籠屋山上ル
Tempp @ぷかぷか
第1話
「馬鹿みたいな話だけど、この間UFO乗ったんだよ」
「はぁ?」
俺は思わず
丁度昼過ぎだ。社食はざわざわと混み合っていて、何かの聞き間違いかと思ったんだ。
「それでUFOってさ。無重力だと思ってたんだけど最初だけふわっとなるんだよな」
「ちょ、ちょ、ま。急に何」
「えっ? UFO」
「UFOなのはわかるんだけど、それ何の話? ドラマかなんか?」
「いやいや違くて。あれ? なんだっけ。そういう噂知らない?」
「噂?」
「
「……知らない」
蒲田はマジカ、っていう感じで目を見開いて俺を見る。
えっなんで。俺のほうがマジカだよ。
「ああ、うーん。世の中には不思議なことが色々あってだな」
「お前の頭の中が不思議だよ」
「そうかな」
その日の昼休みはそれで切り上げたけれど、なんとなく気になって神津の街アプリで『UFO 籠屋山 発着場』で調べたら、それっぽいのを見つけた。
◇◇◇
今日も明日もUFO日和 Part6
1: 神津スコシフシギ市民 03/26(金) 22:19:51 ID:xsbk1w0298
UFO情報教えてね!
捕まったらここ書き込んで! よろ!
前スレ/今日も明日もUFO日和 Part5
2: 津津スコシフシギ市民 03/26(金) 22:21:01 ID:930G0TicT
2
やっぱ神津だと籠屋山かねぇ
4 神津スコシフシギ市民 03/26(金) 22:26:08 ID:OTGbphCWD
よくUFO見えるっていうもんな
5 神津スコシフシギ市民 03/26(金) 22:30:08 ID:930G0T151
>>4
UFOの発着場があるんだってよ
6 神津スコシフシギ市民 03/26(金) 22:33:59 ID:6fij8Mj8E
>>5
ほうほう、乗車賃はおいくらかな?
7 神津スコシフシギ市民03/26(金) 22:36:27 ID:r7kcXdVhp
>>6
腎臓1個分
151 神津スコシフシギ市民 05/08(土) 22:38:08 ID:8whG0T151
なんかもうちょっと具体的な話聞いたぞ
去年の正月、神津のあたりの会社員がUFOに連れ去られたんだって
153 神津スコシフシギ市民 05/08(土) 22:42:08 ID:a96rk8Zb0
それのどこが具体的なんだよ
298 神津スコシフシギ市民 06/19(土) 08:45:12 ID: 9Tl1Gag2/
>>151
遅レスだけどどっかのスレ噂になってたな。
流星群見にいっていなくなったんだっけ
930 神津スコシフシギ市民 09/10(金) 13:48:21 ID:3wpm04jBZ
じゃあちょっと籠屋山登ってくるわ。明日休みだし
934 神津スコシフシギ市民 09/10(金) 18:22:41 ID:9Tl1Gag2/
>>930
報告よろー。
◇◇◇
……そういえば蒲田は土日どっか行くっていってたな。まさかこの930じゃないよな。
なんとなく気になったけれど、俺は営業で蒲田は経理と部署が違う。
営業から戻るとすでに蒲田は退社していて、なんだかもやもやと気にはなったもののそれでおしまい。
「は? UFO? お前何いってんの」
「お前が昨日の昼休みに言ってたんだろ?」
「んなこと言うわけないじゃん。頭大丈夫?」
「うっわ最悪」
なんとなく気に入っていたのを引きずっていて、翌昼うどんを注文しながら聞いてみたら、UFOの話はすっかり蒲田の頭から消えていた。
まさに狐につままれたような気分だ。
「でもこの930お前じゃないの? ほら」
街アプリを見せると、最初は怪訝な顔をしていた蒲田も記憶がうっすら戻ったようだ。
「あれ? 俺確かにこれ書いたわ。930」
「やっぱこれ?」
「えっまじで。でもなんでだ。うーん? あそうだ、土日にキャンプ行こうと思って籠屋山調べてたんだよ。あそこキャンプ場あるだろ」
「ああ、そういえば」
「そんで151と298見て経理の
「筒賀さん?」
「そう、ちょっと人付き合い悪い感じの」
「そういえばいたかな」
筒賀という人物は何度か会ったことがあるが、その程度だ。
「まあ営業じゃあんま絡みないだろうけど。筒賀さんは無線とか趣味にしててさ、流星群を見に年に何回か籠屋山に上るんだよ。それで丁度正月に登って帰ってこなかったっていう話でさ。そんでまあキャンプ行くついでだからと思って」
「それでUFOに攫われたの?」
「んな馬鹿な。あれ? ……でもおかしいな。夜の記憶がない。何したんだっけ」
「お前大丈夫?」
なんだかちょっと不安になった。山で頭でも打ったのか? まあその方がUFOで攫われたよりよっぽど信憑性あるんだけど。
「なんだったかなぁ。なんか気になってきた」
「病院行ったら?」
「いや、なんとなく籠屋山で何かあった気がする」
「何か?」
「うーわかんねえけどめっちゃ気になる。
「いや別に」
「今週末キャンプいかね? 彼女いないだろ」
「勘弁してくれよ。終末くらいごろごろしてぇんだよ」
そして週末、俺はなぜか山に登っていた。どうしてこうなった。
テント貼るとかお断り! って言ったのに。キャンプ場には山小屋があってそこを借りることにしたらしい。まあ、最近運動不足だからいいけどさ、って思ったけど、籠屋山って結構高いのな。蒲田は初心者のハイキングコースって言ってたけどダウトだろ。もう太ももがパキパキで、行程の半分くらいで挫折しかかっていた。
「なんか息ヤベーんだけど。高山病とかだったりする?」
「アホか、この高度で高山病になるわけないだろ」
「そういうもん?」
午前中から登ってようやく山小屋についたのは17時くらいで、蒲田に呆れた目で見られた。
「おっそ」
「勘弁してくれよ。俺は山登ったりしないんだからさ」
ハァハァと肩で息をしながらなんとか答えた。
山小屋の前にはすでに何張りかのテントが設置され、晩飯用なのかそこかしこから湯気がゆらゆら白く立ち上っていた。蒲田は山小屋にチェックインすると言って、立ち去る前に俺達の登ってきた方向をホラと指差した。
つられて振り返って息を飲んだ。
そこから見える景色は開けて遮るものなく、遥か先まで澄み渡っていた。
遥か遠くに見える神津湾が藍色の表面に夕日をキラキラ照り返し、その水平線すぐのところに薄っすらと火星が顔を出していた。まだ薄い星々から繋がるように、その手前に
なのに俺の足元だけはオレンジ色。背中の籠屋山山頂の雲が反射するオレンジ色の光が足元にある俺の黒い影以外を明るいオレンジで染め上げている。不思議な景色。
ほえーっと思って見とれていると、蒲田が山小屋から戻ってきた。薪を買って一緒に簡単にバーベキューをした。その間に空は不思議にどんどんと暗くなっていく。そのグラデーションがなんだか異次元な感じがする。ひょっとしたらUFOが出てもおかしくないような。
「な、山も悪くないだろ」
「まあ、うん」
なんとなく、それは否定しづらい感じがする。足はもうパンパンだけれどもその甲斐はあったと思わせる何かがある。普段では感じられない広がる景色と澄んだ空気には。
「そういや筒賀はこの季節になると六分儀がどうのこうのって言ってたな」
「ろくぶんぎ?」
「そう、9月末に六分儀座流星群っていうのがあって、昼間に見るのがいいらしい」
「昼間に流星を? 見えるのか?」
「見えないけど電波で調べるんだってさ」
「なんだそれ。意味わかんね」
「まあ俺もよくはわかんないんだけど」
「お前は筒賀と仲良かったの?」
「そんなわけでもないけど、筒賀が話すのは俺くらいだったのかもしれない。そんなだからいなくなったのかな」
そんな話をしていて、ちょっとしんみりして、21時を過ぎる頃にはあたりはすっかり静かになっていた。UFOは見えない。でも寝転んで見上げる星空は、UFOも飛んでいそうな気にさせる。
「そんでUFOはどうなの?」
「UFO?」
「てか筒賀さんがどうのって話で登ったんじゃん」
「あれ? そういえばそうだったな。そう、俺は先週も登って、その時はテント持ってきててそのへんで張って、えっとそれでどうしたんだったかな。多分夜中に散歩にいったんだ」
「夜中に?」
「散歩っていってもさ、このあたりは道が整備されてるから、夜は涼しくて気持ちいい」
「それ面白いの?」
「気分がかわっていいぞ、行くか?」
それで結局無理やりつれていかれた。
山に登ることになった時と同じテンションだな。蒲田は結構強引だ。
でもまあ、垂直に登るわけでもなく水平に散策するだけだから、そんなに疲れるわけでもない、これ以上は。既に足がいたいけど。
「あ、思い出した」
「うん?」
「そう、この先でUFO乗ったんだ」
「は? UFO?」
「そう、ふわふわと無重力で」
「お前頭大丈夫?」
そんな話をしていると妙な場所にたどり着いた。円形に開けている。
UFOの発着場? まさか。
そう思うとふわふわとした青い毛のようなものが降ってきた。なんだ?
「ああこれ、ほらUFOが迎えにきた」
「えっなんで?」
俺は蒲田が指し示す上空を見上げた。
けれども上を向いても何も見えない。真っ暗なままだ。
真っ暗? あれ、おかしい。この場所の上空だけ円形に星がなく、真っ暗。
え、本当にUFO? そんなはずないだろ。まさか。でもこの不思議な光景は、なんだ。上空に真っ黒に切り取られた円形以外の部分は、夕方見た光景と全く違って小さな星が大量に瞬いていたんだから。
「ああ、思い出したよ。筒賀さんだ」
「筒賀さん?」
「そう、筒賀さんは宇宙人と一緒に宇宙に行ったんだよ」
「はぁ? UFO乗った以上に信じらんねえ」
「籠屋山のもう少し上に本当のUFOの発着場があるらしくてさ、そこで筒賀さんは天体観測をしてて、すごく遠くの宇宙に行くことにしたらしい」
「……大丈夫かお前」
本気で心配になってきた。
「まあ、そうだよな。俺はここでUFOに捕まって、筒賀さんの記憶とやらでそれを見た。誰にも挨拶をせずに地球を去ったから誰かにさよならを言いたかったらしくて、UFOが筒賀さんの知り合いを籠屋山で待ってたんだ。それで筒賀さんはそのデータを俺にくれるらしい」
「データ」
「そう、これまでにない奇麗でクリアな流星群の電波観測結果らしい。四分儀座と六分儀座流星群の」
「ちっとも興味ねえな」
「そういうなよ、それで次来る時にUSBかなんか持ってきてっていわれたんだけど、俺忘れちゃってたな」
「USB? UFOが?」
「だって変な記憶媒体をよこされても俺ら読めんじゃんか」
「それでこれがUFOだとして、俺も乗れるわけ?」
「USB持ってる?」
「山に持ってくるわけないだろ」
「じゃあ今回は無理かな」
ぽっかりと真っ暗な円形の空を見上げた。
これ、本当にUFO? まんまるな黒い雲とかじゃないの?
でもその山の澄み切った不思議な空気と、降ってくるなんだかよくわからないパラパラと降り注ぐ青い糸を見ていると、本当にUFOなのかな、という気がしてきた。
結局俺たちは来週下山して、来週USB持って3回目の籠屋山に登ろうということになった。
「蒲田、めっちゃ体痛い」
「明日くらいになったら治るよ。今週も登るんだから早く治せ」
「ねえ、俺、なんで先週末に山に登ったんだ? そんで何でまた登るの?」
「うん? 体鍛えたいとかじゃないの?」
Fin
注:これは『しぶんぎ座の下で』の後日譚です。
そのうちカクヨムにもってきます。
籠屋山上ル Tempp @ぷかぷか @Tempp
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