オオカミ、ケバブサンドを食べる

@chased_dogs

ケバブサンドを食べる

 あるところにお腹を空かせたオオカミがいました。

 オオカミは山を降り街へ出かけると、ケバブ屋さんに行きました。

「ケバブサンド一つください」

 店のおじさんが

「ケバブ、甘いの辛いのあるよ、どっち?」

 というので、オオカミは甘口を選びました。

 それを通りがかった悪いトラが見て笑いました。

「ヘェ! オオカミが甘口のケバブを頼んでるぜぇ」

 オオカミはムッとしましたが何も言いません。トラはなおも続けてこう言いました。

「甘いものばかり食べると虫歯とかなんかで悪いぜ!」

 トラの言葉にオオカミは決心が揺らいでしまい、

「あ、やっぱり辛口で」

 と言いました。オオカミの注文を聞いて、ケバブ屋さんのおじさんは「このお客さん、もう一個ケバブサンドが欲しいんだ、辛口で」と思いました。

「はいどうぞ、こっちのシールがあるのが辛口、こっちのシールないのが甘口ね」

 オオカミは、一つで十分なのに、と思いました。けれど頼んでしまったのはしょうがないのでお金を払おうと財布を開きました。そのとき、「ドキッ」とオオカミの心臓が鳴りました。オオカミの財布には500円しか入っていなかったのです! ケバブサンドは1つ500円、2つなら1000円です。

「どうしよう……」

 お金が足りない。オオカミは思いました。

 その時、急ぎ足で歩いていくコアラが通りかかりました。そのコアラは髪はボサボサ、ジャケットはよれよれ、ところどころツギハギの跡や穴があり、靴も靴下も左右で違っていました。

 コアラがオオカミの横をすれ違うとき、「チャリーン」という金属音が鳴りました。足元を見ると500円玉が転がっていました。きっとあのコアラが落としたものに違いない。オオカミは500円玉を拾い上げるとコアラに返そうと思いました。

 しかしそのときにはコアラはもう遠くへ行ってしまっていて、サッとは渡せません。……もう諦めてこの500円でケバブを買ってしまおうか、オオカミの心に嫌な考えが過ります。いやいや、他人のお金で勝手にケバブを食べるのは泥棒だ、オオカミは思い直しました。

「トラくん!」

 オオカミは呼びかけました。

「あのコアラにこのお金を届けてほしい! お礼にケバブサンドをあげよう」

「約束だぜ」

 トラはニヤニヤ笑いながらそのお金を受け取ると、コアラを追いかけ始めました。

 そしてオオカミはケバブ屋のおじさんに向き直り、

「すみません。お金を家に忘れてきたので取っておいてもらえますか?」

「はい、いいですよ。何分?」

「10分くらいで戻ります」

 オオカミはキッパリいうと家に戻りお金を持ってケバブ屋にやってきました。トラもちょうどケバブ屋の前に戻ってきたところでした。

「はい、1000円丁度ね。ありがとうございました」

「ありがとうございます」

 オオカミはケバブ屋のおじさんにお礼を言うと、トラの方にケバブサンドを差し出して言いました。

「甘口と辛口、どっちにする?」

 トラは息を切らしながら答えました。

「ハァー、ハァー、走り回って疲れたから、甘いのにするぜ」

 そしてオオカミは辛口の、トラは甘口のケバブサンドを食べました。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

オオカミ、ケバブサンドを食べる @chased_dogs

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

同じコレクションの次の小説