第3話




家に帰った瞬間、俺は着ていた服をきちんとロッカーにしまい、ベッド(母の物)に飛び込んだ。


俺の母は仕事の関係で家には殆ど戻ってこないため、家の中の物は使い放題なのだ。



「あぁー! 今日も疲れた!」



俺の家はかなり防音に優れており、この家の中ならどれだけ叫んでも近所迷惑にはならないのだ。


ゴロゴロと布団を転がり、そのふかふかさを堪能する。


元々使っていた布団はこんなふわふわなものではなく、すべすべとした触り心地のものだった。


低品質なものでは無かったためそれの触り心地も良かったのだが、やはりこのふわふわには勝てない。


こっちに引っ越してきて良かったと思う理由の一つだ。


ひとしきりふわふわを堪能した俺は鞄の中から先程買った本を取り出した。


題名は『弱みを握られた生徒会長は不良少年に調教される』といったものだ。


表紙にはあられも無い姿になった長身のメガネ男子と金髪男子が描かれている。


そう、これは紛うことなきエロ本だ。


しかも俗に言うBL本と言うやつだ。


俺はベッドに寝転んだままそれを読み始める。


俺の顔は今もう酷い状況だろう。


とても人様には見せられないような顔をしているはずだ。


この本と俺が出会ったのは丁度俺が北海道に引っ越してきて3ヶ月ほどがたった頃だった。


俺の母は家に帰るとやたらと俺に話しかけてくるのだが、ある日この本の1巻目を渡してきたのだ。


どうやら最近母の友人達の間で流行っているらしく、とても素晴らしい作品なので俺にも読んで欲しいということだった。


いきなりこんなえろ本を渡された俺は当然困惑したが、少々興味が湧いてしまい少し読んでみると瞬く間にこの作品の虜になってしまっていた。


今では定期的に販売されるこの本をそういう本を売っている店でこっそりと買って読むのが日々の楽しみになっていた。


母には読んでいることなどは隠しているためこそこそ読まなくてはいけないが、それをしながらでも読んでしまう。


なんなら学校に持っていってみんなに隠れて読んだりもしているくらいだ。


俺は特に男が好きなわけじゃないし、ごく普通の恋愛観を持っているのだが、何だかこの作品には共感ができてしまう。


ストーリーは不良少年である銀次がある時カンニングをしている生徒会長の唯斗を見かけ、弱みを握った銀次が唯斗に色んなことをしていくといった内容だった。


他の人にはしっかり者で真面目な唯斗が銀次の前でだけあられも無い姿になってしまうというなんとも言えない感覚に俺は悶えまくっていた。


他の作品を試しに見て見てもこんなような感覚にはならないのに、この作品だけがこのような感覚にさせてくれる。


今日はその本の新刊が出た日で俺は急いで買ってきて今読んでいるのだ。


さて、今回はどんな内容なのだろうか?


…………ふむふむ、今回は学校での話がメインなのか。


今回の唯斗は先生から生徒会長として不良少年である銀次に生活態度を何とかさせろと言われたためクラスで注意をするという話だった。


銀次も何かを察して唯斗をからかい、放課後にその事を出汁に色んなことをするという話だった。


なんというか…………とても良い。


特に唯斗は出来る限り銀次に関わりたくないとも思いつつも、注意することでお仕置をしてもらうのを心のどこかで楽しみにしている自分に戸惑うという描写が物凄く俺の心を揺さぶってくる。



そんな時、何故かうちの委員長である悠斗君の俺を注意する声が俺の頭で再生された。


そういえばこの漫画、うちの高校でも同じような事が起こってるよな。


本質は違うが傍から見れば完全に不良少年な俺と長身では無いが眼鏡をかけた生徒会長である悠斗、完全にこの漫画と同じような事が起っている。


…………って、ちょっと待て!?


そうなると俺と悠斗君は調教しあう関係という事になってしまうじゃないか!


俺は顔を真っ赤にしながら少しだけ浮かんできてしまう妄想をかき消す。


はぁ、俺は男は恋愛対象じゃないって言うのに、なんでこんなこと考えてしまうのだろうか。


俺に何があったところでどうでもいいのだが、悠斗君でそういうことを想像してしまうのは罪悪感が酷い。


ただでさえでも仕事を増やしたりと迷惑を掛けているって言うのに、これ以上悪い事は出来ない。


この漫画がどれだけ俺が体験している事と似ているからってそんな妄想なんかしちゃダメだ。


俺はまた心の中で悠斗君に土下座をする。



「はぁ、とりあえず勉強勉強! 煩悩退散!」



俺はふわふわの布団に別れを告げ、今日学校で習った範囲を復習する。


どれだけチャラ男になろうとも、勉強はしておかなくては行けないからな!


学校ではできる限りチャラ男っぽさを出すために提出物もわざと忘れたりしているためある程度の成績を取るためにはテストで点数を出さなくてはいけない。


そのためには勉強が必要だ。


世のチャラ男が大学にいけたりしているという事は、こうやって影で努力をしているという事なんだ。


真のチャラ男を目指して俺も頑張るぞ!


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