【後日談】 「ねえ、ハリー、あの時、なんで逃げたの?」~ハリーは語る


 『土まみれ姫』こと、ポピー・クライトン子爵令嬢が俺のプロポーズを受けてくれたパーティーの翌日、俺とポピーは、いつもの作業服で人に踏まれて荒れた部分を直したりしていた。

 作業が終わって庭のベンチに座り、庭を眺めていた。


 ポピーがベンチの上の俺の手に自分の手を重ねて言った。


「ねえ、ハリー、あの時、なんで逃げたの?」

 

「ポピーが子爵令嬢だって知ったとき?」


 ポピーはうなずきながら少し非難げな表情を見せた。


「あのとき、ハリーが逃げなければ、悩まなくてもすんだのに……。それに、怒ってたみたいに見えたし……」


 俺は照れながら苦笑した。


「逃げたわけじゃないよ。びっくりして動転したし、それに、あの日のプロポーズ、準備が結構大変だったんだよ……」


 ポピーの手を握りしめながら、初めて彼女を見た日のことを思い出した。


☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ 



 ポピーを初めて見たのは、彼女がエミリーの庭の手入れを始めた初日だった。


「エミリー!」


 もう何年も誰も入ったことの無かったエミリーの庭に作業服姿、ほっかむりをした若い女性らしき人影を見て、死んだ妹が戻ってきたのかと思ってしまった。


「あれはポピーですよ。今日から勤め始めてもらってます」


 いつの間にか隣に立っていたアイラが俺の声に気づいて言った。


「やっと見つけた女性庭師、ちょっと高かったですけど、腕はいいですよ。彼女の手入れした庭、それはそれは見事でした」


「ポピーか……、庶民ぽくていい名前だな」


 作業服姿でちょこちょこ動いているポピーを見て、名前の響きと動きが似合っているように感じて、思わず笑ってしまった。


「手伝って差し上げたらどうです?、エミリー様にそうしていたように」


 そう、大きな穴を掘ったり、牛のフンとか臭い肥料を運ぶときとか、エミリーは自分でやりたがったので、よく手伝ってやっていた。庭師の男達に入って欲しくない、ということだったが、兄の俺に甘えたかったのだろう。今となっては懐かしい思い出だ。


「ああ、そうだな。ちょうどいい息抜きにもなるし、昔のようにきれいな庭に戻る手伝いができれば、エミリーも喜ぶだろう……」


「じゃあ、ポピーに言っときますね。男手が必要なときは事前に声かけてって」


「だけど、俺が誰かは言わないでおいてよ。きっと気を使って断るだろうから」


「大丈夫ですよ、普段のボサボサ頭で作業服着れば、立派な下男に見えますよ」


「あいかわらず、手厳しいなあ、アイラは」


「ハリー、下男が呼ぶなら、アイラじゃなくてアイラさん、ですよ」


 隠し事をするのが愉快そうにアイラは笑った。

 俺の乳母だったアイラは二人だけの時は俺を呼び捨て、妹は様付け。

 気さくな家風のカルバート家ならではだ。




 そんなわけで、ときどき、ポピーの作業を手伝うようになった。

 アイラが言ったとおり、ポピーはなんの疑いもなく、俺を下男、しかも、かなり下っ端だと信じているようだった。


「ハリーってすごく手慣れてるけど、以前もここで作業してたの?」


「ああ、よく、エミリーを手伝ってたよ」


 言ってから、しまったと気づいた。正解は『エミリー様』だった。

 案の定、ポピーがおやっという顔をして、気がついた。


「もしかして、エミリーさんとつきあってたとか?、いや、それはないわねえ……」


「あるわけないだろ!」


「ああ、なるほど。身分違いの片思いね……、うんうん、肖像画見せていただいたけど、きれいな人だもんねえ」


 ポピーは一人で納得し、一人でうなづいている。

 クルクル動く表情、おもしろい子だ。とりあえず話を合わせておくのが無難か。


「見た目だけじゃなくて、優しくて心もきれいな人だったよ」


「へー、そうなんだ」

 ポピーはニヤニヤしながら聞いている。


「花を愛して育てる人は、みんなそうだろ?、ポピーも、きっとそうだろ?」

 ポピーの顔から笑いが消えて、頬が赤くなっていくのがわかった。

 自分でも気づいたのか、ハッとして俺を見た。


「で、でも、貴族なんてやめといた方がいいわよ。庭で肥料の牛のフンいじってるのを見ただけで、婚約破棄するようなヤツラよ。体裁と見栄えばっかり気にして。貴族の男なんて大っ嫌い!」


 我がことのように怒るポピーを俺はポカンとして見た。

 ポピーはまた、ハッとして我に返ったようだ。


「い、以前、庭の手入れを手伝った子爵のご令嬢の話よ。友達になったから教えてもらっただけ。本人は、そんなヤツ、こっちからお断り、せいせいしたわ、だって。でも、二度と思い出したくないイヤな記憶だって言ってたわ」


 よほど仲の良い友達なのか、いつも笑顔のポピーがそこまで怒らなくてもいいのにというぐらい怒ってる……。


 でもね、ポピー、貴族はみんな、そういう人というわけではないんだよ。いつか教えてあげたいな、俺の父と母のことを……。




 そんなこともあって、俺が手伝うときはランチを俺の分も用意してくれるようになり、ベンチで並んで座って食べるようになった。


「ポピーのランチはおいしいな」


 俺はエッグサンドイッチをほおばりながら言った。お世辞ではなく、素朴な味付けでおいしい。つい、笑顔が出てしまう。


「ハリーに頑張ってもらうように、愛情込めて作ってますから」


 ポピーはそう言って、ごく自然にハンカチで俺の口元についたタマゴを拭いた。年齢では俺の方が六、七歳上のはずなのだが……。庶民の女性とは、こういうものなのだろうか?

 だが、優しい笑顔に思わず見とれてしまった。


「あっ、ごめんなさい。いつも弟たちにしてるもんで……」


 ポピーもあわてて、手を引っ込めた。やはり、誰にでもする、というわけではないようだ。



「ねえ、ポピー、ポピーの花言葉、知ってる?」


 俺は男ながら、庭の花を見ながらのエミリーの教育のおかげで花言葉に詳しい。

 以前はこの庭にもポピーが咲いていた。

 ポピーは首を横に振った。


「いたわり、思いやり……」

「あら、わたしにピッタリね」


 ポピーは愉快そうにクスクスと笑った。でも、言いたいのはこれではない。


「そして、恋の予感」


 俺はポピーを見つめた、今の思いを伝えたかった。

 ポピーはただ、俺を見続けるだけで、なんの反応もなかった。ただ、こころなしか頬がピンク色になっただけだった……。




 ポピーとのランチタイムは楽しいひとときだ。

 いつも俺の口元を見てニコニコしている。


「なんだよ、なんかついてる?」

「ううん、いつも、おいしそうに食べてくれるなって思って」

「ポピーが作るランチがおいしいからだよ」


 あっ、ポピーが赤くなった。ホントのことを言っただけなのに……。こんな風に、毎日、にこやかに暮らせたらどんなに幸せだろう……。

 ポピーを見ているとそんなふうに思ってしまう。




 時が過ぎ、冬が来てしまった。ポピーとは仲の良い姉と弟みたいな関係で今に至ってしまった……。年齢では逆なのだが。

 エミリーの庭は春にはきっと、以前のような美しさを取り戻すだろう。そして、ポピーば役目を終えて去って行くのだ……。



「今日は俺、時間あるから手伝うよ」


 バラの枯れた枝を丁寧に折っていくのだという。正直、こういう細かい作業は苦手だが、少しでもポピーと一緒にいる時間を作りたかった。心ここにあらず、そんな気持ちで作業している俺の指先を心配げにポピーが見ている。


「つっ!」


 やってしまった。バラのトゲを指でつまんでしまい、人差し指に深く刺さった痛みを感じた。


「見せて!」


 あわてて駆け寄ってきたポピーはなんのためらいもなく、俺の人差し指をくわえた。口の中で刺し傷が吸われる感じがする。口の中に意識を集中しているのか、ポピーの目は閉じられている。

 うすいピンク色の柔らかそうな唇が俺の指をくわえている。


「ポピー……」


 思わずあげた声に反応してポピーの目が開き、顔が赤くなっていくのがわかった。でも、指はくわえたまま……。

 俺は、唇に引き込まれるように顔を近づけていった。なにも考えられず、自然に身体が動いていく。


 人差し指を口から取ったが、唇は指の太さだけまだ開いている。

 そっと下あごに指をあて唇を閉じさせた。同時にポピーの目が閉じられた。俺も目を閉じて唇を重ねた。


 背中に回した手がポピーを引き寄せる。ゴワゴワした作業着の下にやわらかな女性の身体が感じられる。

 ポピーの手が俺の腰に回されて引き寄せられる。二人の胸が重なった、その時、ハッと我に返った。


 俺はなにをやってるんだ!、好きだとも言っていない女性にキスして抱きしめようとしている。恥ずかしさにカッと顔が赤くなるのがわかった。


「ごめん!、バンソウコウ貼ってくる!」


 いたたまれなくなって、走り去ってしまった。

 ちがう、言うべき言葉は『ごめん』じゃない、そう思いながら。


 その日、心を落ち着かせて戻ったときには、ポピーはすでに帰ってしまっていた。



「さあ、今日も頑張っていきましょう!、もうじき春でーす!」


 次にポピーに会ったとき、彼女はなにも変わっていなかった。いや、いつもよりも、もっと明るい感じだった。

 キスについては、触れられることはなく、結局、なにも変わらなかった。



 もうじき春……。変わらない、ではだめなのだ。変えなければ。



「えっ、なんですって?、ポピーさんにプロポーズ、一緒に園芸店を始めるですって?」


 やはり母は驚いた。


「園芸店は彼女中心で運営して、わたしは手伝いという感じです」


「わかってるの、あの子は平民ですよ?」


「……平民出の母上がそう言われますか?」


 母は元々、花屋で働く平民だった。それを父が見そめて、大恋愛の末に結婚したという。表面上、貴族の養子にしたりと結構大変だったと聞く。知る人は知るが、カルバート家の秘密であった。


「だから言うのよ。やれ、敬語ができないとか、使用人に丁寧語使うなとか、こんな、堅苦しい世界に入ることを彼女は望んでいるのですか?」


 思わず、貴族の男なんか大っ嫌い、と言い切ったポピーの怒った顔を思い出し、ため息が出た。


「……その辺はこれからですが、まず、ちゃんと意思表示をしたいと思い、母上に相談する次第です」


 今度は母がため息をついた。


「もう、心を決めてしまっているのでしょう。相談と言うより報告ですね。まったく、一途で頑固なところは父親そっくりですよ」


「そんな父上を母上は好きになったのでしょう?」 


 母は昔を思い出すように、愉快そうにクスクスと笑った。


「わたしが恋をしたとき、あの人は金持ち商人の息子のフリをずっとしてたんですよ。結婚の約束をして結ばれたあとで、実は……って」


「はあっ!?」


「ひどい話よね。もっとも、初めに伯爵とか聞いてたら、引いちゃって、こうはならなかったでしょうね」


 なるほど、ポピーにもその手は使えるかもしれない。まず二人の愛情を固めてから、実は……、か。


「それに、既成事実もできちゃってたし……」


「既成事実?」


 母は照れくさそうに笑いながら、俺を指差した。


「ハリー、あなたのことですよ」


 月足らずの早産だったと聞かされていたが、カルバート家にはまだ秘密があったとは知らなかった。


「そこまでマネしろとは言いませんが、伯爵としてではなく、人として愛されること。あとは、まず、反対しそうな人は説得して了解をもらっておくこと、できれば国王陛下と王妃様のお耳にも入れておくこと」


 ありがたい先輩のアドバイスだが、ため息がまた出るほど大変そうだ。


「ハリーが考えているより、ずっと大変ですよ」


 母は俺に念押しをするように深いため息をついた。




 それからは親戚筋、有力貴族を一軒一軒訪問し、説得する日々だった。

 反応は一緒だった。まず反対、考え直せ。だが最後には『やれやれ、血は争えんなあ……』で納得してくれる。

 先達の父の努力と母の人徳というものだろう。二番煎じというのは、時にありがたいものである。



 国王陛下にも短時間だが、謁見のお時間をいただいた。


「なんと、そのほうも平民を娶りたいというのか!、うーむ、血は争えぬのお……」


 国王といえども反応は一緒だった。

 しかし、隣に座る王妃が助け船を出してくれた。


「よいではありませんか。カルバート伯爵の選ばれる女性なのですから、きっと素晴らしい方なのでしょう」


「まあ、良き前例もあるしのお……」


 やはり、偉大なる父と母に感謝である。


「ソフィアは少しは元気になりましたか?」


 王妃は夫と娘を亡くした母をずっと気に掛けてくれている。


「はい、今度、妹の庭をよみがえらせようと、庭師を雇って手入れを始めたほどです」


「まあ、それは良かった。あのお庭は本当に素晴らしかったもの……」


 エミリーがいた頃、評判を聞いた王妃が庭を見に来られたことが何度かあった。


「その庭師がわたくしの意中の人であります」


「花屋の次は、庭師か……」

 王と王妃の目が点になるのがわかった。



 そんな根回しをしているうちに春になってしまった。本人の承諾はまだもらっていないというのに……。


 ポピーの一年間の努力の成果、エミリーの庭には春の花々が咲き誇っている。

 母は喜んで、友人達を呼んでは庭を見せている。


 しかし、ポピーには言い出せないまま最後の日を迎えてしまった。

 とにかく、今日こそは自分の思いを伝える、そんな覚悟を固めて最後のランチに臨んだ。


「はい、最後のサンドイッチ、今までのお礼を込めて、ハム厚切り」


 最後のサンドイッチ?、ポピーには今日が最後で当然、ということなのか。

 俺は黙ってサンドイッチを受け取り、うつむきながら黙々と食べた。

 でも、今日こそは言わなければならない。


「ねえ、ポピー」


 俺は思いきって顔を上げてポピーを見た。ポピーも俺を見つめている。顔が少し紅潮しているように見える。


「二人で園芸店でもやらない?、毎日、土いじって、花に囲まれて」


 返事がない。イエスでもノーでもない。ただ、見開かれた目が俺を見つめている。


「きっと、俺たち、幸せになると思う」


 そう言ってポピーの目を見つめた。返事はない。でも、一瞬うれしそうな表情をしたように感じたが、ほんの一瞬で消え去り、考え込むような顔になった。

 ポピーはきっと応えてくれる。そういうふうに想像していたが、間違いだったか。

 ポピーがなにか言いたげに顔を上げた。


 その時、庭を見に来ていた客の一人の女性がポピーに寄ってきた。


「あら、『土まみれ姫』、ポピー、こんなとこでなにやってるの?」


 振り返ったポピーの反応から知り合いらしいことがわかった。

 『土まみれ姫』?、おもしろいあだ名で呼ばれているな。


「子爵令嬢のあなたが、そんな服着て……。でも、そっちの汚い方とはお似合いね」


「子爵令嬢だって!?」


 俺は驚いてガク然として立ち上がった。

 困ったようなポピーの顔から、おそらく本当なのだとわかった。


 さまざまな感情が一気に押し寄せてきた。

 本当なのか?、では、この二ヶ月の苦労はなんだったのだ?、国王陛下にまでご報告したのだぞ!、なんで最初に言ってくれないんだ?

 まず感じたのは不思議にも怒りだった。

 でも、素晴らしいじゃないか。誰も文句は言わない。

 次に喜び。

 俺も実は伯爵でしたって?、俺のこの姿はどう説明する?、この状況、どうすりゃいいんだ?

 そして当惑。


「ちがう!、だましたんじゃなくて……」

 

 ポピーが立ち上がって何か言っていたが、耳に入らない。


 落ち着け、落ち着け。そう自分に言い聞かせながら歩いていた。気づいたらポピーから離れていた。


 伯爵として子爵令嬢にちゃんとプロポーズしよう、そう思って急いで着替えて、髪をなでつけ、庭に戻ったときにはポピーはすでにいなくなっていた。

 作業着ですぐに戻っていれば……。『貴族は体裁と見栄ばかっり気にして』、ポピーのセリフを思い出した。彼女は正しかった。



「ハリー、ポピーがあわてて帰って行きましたけど、なにかあったの?」


 通りがかったアイラが話しかけてきたのであわてて尋ねた。


「アイラ、ポピーはどこに住んでいるんだ?、住所は?」


「住所?、聞いてませんよ。契約と言っても契約書があるわけじゃないですし、朝、時間通りに来て、週の終わりに料金払って、ですから」


「そんな……」


「用がおありなら、来週のエミリー様の庭のお披露目のパーティーに奥様が招待されてますから、その時お会いできますよ」


「そうか!」


 彼女が手入れした美しい庭で花に囲まれてプロポーズしよう。

 なんて素晴らしいアイデアだろうと思ったのだが、パーティーの前日になって、アイラが浮かない顔で話しかけてきた。


「ハリー、ポピーからパーティーには出られない、と誰か使いの人が手紙を持ってきました」


 なんでだろう?、俺はなにかひどいことをしたんだろうか?、覚えがない。

 ただ都合が悪いだけかもしれない。いや、あれほど力を注いだ庭のお披露目、欠席する理由が何かあるはずだ。


「アイラ、そもそも、ポピーとは最初にどこで知り合ったんだ?」


「ええと……、ほら、となり街の庭のきれいなお屋敷の……、名前はたしか、クラリネット?、クライバーグ?、クライ……」


「クライトン?」


「そう、それです、クライトン」


「クライトン子爵の令嬢だ!」


 とにかく、パーティー当日アイラを迎えにやって、強引にでも連れてきてもらうことにした。



 パーティーは順調に進み、母からの二人の紹介も終わり、やっとポピーの手を取ることができた。

 作業服のポピーも好きだが、今日のポピーは見違えるように美しい。


 プロポーズは一生の思い出。昨日から会いたい思いをじっとガマンしていた。

 前回はうまくいかなかったが、今回はちゃんと決めたい。これは貴族ではなく男の見栄だ。


「あらためて、ポピー」

 俺はポピーをジッと見つめた。


「この庭をずっと、守ってくれないか」


 あれ?、ポピーの目が一瞬キョトンとした……。


「……契約の延長ですか?」


「……いや、プロポーズのつもりなんだけど」


 やってしまった。もっとわかりやすい表現で言えば良かった……。


 でも、ポピーはコクッとうなずいてくれた。

 俺は、周囲の目も気にせず、ポピーを抱きしめてキスをした。


☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆



 ベンチで並んで座って庭を見ながら、俺とポピーは楽しそうに笑った。


「隠し事はやめましょう、っていう教訓だな」


「そうね。なんでも話し合える家庭にしたいわ」


「じゃあ、ひとつ聞くけど、なんで、ここにはポピーを植えてないんだ?」


 ポピーはちょっと目を伏せた。


「ここは、エミリーさんの庭。ポピーは植えたくなかったの……」


「もう、ポピーの庭でもあるんだよ。それに、エミリーはポピーが好きで、昔はここにもポピーがたくさん咲いてた」


 俺はポピーを見つめた。

「それに、今では俺の一番好きな花だよ」


 ポピーはうれしそうに微笑んだ。

「じゃあ、来年はたくさん植えるわね」 


「もう、花言葉の『恋の予感』じゃないけどな」


 そう言って俺はポピーにキスをした。



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【書籍化記念前日譚投稿】貧乏子爵令嬢『土まみれ姫』は伯爵家の庭で働いてるのに、わざわざ下男と恋をする 古東薄葉 @kotou_usuha

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