第5話



学校を休んだ翌日、俺は学校に行くか悩んでいた。


このままだと確実に悠斗君の事を意識してしまうため、できる限り悠斗君と話したくなかった。


今この状況ではどうやっても悠斗君と話してしまえば何かぼろが出てしまいそうだ。


チャラ男じゃないのがバレるかもしれないし、俺が読んでいる本の事がバレれば確実に少し距離を取られてしまう。


それは避けたい。


だからといって学校に行かないというのは本末転倒だ。


新しい自分になって学校生活を謳歌するのが目標なのにあろう事かその学校生活を捨てるなんて出来ない。


はぁ、諦めて学校に行くか…………。


俺は事前に用意していた持ち物をそのまま背負って学校へとゆっくりと歩いていく。


ある程度バレないところをゆっくりと歩いていれば誰にもバレないはずだ。


ここら辺は元々住んでいたところよりも自然が豊かなので登校中にそういったものを眺めるのもなかなかに乙なものだ。


ちょうど今は紅葉の季節で、登校中に見れる樹木も色付いてきていた。


都会ではせいぜい街路樹の紅葉しか見れなかったが、今では少し逸れた道を歩いていれば森のような場所を通ることが出来るため、よくこの道を通っている。


ここら辺に人が来ている事は少ないので、1人静かに北海道の自然を感じる事が出来る。


そう、この赤や黄色に染まった葉とキラキラと煌めく空、ヒラヒラと舞う落ち葉にうちの高校の制服をきちんと着こなした男の子。


…………ん?


待て待て、何か見てはいけないものを見た気がする。


うん、そうだ、今のは見間違いだ、とりあえず来た道を引き返そう、それがいい。


俺は踵を返して家に戻ろうとする。



「…………あれ? はじめ君?」



俺の背後から聞き馴染みのある声が聞こえてくる。


俺はその声を無視してつかつかと歩いていく。



「ちょ、待って、無視しないで!」


「あー、あー、紅葉が綺麗だなー。」



俺は耳を塞いでそのまま足早にこの場を去ろうとする。


しかし、気がつくと俺は悠斗君に回り込まれてしまっていた。



「待ってください! なんでこんな時間に? いつも遅刻ギリギリで学校に来るのに…………。」



ま、まずい!


このままでは俺がチャラ男では無い事がバレてしまう!?


何とか誤魔化さなくては…………。



「あぁ、えっと、これから病院で…………。」


「…………こんな時間に空いてる病院なんて無いですよ?」



確かにそうだよな。


今は朝の七時だ、今の時間空いてる病院なんてどこにも無い。



「もしかして…………。」



くっ、やっぱりバレてしまったか!?


やはり元々チャラ男じゃない人間チャラ男を演じるのは無理があるのか…………。


こうなったら素直に打ち明けた方がいいのか?



「だ、騙すつもりは…………。」


「もしかして…………サボりですね!?」


「…………え?」


「誰にも見つからない早い時間にどこかに行ってサボろうってい魂胆ですね!? 騙されませんよ!?」


「えっと、何言ってるんだ?」



あれ、まさかまだバレてないのか?


それなら良かった、もう少しで自らバラしてしまうところだった。


俺は胸を撫で下ろす。



「…………あれ、どうかしましたか?」


「え、あぁうん、大丈夫だ。」



少し冷静になった頭が再びぐるぐると回り出す。


あれ、もしかしてこの状況って非常にまずいのでは?


こんな雰囲気のいい所に2人きりでいるなんて、何だか悪い事をしてるみたいでドキドキしてくる。


特に悠斗君はあの本を読んで以来常に意識してしまうため会わないようにしていたのにも関わらずこんな風にばったりと出くわしてしまったため、俺の頭はプチパニック状態に陥っていた。


何だかこの雰囲気の性で悠斗君の顔が煌めいて見えるし、あの本と重なって何だか色っぽく見える。


もう嫌だ、早く帰りたい。


俺が何とか逃げようとしていると、悠斗君が俺の事を心配そうに見てくる。



「…………体調が悪いというのは本当みたいですね、顔が真っ赤ですよ? 熱でもあるんでしょうか?」


「えっ、いや、大丈夫だよ? もう熱は下がってるはずだから…………。」


「本当ですか?」



悠斗君は俺の事を訝しげに見詰めてくる。


うぅ、そんなに見詰められたら更に意識してしまうじゃないか、よく見たら目もめちゃくちゃ綺麗だし肌もキメ細やかですべすべしてそうだし…………。


俺は悠斗君とは対照的に悠斗君の事を直視出来ずに視線を逸らした。



「あっ!? 目が泳いでますよ? やっぱり体調悪いんですよね!?」


「いや、本当に大丈夫だから気にしないでくれ!」



俺は悠斗君を突き放すような態度をとる。


悠斗君が心配してくれているのは分かっているため少しいたたまれない気持ちになった。



「…………ちょっと失礼しますね。」



悠斗君はそういうとずいっと俺の方へと寄ってきた。



「ちょ、何して…………。」


「動かないで。」



悠斗君は俺の目の前まで来ると、手を真上にあげて俺の頭をガシッと掴んだ。


その瞬間俺の頭がパンクしたのを感じた。


そして思考が停止したまま俺の頭は悠斗君のその綺麗な顔へと近づいて行く。


その瞬間、俺の頭の中で1つのシーンが流れてくる。



銀次と唯斗のキスシーンだ。





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