第6話
俺の頭が桃色に染まると同時に、俺の心臓は異常なまでに高鳴る。
「ちょ、待って、俺達はそんな仲じゃ…………。」
「え? 何言ってるんですか、これくらい普通ですよ、ほら、目瞑ってください。」
え、普通なのかこれ!?
俺はそんなに常識を知ってる訳じゃないが、流石にこれはおかしいというのは分かるぞ!?
そんな、恋仲でも無い人とキスなんて、流石におかしいよな?
え? 俺がおかしいのか!?
確かに銀次と唯斗は特にそういう仲では無いが、色んな事をやっているし、案外普通なのか…………?
俺は近づいてくる悠斗君の顔を見る。
その瞬間、俺は思いっきり目を瞑った。
いやいやいや、やっぱり普通じゃないよな!?
俺は混乱したが、それでも何故か悠斗君を突き飛ばしたりすることは出来なかった。
目を閉じているため、周りの状況は分からないが、俺の肌に当たる悠斗君であろう吐息により悠斗君の位置がはっきりと分かる。
悠斗君の吐息は熱くなった俺の肌を冷ましていく。
しかし、他でもないその吐息のせいで俺の体温は上昇していく。
俺は目を瞑ったまま来たる時を待ち続けた。
ピトッ
その時、何故か俺は額に冷たさを感じた。
唇にはなんの反応もない。
「わっ、凄い熱、体調が悪いというのは本当だったんですね…………。」
「……………………え?」
俺は素っ頓狂な声をあげて目を開ける。
その瞬間、俺の目にチクリとした痛みが走り、俺はもう一度目を瞑った。
「あぁ、だから目を瞑っていてと言ったのに…………はい、もう避けたので目を開けていいですよ。」
「お、おう。」
俺が再び目を開けると、少し離れた位置で悠斗君が心配そうに俺の事を見つめていた。
どうやら先程は悠斗君の髪の毛が俺の目に入ってしまっていたようだ。
つまり、悠斗君は俺にキスをしようとした訳ではなく、ただ額同士をくっつけて体温を測ろうとしていただけみたいだ。
うん、まぁ良く考えれば普通にいきなりキスなんてするはずないよな。
これは昨日から意識しすぎて思考がおかしくなってるみたいだな、恥ずかしい限りだ。
悠斗君は純粋な善意で俺を気遣ってくれているというのに俺がこんな邪な気持ちでいてはいけないよな。
俺はいつも通り心の中で土下座をした。
「それで、本当に今から病院へ行くのですか? なんなら病院まで送り届けますけど…………。」
「いやいや、今開いてる病院なんて無いだろ…………。」
「…………え? けどさっき病院へ行くって…………。」
「あっ、ええっとそれは…………。」
まずいな、そういえばそんなこと言ってたっけ。
くっ、一瞬を乗り切ろうと口走った事があだとなったか…………。
正直に本当の事を話してしまえば俺がチャラ男では無いということがバレてしまうだろうし、かと言ってそのまま病院に行くということにしていては本当に連れていかれてしまいそうだ。
こうなったらこの方法しかないな…………!
俺は悠斗君の後ろの空を指さして叫んだ。
「ゆ、UFOだ!」
よし、これで悠斗君はUFOを探すために後ろを向くはずだ!
今のうちに逃げ…………。
俺が走りさろうとしていると、びっくりした事に悠斗君はUFOには目もくれずに俺の手をガシッと握った。
「…………はじめ君、そんな古典的な事に引っかかるはずないでしょ…………僕に世話になるのは嫌かもしれませんが、体調が悪いなら無理しないでくださいよ。」
「…………。」
や、やめてくれ、そんな純粋な眼で俺を見つめないでくれ!
悠斗君は俺が体調が悪いと信じているからか、俺の事を心配してくれているが、今の俺の体調は特に悪い所など無いんだ。
だからこそこのまま連れていかれても困る。
連れていかれても連れていかれなくとももう俺がこのまま学校に行くという選択肢は無いみたいだ。
学校にいけばまた悠斗君に病院に連れていかれそうになるだろうし、いかなければいかなければで悠斗君に俺がチャラ男では無いということがバレてしまう。
はぁ、仕方ない、今日は学校を休むしか無さそうだ。
俺は悠斗君の手を振りほどく。
「ちょ、待ってください!」
悠斗君はそう叫び俺を呼び止めるが、俺は全速力で悠斗君から逃げる。
これで悠斗君は俺の事を仮病を使って学校をサボったチャラ男と言った風に思うはずだ。
学校の出席日数が減りすぎてしまえば卒業も怪しくなってしまうが、この程度ならまだまだ大丈夫なはずだ。
言っても俺は本州の制度しか知らないが、北海道だからといって1回学校を休んだくらいなら大丈夫なはずだ。
俺は専門学校に進学する予定だし、少なくとも卒業さえ出来ればいい。
だからといって勉学を疎かにしていいという訳では無いがな。
俺はしばらく走って後ろを振り返る。
うん、誰も着いてきていない。
悠斗君なら追いかけてくるかとも思ったが、これだけ走れば流石に諦めたようだ。
俺は火照った体を冷ますために服を少しはだけさせる。
北海道の空気は本州のこの時期とは違いかなり冷たい。
俺はその空気を感じながら家へと歩いていった。
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