第4話
翌週の月曜日、またぎりぎりの時間に教室に入る。
クラスメイトは様々な反応を見せている。
その中でも悠斗君は少しムッとしたような顔で俺を見つめていた。
そりゃそうだ、直すと言っていたのに結局何も直さずに投稿してきたのだ、そんな表情をされたっておかしくない。
それどころかもっとカンカンに怒っても良いくらいだ。
本当に申し訳ないが、これからも俺はこの格好を直すことは出来ない。
どうせ直そうとしてもさらに奇抜な格好にさせられるだけだ、それなら地味に気に入っているこの格好を続けた方が良いはずだ。
だからこそ悠斗君には迷惑をかけるが、何とか諦めるまで逃げ続けるつもりだ。
今日も放課後になると悠斗君は俺の元へ向かってくる。
「はじめ君、先週ちゃんと直してくるって言いましたよね? 何処を直したんですか?」
「えーっと、直してません。」
悠斗君のその圧に少し気圧されて素の俺が出てしまいそうになるが、何とか気を強く持ってチャラ男の演技を続ける。
「ま、まぁ、もうちょっと待ってくれよ! 3年くらいさ!」
「3年って、もう卒業してるじゃないですか…………。」
悠斗君はそういうと呆れた顔で腕を組む。
ごもっともです、本当にごめんなさい。
「はぁ、本当にしょうがないですね…………このままこんな格好を続けるんだったら、
「うぇっ!? お仕置!? ちょ、逆だろ!」
普通生徒会長は不良少年にお仕置されるもので、不良少年が生徒会長にお仕置されるということは無いはずだ。
なのに逆に生徒会長がお仕置って…………。
って、まて、俺は何を考えてるんだ?
それはあくまで漫画の中の話で、現実世界での俺の悠斗君との話じゃ無いだろ!?
あぁ、もう、昨日ちょっとあの漫画が俺と悠斗君の関係とちょっと似てるなと考えてしまってから何だかその考えが頭から抜け切っていないみたいだ。
このままではいつか何か良くない事が起こってしまうかもしれない、早く何とかしなくては!
俺のその発言に悠斗君も怪訝そうな顔をしている。
「…………逆?」
「あ、あぁ、そう、今から逆ギレしちゃうぞって…………。」
「…………は?」
「ああっと、今から用事があるんだ! また今度な!」
「あっ、ちょっと!」
あぁ、もう、ダメだ。
テンパりまくってなんかおかしなことを口走ってしまっている。
悠斗君も明らかに混乱してるし、俺が逆ギレすると聞いて何だか怒気を強めている。
俺は耐えきれなくなってこの場から逃げ出した。
俺は帰りの道を全力ダッシュする。
「煩悩退散煩悩退散煩悩退散煩悩退散煩悩退散煩悩退散煩悩退散煩悩退散!」
変な事は考えちゃだめだ!
現実と漫画を混同させるなど心が弱い証拠だ。
もっと心を強く持ってしっかりと現実を受け入れなくてはいけない。
そうだ、俺はチャラ男なんだ。
もっとなんというか女性と色んな関係を持っているような人間なはずだ。
…………まぁ、その女性の事を考えるとこんなチャラ男もどきのような人と関係を持つのは可哀想なので、俺は女性と関係を持つつもりは無い。
…………はっ!? だからと言って悠斗君と関係を持つつもりは無いぞ!?
不純異性交友は校則で禁止されているし…………いや、同性だから良いのか…………?
「いやっ!? そういう事じゃないだろ!? あぁ、もう嫌だァ!!」
俺は綺麗に金色に染った髪の毛を掻きむしりながら何度も何度も変な方向へと行きそうな思考をかき消す。
家に着くとその瞬間俺は自分のものを入れている棚から今まで出ていた何冊かの本を出す。
勿論件の本だ。
俺は1巻からその話を読み直す。
うん、やっぱり違う。
この漫画は俺達のことを描いてはいない。
読めば読むほどよく見たらうちの高校に似ているところが見つかったり、銀次と唯斗以外のキャラクターのモチーフが誰なのかが何となくわかったりするのはきっと気の所為だ。
そう、気の所為なはずだ。
「って、んなわけないだろ!?」
ちょっと待ってくれ、本当に俺と悠斗君が違うように描かれているだけでそれ以外はまんまうちの高校だこれ!
なんで今まで気づかなかったのだろうか。
今回で確証がもててしまった。
この漫画は確実に
俺は一読者としてすこし嬉しい気分にはなったが、それ以上に俺の現実に漫画が混ざりこんでくる感覚に絶望していた。
あぁ、もうこれ意識しないとか無理じゃない!?
だってこの漫画の中では俺と悠斗君はいかがわしい事を……………あぁ、ちがう、銀次と唯斗だった。
と、とにかく落ち着こう。
この際この漫画が俺達のことをモチーフにしているということは百歩譲って認めよう。
それはもう事実だ。
しかし、俺と悠斗君がこんな関係になる事は絶対にありえない。
大切な事だからもう一度言うが、絶対にありえない。
そう、だから俺は変に意識したりする必要も無いし、今まで通りチャラ男を続けていれば良いだけだ。
良いだけなんだ!
そんなことを考えていると、俺はそのまま日課の勉強もせずに布団に潜り込んで眠ってしまった。
次の日、俺は知恵熱を出して学校を休んだ。
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