ほとんどパパがやった」


「これ、大変だったよ。いくらジャンプが得意でも、この量になるとなあ」


「あらあ、ピーター君って、六番目の御子さん? 有名な兎さんから名前を取って付けた子でしょ。随分と大きくなったのねえ」


「あ、おウマのおばちゃん、あけましておめでとうございます」


「はい、おめでとうございます。ちゃんと挨拶もできるのね。立派ねえ。去年ゴミ出しに一緒に来てた子は、ええと、たしか……」


「あれはウサジです。二番目の。来週は銀河系立大学入試の共通一次試験なんですよ」


「もう、そうなに成長したのね。早いわねえ。背中に乗せて遊んであげた事とか、いろいろと思い出すわ。走馬灯のようって、正にこの事ね」


「お、お馬さんだけにですな。お正月早々、一本取られましたな。ははは」


「もう、ウッキーたら、返しがおじいさんみたい」


「そんな事ないだろ、サッキー。まだまだ若いって昨夜も言ってくれたじゃないか」


「嫌だ、ウッキー、こんな所で恥ずかしい」


 ピーターは両親の間で黙ってビール缶を「ブラックホールの超重力で潰すもの」箱に入れていた。


 ウマモトさんは鼻から一息吐くと、尻尾を左右に振って帰っていった。




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正しい正月ゴミの出し方 改淀川大新(旧筆名: 淀川 大 ) @Hiroshi-Yodokawa

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