第7話



俺は疲れきって自分のベットに飛び込む。


せっかく北海道の自然を感じながらのんびりと登校しようと思っていたのに思わぬアクシデントにより全力疾走をする羽目になっていた。


しかも、汗をかいた後に薄い格好をしたせいか、何だか少し体もだるい。


こんな事になるならチャラ男なんかなるべきじゃなかったと今更後悔しているが、俺がチャラ男を初めて早半年、もう高校デビューでは片付けられない境地まで来てしまった。


ここまで来てしまったらもう卒業まで貫くしかないだろう。


俺はため息をついて布団の中に潜り込む。


しかし俺はなんて恥ずかしい勘違いをしてしまったのだろうか。


出会って近づいただけでキスされると勘違いするとか本当に頭の中がお花畑だ。


まず悠斗君がそんな軽い人間には見えない。


悠斗君は普段から服装が乱れている人が居たら注意したり、少し過激なスキンシップを取っている生徒を引き剥がしたりしている。


生徒会長としてもはややりすぎというレベルで仕事をこなしている。


全国を見てもここまで真面目な生徒会長は居ないんじゃないだろうか。


俺が中学校の頃はかなり真面目に仕事に取り組んではいたが、そこまで他の生徒に注意をしたりはしていなかった。


悠斗君は本当に真面目なのだろう。


だからこそいきなりそういった事をするとは思えないし、いきなりじゃなくてもしなさそうだ。


それは分かっていたことのはずなのだが、何故か今回はそんな事は全て頭から抜け、と勘違いしてしまった。


…………理由は分かっている。


この本だ。


俺は今まで買っていた例の本を取り出す。


この本のせいで俺はかなり悪影響を受けているのは明らかだ。


この本の銀次と唯斗の関係を悠斗君と俺との関係と重ねてしまっておかしな行動に出てしまっている。


この前では俺の学校生活…………いや、チャラ男生活に支障をきたしてしまいそうだ。



「だけど、捨てるのはなぁ…………。」



俺はパラッとその本を読む。


何度読んでも神作だ。


もはや何かの賞を与えてしまってもいいのでなないかと思うほどだ。


これの新作を読むのが俺の日々の楽しみでもあるし、これが無ければ俺は何をやるにしてもやる気が出ずにチャラ男生活が終わってしまうだろう。


捨てても捨てなくてもチャラ男生活が終わるなんて皮肉なものだ。


やはり俺にチャラ男の演技など出来なかったのか…………?


ネガティブな思考で頭がいっぱいになる。


体を包む倦怠感も相まって、俺はどんどん疲弊していった。


…………今日はもう寝よう。


寝る時間にしては明らかに早いし、こんな時間に寝てしまえば体内時計が狂ってしまい、規則正しい生活を遅れなくなってしまう。


普段なら絶対にしない行為だが、今の俺はかなり精神的にも肉体的にも疲弊していた。


俺はその時の欲望の赴くままに惰眠を貪る事にした。


ふかふかのベットの中に潜り込み、思考を全て捨てる。


この本も学校生活も捨てたくは無い。


だからこそどちらも拾える選択肢を探し出さなければいけないのだが、それを考える気力は今の俺には無かった。






◇◇◇◇





家のインターホンが鳴り、俺は目を覚ました。


…………頭が痛い。


意識も朦朧としているし、目もシパシパする。


あぁ、これは完全に風邪だな、しかも結構拗らせてる。


病院に行くという嘘をついたら本当に病院にいかなくてはいけなくなるなんてな。


やはり嘘はいけないということだ。


俺は起き上がろうとするが、体が言うことをきかず、起き上がった瞬間激しい頭痛と目眩に襲われる。


暖かな布団から抜け出すのには多大な労力がかかったが、それでも何とか体を動かして玄関まで歩く。


玄関までの道のりがものすごく遠く感じ、そこまで行くために少し時間がかかってしまう。


それでも玄関の先に居るであろう人はまだ帰らずに俺の事を待ってくれている。


俺は申し訳なく思いつつ、扉を開けた。



「…………はい……どちら様でしょうか。」


「あぁ、はじめ君、様子を見に…………って大丈夫!?」


「…………ゆ、ゆうと、くん?」



あれ、なんでこんなところに悠斗君が居るのだろうか。


ここは俺の家だし、悠斗君がいるはずはない。


あぁ、もしかして悠斗君の事を考えすぎて遂に悠斗君の幻覚を見るようになったのか。


そうかそうか、それなら良かった。


それにしても流石悠斗君だ、俺の妄想の中でもその存在感は際立っている。


本当に男の俺でも見惚れてしまいそうな綺麗な顔立ちをしている。


俺は妄想ならと思い悠斗君のその滑らかな頬に手を伸ばす。



「は、はじめ君何を…………っていうか、そんな体調ならやっぱりあの時病院に行かせるべきだったみたいだね、あの走りっぷりを見て大丈夫だって思った僕が馬鹿だったよ。」


「悠斗君は馬鹿じゃないよ、十分頑張って…………。」



その瞬間、悠斗君の顔がグルんっと回転しながら上へと登っていった。


俺は理解が追いつかなかったが、それを理解しようとする前に俺の意識は闇へと沈んで行った。


最後に聞いたのは俺の名前を叫ぶ悠斗君の声だった。

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真面目なチャラ男とえろ漫画家な生徒会長 黒飛清兎 @syotakon

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